白川日銀総裁:金融緩和の長期化がもたらすリスクへの注意必要(3)

(第2段落にエコノミストのコメントを追加します)

【記者:日高正裕】

8月25日(ブルームバーグ):日本銀行の白川方明総裁は25日午後、大阪 市内で講演し、「米サブプライム(信用力の低い個人向け住宅)ローン問題だけ でなく、日本のバブルも含め、過去の金融活動や資産価格の過熱を振り返ると、 その多くは物価が安定し、低金利が持続した後に発生している」と述べた上で、 「金融緩和の長期化がもたらすリスクへの注意が必要」と述べた。

JPモルガン証券の菅野雅明調査部長は「日銀は先行きの景気回復見通し を維持することで、景気が回復した後は金利正常化路線に復するとのメッセー ジを出し続けているが、同時に、白川総裁が記者会見で『成長への復帰は先ず れする見込み』と発言しているように、実際に利上げできる環境が整うのはか なり先のこととなりそうだ」としている。

白川総裁は「現在は、景気の下振れリスク、物価の上振れリスクの双方に 注意が必要な局面にある。さらに、景気の下振れリスクが薄れる場合には、緩 和的な金融環境の長期化が経済・物価の振幅をもたらすリスクもある」と指摘。 「金融政策運営にあたっては、引き続き、先行きの経済・物価の見通しとその 蓋然(がいぜん)性、上下両方向のリスク要因を見極めた上で、それらに応じ て機動的に政策運営を行っていく」と語った。

白川総裁は景気の先行きについて、中心的なシナリオとしては「エネルギ ー・原材料価格高の影響と海外経済の減速に伴う輸出の増勢鈍化などから、当 面、停滞を続ける可能性が高い」としながらも、「日本経済が深い調整に陥る可 能性は小さい」と述べた。

白川総裁はこうした見通しの背景として、①設備、雇用、債務の3つの過 剰が解消されており、景気の下振れをもたらすショックに対する日本経済の頑 健性が高くなっている②サブプライム問題による日本の金融機関の損失は欧米 に比べ限定的であり、金融市場も安定している③建設・不動産や中小企業では 資金繰りが厳しさを増しつつあり、注意が必要だが、日本の金融環境は全体と して緩和的であり、引き続き企業活動を下支えする―と指摘した。

景気は下振れ、物価は上振れリスク意識

物価の先行きについては「消費者物価は当面、これまで上昇した輸入価格 の転嫁の動きが続き、しばらくはやや上昇率を高めるとみられる」としながら も、「その後は国際商品市況の上昇が緩やかとなり、価格引き上げの動きが一巡 するにつれて、徐々に上昇率が低下すると予想される」と語った。

白川総裁は景気面でのリスクについては「国際金融資本市場は当面不安定 な状態が続くと見込まれ、世界経済には下振れリスクがある。国内でもエネル ギー・原材料価格高による所得の海外流出によって、内需が下振れるリスクが ある」と指摘。「日本経済は設備や雇用面で調整圧力を抱えていないとはいえ、 景気の面では下振れリスクを意識している」と語った。

物価面でのリスクについては「上振れリスクの方を意識している」と指摘。 「エネルギー・原材料価格は、供給制約に加え、新興国などを中心とする世界 的な需要の増加を背景に、長期にわたって上昇している。従って、こうした上 昇を一時的と考えるわけにはいかない」と述べた。

2次的効果にも注意する必要

白川総裁はさらに、「このようなエネルギー・原材料価格のすう勢に加え、 わが国ではしばらく経験してこなかった物価上昇率となっているだけに、今後、 家計のインフレ予想や企業の価格設定行動が変化し、(原油価格上昇に伴って石 油製品以外の財・サービスの価格が上昇する)2次的効果が発生するリスクに も注意する必要がある」と述べた。

白川総裁はまた「国際金融資本市場が不安定な状況が続くほか、さまざま な不確実性が高い下では、国内金融市場の安定をしっかり確保していくことが、 私ども中央銀行にとって、大事な課題」と述べた。