【米経済コラム】労働コストの落ち着きでインフレはピーク-Jベリー

今年の夏、米国のインフレ率は過去四半世 紀以上で最も高い水準に達した。良いニュースは、物価上昇の問題が恐らく最 悪期を脱したことだ。

原油や食料など商品相場の急騰を受けて、7月の消費者物価指数(CPI) は前年同月比で5.6%上昇した。ただ原油やトウモロコシ、銅など商品相場の多 くがすでに下げに転じていることから、前月比ベースのCPIの伸びは落ち着 きを取り戻すだろう。

悪いニュースは、インフレ率の低下には時間がかかることだ。企業の多く がコスト増加分を消費者に転嫁しようとしているためだ。例えば、バージニア 州とニューハンプシャー州の電力会社は最近、燃料コスト拡大に対応して電気 料金を値上げする計画が当局に承認された。

勇気付けられる事実は、インフレ高騰に伴う賃金スパイラルが見られてい ないことだ。多くの企業は生産性を高めることで、労働コストの増加分の大半 を相殺した。

インフレ調整ベースで賃金が低下した労働者にとっては、こうした状況も 決して喜ばしいものではないが、それでも賃金の低下分の一部は、ガソリン価 格の低下が補ってくれている。

米エネルギー情報局(EAI)によると、ガソリン価格(全グレードの平 均)は8月18日までの5週間で1ガロン当たり37セント(8.9%)下落し、3.79 ドルとなった。同じ期間、ディーゼル油価格は同55セント(ほぼ12%)安の

4.22ドルと、さらに大幅な下げだった。

CPI、PCE価格指数

労働省が来月発表する8月のCPIは、前年同月比ベースの上昇率が7月 をさらに上回る可能性がある。CPI全体に占める自動車燃料の割合は5%に すぎないため、自動車燃料価格が低下しても8月のCPIの低下につながる可 能性は低い。

それでも商品相場の上昇が永遠に続くことはないという見通しを基に物価 上昇ペースの鈍化を予想している連邦準備制度理事会(FRB)にとって、商 品相場の落ち着きは良いニュースだ。

FRBがCPI以上に注目しているのは、個人消費支出(PCE)物価指 数。CPIより対象項目が多いためだ。6月24、25日の連邦公開市場委員会(F OMC)では、当局者の大半が今年のPCE物価指数の伸び率は3.8-4.2%に なり、来年には2-2.3%に低下するとの見通しを示した。

FRBは金利政策を策定する上では、食料とエネルギーを除いたコアPC E物価指数をより重要視している。当局者によると、今年の伸び率は2.2-2.4% となり、来年は2-2.2%に低下する見込みだ。

FRBにとって重要なことは、総合CPI上昇率の低下またはコアCPI 上昇率の上昇によって2つの上昇率が近づくかどうかだ。

欧州中央銀行(ECB)やイングランド銀など中銀の一部は、コアインフ レ率ではなく、総合インフレ率を政策目標に採用している。こうした中銀の当 局者の間には、FRBがコアインフレ率を重要視していることに対する批判の 声もある。

商品相場

商品相場は上昇が止まっただけではなく、下落し始めた。欧米の経済成長 見通しが弱く、ほかの地域でも減速が見られれば、商品相場が急反発する可能 性は低いだろう。

今年上期は生産性の伸びが力強かった。下期の成長鈍化は、生産性の伸び の縮小につながる可能性が高いが、まったく伸びないということにはならない。

米国はインフレの問題を抱えているが、世界のほかの地域ほどひどい状態 にはない。欧州のインフレ率は現在、米国より低いが、賃上げ要求によって手 に負えないほどインフレが加速する可能性はある。

新興市場が直面する問題は、それ以上にかなりひどい。新興市場では、食 料やエネルギーが家計に占める割合が工業国を大幅に上回っているが、中銀は インフレ抑制に必要なだけの利上げをまだ実施していない。

高まるインフレ圧力

国際通貨基金(IMF)は、先月発表した世界経済見通しで「新興・途上 国では、商品価格の高騰やトレンドを上回る成長、緩和的なマクロ経済政策に より、インフレ圧力がより速いペースで高まっている」との認識を示した。

IMFによると、これらの国々では、インフレ率が今年9.1%に達し、来年 も7.4%までの低下にとどまる見通しだ。

米国のインフレ見通しは改善したが、悪化の可能性は依然として残ってい る。たとえ悪化しなかったとしても、現行のフェデラルファンド(FF)金利 誘導目標(2%)は低過ぎるため、この水準に無期限に据え置くことはできな い。

ミネアポリス連銀のスターン総裁は20日のインタビューで、原油価格の下 落に伴い総合的なインフレ指数は低下に向かうと考えられるため、FOMCは FF金利誘導目標の変更を「辛抱強く」検討することが可能だと述べた。

彼の見方が正しいことに期待しよう。 (ジョン・ベリー)

(ジョン・ベリー氏は、ブルームバーグ・ニュースのコラムニストです。 このコラムの内容は、同氏自身の見解です)