白川日銀総裁:景気は大きく落ち込まないが、成長復帰ずれ込み(5)

(10段落目以降に追加します。主な一問一答は発言要旨をご覧ください)

【記者:日高正裕】

8月19日(ブルームバーグ):日本銀行の白川方明総裁は19日の定例会見 で、同日開いた金融政策決定会合で足元の景気判断を「停滞している」と下方 修正したことについて「経済が大きく落ち込む可能性は小さい」としながらも、 成長経路に復するタイミングについて「足元が停滞している分、先ずれしてい る」と述べ、経済が回復に向かう時期がずれ込んでいるとの認識を示した。

白川総裁は日本経済の現状について「エネルギー・原材料価格高や輸出の 増勢鈍化などを背景に停滞している。交易条件の悪化による所得形成の弱まり などから、設備投資は横ばいとなってきているほか、個人消費は弱めの動きと なっている」と指摘。「4-6月の実質国内総生産(GDP)も1-3月のうる う年要因の反動があるとは言え、こうした動きを裏付けている」と語った。

景気の先行きについては「当面停滞を続ける可能性が高いが、設備、雇用 面での過剰を抱えているわけではないため、国際商品市況高が一服し、海外経 済も減速局面を脱するにつれて、次第に緩やかな成長経路に復していく」との 見通しを示した。ただ、「景気については下振れリスク、物価については上振れ リスク、双方に注意が必要な局面だ」と語った。

原油相場など国際商品市況が最近反落していることについては「この傾向 が定着するかどうかはまだ不透明だ」と指摘した。原油価格下落の影響につい ては「それだけを取り出してみると交易条件の悪化を緩和するので、日本の景 気にとってプラス」と述べる一方で、「足元の原油価格の下落が世界経済の減速 によるものだとすれば、わが国の輸出を減少させることになる」と指摘。「そこ は両方の可能性を意識しながら経済をみていく」と述べた。

世界経済の減速は長い目見ればプラス

白川総裁はその上で、「あえて言うと、エネルギー・食料の価格が過去数年 間上がってきたということは、世界経済の成長が持続可能なスピードより若干 速かったということだと思う。そうであれば、世界経済の成長がもう少し減速 するということは、長い目で見れば世界経済の安定、それから日本経済にとっ てもプラスだ」と語った。

米国経済については「最近では、住宅ローンだけでなく、商業用不動産や 消費者ローンの延滞率が上昇するなど、金融システムと実体経済のマイナスの 相互作用が懸念される状態になってきている」と指摘。先行きについても「こ うした相互作用がいつ、どのように収束するのかがポイント」とした上で、「な お帰すうが見えない状況にあり、引き続き不確実性が高い」と述べた。

国内の金融環境については「中小企業、特に零細企業については資金繰り が厳しい方向に向かっていることは認識している」としながらも、「企業金融を めぐる情勢は、全体としては緩和的な状況が維持されているし、金融機関もか つてと異なり、自己資本が制約となって貸し出しが伸ばせないという状況では ない」と述べた。

前回の「停滞」局面とは異なる

日銀が「停滞」という表現を使ったのは、消費税率引き上げやアジア通貨 危機、大手金融機関の破たんによる金融システム不安の高まりで景気が後退局 面にあった1997年から98年にかけて。白川総裁は「90年代と2000年代初頭を 考えてみると、設備、在庫、雇用、それから債務の面で日本経済は大きな過剰 を抱えていた。その中でマイナスのショックが起こると、それが幾重にも増幅 されていき、深く景気が落ち込んでいくことになりやすかった」と述べた。

白川総裁はその上で、現在の日本経済について「設備についても雇用につ いても、調整圧力を抱えていない」と指摘。「あえて言うと、在庫が少し足元で 増えているが、この在庫も大きな調整圧力を抱えているわけではない。そうい う意味で、景気が大きく落ち込む可能性が高いかと言うと、その可能性は小さ いと現状では考えている」と語った。

白川総裁は一方で、日本経済が「停滞」局面を経て成長経路に復する時期 については「私が今日の会合での議論を踏まえて受けた印象で言うと、多分、 最終的に経済が回復してくる時期のイメージは、従来より多少、足元が停滞し ている分、先ずれしているということであったかなと思う」と述べた。

2次的波及効果は発生してない

国内のコア消費者物価(生鮮食品を除く)上昇率については「今は2%間 近になり、来月発表される数字は2%台に乗って、しばらく2%台で推移する という見通しがある」とした上で、「これは従来なかったことで、やはり注意が 必要だ」と述べた。一方で、先行きについては「最終的にはエネルギー・原材 料価格の上昇がずっと続くという強い仮定を置かなければ、やがて前年比で見 て上昇率も下がっていく」と語った。

エネルギー・原材料価格や食料品価格の上昇が2次的なインフレの加速に つながる物価上昇の2次的波及効果(セカンド・ラウンド・エフェクト)につ いては「現在、発生しているとは判断していない」と語った。白川総裁はまた、 日本経済が大きく落ち込むと同時に、物価が大幅に上昇するスタグフレーショ ンに陥る可能性についても「高いとは思っていない」と語った。

日銀は19日午後、同日開いた金融政策決定会合で政策金利を「0.5%前後」 に維持する方針を全員一致で決めた。日銀は会合後の声明で、足元の景気は「停 滞している」として、2カ月連続で情勢判断を下方修正した。先行きについて は「次第に緩やかな成長経路に復していく」として、成長復帰の基本シナリオ は維持した。

政策金利は0.75%?

白川総裁は会見の冒頭で、「本日の金融政策決定会合で、無担保コールレー ト(オーバーナイト物)を0.75%前後で推移するよう促すという、これまでの 金融市場調節方針を維持することを全員一致で決定した」と発言。事務方から 注意喚起され、直ちに「0.75%前後」を「0.5%前後」に訂正する場面があった。

会見の最後に「0.25%ではなく、0.75%に言い間違え、ご自身はあまり違 和感がなさそうだった」と突っ込まれた白川総裁。「私の全くの不注意であって、

0.5%と言うべきところを言い間違えただけであり、何か自分自身の深層心理が そこに投影されたということは全くない。本当に大事なことを言い間違えて、 大変申し訳ない」と平身低頭だった。

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