「日銀サーベイ」金利予想、経済・物価情勢、金融政策の展望コメント

【記者:日高正裕】

8月15日(ブルームバーグ):ブルームバーグ・ニュースは18、19の両日 開かれる日銀の金融政策決定会合を前に、有力「日銀ウオッチャー」17人に内 外の経済・物価情勢、金融政策の展望を聞いた。質問内容は次の通り。アンケー ト回答期限は14日午前8時。「日銀サーベイ」エコノミストの予想まとめ記事 は15日朝に同時送信しています。

1)今回の会合で予想される政策、2)日銀が政策金利を0.25%に「引き 下げる」時期、3)日銀が政策金利を0.75%に「引き上げる」時期、4)~ 11)政策金利の予想水準、12)経済・物価情勢、13)金融政策(氏名50音順、 カッコは前回回答)

●三菱UFJ証券の石井純チーフ債券ストラテジスト 1)今回会合 :現状維持 2)利下げ時期 :想定せず(同) 3)利上げ時期 :09年7-9月(同) 4)08年9月末 :0.50%(同) 5)08年12月末 :0.50%(同) 6)09年3月末 :0.50%(同) 7)09年6月末 :0.50%(同) 8)09年9月末 :0.75%(同) 9)09年12月末 :0.75%(同) 10)10年3月末 :0.75%(同) 11)10年6月末 :1.00%(同)

12)わが国経済は景気後退局面にある。生産・所得・支出の好循環メカニズム は原材料・エネルギー高と海外経済の減速を受けて行き詰まっている。一方、景 気底入れは来年度に入ってから。「3つの過剰」問題などによる企業部門の調整 圧力が比較的弱いことから、後退局面は長引かない。もっとも、需要のけん引役 が見当たらないので、Ⅴ字型の景気回復は難しい。

物価動向はコモフレーション(コモディティ・ インフレーション)とコア コア・ディスインフレという二極化状態が続く。商品市況は調整局面に入ったが、 高値波乱にとどまり、暴落は見込まれない。消費者物価指数(除く生鮮食品、コ アCPI)前年比上昇率は食料・エネルギー価格の値上げ続行の影響を受け、7 -9月に2.4%まで加速し、その後も2%辺りに高止まる。コアコアCPIは負 の需要ショックが起きかねない情勢下、ゼロ%近傍での超低空飛行を維持する。

米国経済は事実上の景気後退局面が続き、戻し減税効果がはく落する今年後 半、正念場を迎える。景気底打ちは来年に入ってから。要因は①政策総動員の効 果(特に昨秋からの急ピッチかつ大幅な金融緩和の累積効果)②資産デフレ圧力 の緩和(住宅価格の前年比下落率が縮小傾向へ)③循環的な景気回復力。ただし、 住宅価格の下落基調に伴うバランスシート調整圧力(→家計、金融機関)の残存 により潜在成長率を回復できず、「なべ底」不況の様相が続く。

米物価動向は日本と同様の二極化で、全面的なインフレにはならない。要注 意は家計のインフレ期待の高まりだが、商品市況が調整局面入りしたこと、およ び過度なドル安不安が後退したことによって回避される。

13)景気下振れリスクと物価上振れリスクが拮抗(きっこう)する中、「経済・ 物価の見通しとその蓋然(がいぜん)性、上下両方向のリスク要因を丹念に点検 しながら、それらに応じて機動的に金融政策運営を行っていく」(白川総裁)。 日銀は景気動向について、下振れリスクが高まってきたとみて情勢判断を下方修 正する見込み。一方、コアCPIは上述の通り、これから「物価安定の理解」の 上限を超える2.0%台へと上振れして推移する見通し。

従って、景気と物価のリスクバランスは“拡大均衡”を保つ。そうだとする と、日銀は当面、景気配慮の利下げ、インフレ警戒の利上げのいずれにも動けそ うにない。なお、国際商品市況の反落で川上インフレ圧力の低下が期待されてい るが、白川総裁は「世界経済減速に伴う需給緩和によるものか、金融的要因のは く落か、一次的な振れか、慎重にみていく必要がある」と述べ(8月7日)、警 戒姿勢を解いていない。

●大和証券SMBCの岩下真理チーフマーケットエコノミスト 1)今回会合 :現状維持 2)利下げ時期 :利下げなし(同) 3)利上げ時期 :09年7-9月以降(09年1-3月以降) 4)08年9月末 :0.50%(同) 5)08年12月末 :0.50%(同) 6)09年3月末 :0.50%(0.75%) 7)09年6月末 :0.50%(0.75%) 8)09年9月末 :0.75%(同) 9)09年12月末 :0.75%(同) 10)10年3月末 :1.00%(同) 11)10年6月末 :1.00%(同)

12)海外要因には以下の霧がかかっている。①米国経済の持ち直し時期は年内 無理で、後ずれする可能性が高まる②欧米での信用不安はまだ払しょくできない ③原油価格の潮目は変化したように見えるが、まだ見極めが必要④新興国経済の 減速(もしくは失速)への不安は、物価上昇に対する金融引き締め策により、以 前より時期が前倒しになったイメージ。

以上の霧を踏まえて、国内景気は生産動向等の6月分データから後退局面入 りが明確になった(景気の山は昨年10-12月を想定)。海外要因での下押し圧 力は弱まらず、先行きの回復時期は来春以降に後ずれとみている。企業面での在 庫、設備投資の過剰感がないことから、後退局面はそれほど長引かない(1年程 度)と判断しているが、米国経済の停滞長期化懸念と家計部門への弱さの波及に より、負の循環が長引くリスクが以前より増したのも事実。

国内景気の下り坂はそれほど長くないと思いながら、海外要因の霧は一向に 晴れず、国内の足場も悪くなっている。現在は下り坂の終点が見えず、不安な気 持ちで歩いている状態だ。企業部門の弱さは昨夏以降の官製不況に始まり、交易 条件の悪化が加わり、大企業と中小企業での二極化がより鮮明になった。地域格 差も拡大しており、負の圧力が今年になって強まっている。これは金融政策では 食い止めることはできない。政府による迅速な対応が必要な部分と考える。

13)8月は政府が先んじて月例経済報告により景気後退入りを示唆したことか ら、日銀は8月の金融経済月報を書きやすいだろう。足元の判断は7月時の「さ らに減速している」から、8月は「停滞している」のような表現に修正されよう。 しかし、先行きの回復シナリオは時期の後ずれを既に示唆しており、方向性は変 えようがない。

白川総裁は景気下振れと物価の上振れの双方を見極める中立姿勢を示した。 来春までコアCPIベースでの2%台継続が見込まれ、実質所得の低下から消費 は当面厳しい時期となる。一方、企業収益の減少、中小企業の倒産等が相次ぐ中、 企業の人件費抑制の動きが続いており、賃金の上昇は考え難い。日本の物価高は エネルギー関連と食料品における相対価格の変化にとどまり、基調的な物価高で はなく、二次的影響にも至っていない。

それでも実質GDPが1%台あれば、過去のオイルショックの教訓を踏まえ、 予防的な利上げをすべきとの意見もあるが、現時点では4-6月期GDPの弱い 滑り出し、今後の輸出の弱さと消費の落ち込み懸念がある中で、08年度成長が 1%台を達成できるかも正直、自信が持てない。現在、下り坂にある国内景気に 持ち直しの兆しが見えるまで、日銀は利上げできないだろう。

一方、日銀は現状維持を続けることで、十分な金融緩和環境を提供しており、 利下げも必要ない。その点を毎回会合後の声明文により、日銀は根気よく丁寧に 説明すると思われる。改造内閣のメンバーは日銀に中立的な存在であり、日銀は 当面、丹念な分析に注力し見極め姿勢を続けると予想する。

●みずほ証券の上野泰也チーフマーケットエコノミスト 1)今回会合 :現状維持 2)利下げ時期 :利下げなし(同) 3)利上げ時期 :2010年1月以降(09年7月以降) 4)08年9月末 :0.50%(同) 5)08年12月末 :0.50%(同) 6)09年3月末 :0.50%(同) 7)09年6月末 :0.50%(同) 8)09年9月末 :0.50%(0.75%) 9)09年12月末 :0.50%(0.75%) 10)10年3月末 :0.75%(同) 11)10年6月末 :0.75%(同)

12)景気後退の主因は、拡大の原動力となってきた輸出が米住宅バブル崩壊を 起点にして変調したことにあるとみている。その後、賃金の伸び悩み・雇用情勢 悪化に「悪い物価上昇」が加わって個人消費の下振れ懸念が強まっており、内需 にも強い警戒が必要になってきた。このところの原油や穀物の先物価格急反落を 受けて、「悪い物価上昇」は今後ある程度弱まることになろう。

コアCPI前年同月比は09年度後半には0%に近づいていくとみている。 しかし、企業収益がマイナスに転じたことから、今度は名目賃金の落ち込みがき つくなる恐れがある。米国の住宅価格が下げ止まるなど、悪材料がとりあえず一 巡して景気が底入れするタイミングとしては、最も早いケースを想定する場合 09年7-9月ころになると考えているが、リスクは後ずれする方向にある。

13)様子見据え置きが長期化するだろう。米国経済の苦境と欧州・アジアへの 景気悪化波及などからみて、09年中の利上げも難しくなった。利下げがあると すれば、為替の円高ドル安が加速するケースくらいだが、足元で為替は日本の景 気後退も材料にしながら円安ドル高に動いており、利下げの可能性はむしろ低下 している。また、伊吹財務相・与謝野経済財政相のラインが日銀に利下げ圧力を かけるとも考え難い。

●東短リサーチの加藤出チーフエコノミスト 1)今回会合 :現状維持 2)利下げ時期 :当面なし(同) 3)利上げ時期 :09年10-12月(09年7-9月) 4)08年9月末 :0.50%(同) 5)08年12月末 :0.50%(同) 6)09年3月末 :0.50%(同) 7)09年6月末 :0.50%(同) 8)09年9月末 :0.50%(0.75%) 9)09年12月末 :0.75%(同) 10)10年3月末 :0.75%(1.00%) 11)10年6月末 :1.00%(同)

12)欧米経済は国際通貨基金(IMF)が指摘しているように、「マクロ経済 と市場の相互作用の懸念が高まっている」段階といえる。欧米金融機関の増資が 円滑に進まないと、彼らはレバレッジ解消や資産売却を進めなければならない。 それが実体経済を悪化させ、再び金融機関のバランスシートを悪化させるスパイ ラルを断ち切る必要があるが、米国では選挙前に政府・議会が大胆な政策を講じ る可能性は低そうだ。

世界的にコモディティ価格は反転下落しており、それが続けば日本でも秋以 降、ガソリンの小売価格が下がるだろう。しかし、他の品目では価格引き上げが しばらく続く可能性がある。また、雇用者報酬がマイナスに転じていることもあ って、消費は低迷状態が続きそうだ。

13)1970年代のスタグフレーション期に見られたような賃金と物価の上昇スパ イラルは生じていない。日銀はインフレ警戒を示しつつも、成長下振れリスクへ の警戒の方にウエイトをかけるだろう。このため当面利上げはないと思われる。 日銀は7月会合で景気底打ちの時期を後ずれさせたが、実際の悪化のスピードは 7月会合時点のイメージよりもやや速い。仮に8月会合で今年度、来年度の成長 率見通しを作成し直すならば、7月会合時点よりもやや下方修正されるだろう。

ただし、メインシナリオ(当面減速が続くものの、その後次第に緩やかな成 長経路に復していく)を支えている経済のメカニズムが変容したとは政策委員会 は考えていないと推測されるため、メインシナリオは維持されるだろう。主要中 央銀行による今後の流動性対策としては、外貨建て優良資産を担保に資金供給を 行うクロスボーダー流動性供給の準備の進展が注目される。

●JPモルガン証券の菅野雅明調査部長 1)今回会合 :現状維持 2)利下げ時期 :利下げ想定せず(同) 3)利上げ時期 :09年10-12月(09年6月) 4)08年9月末 :0.50%(同) 5)08年12月末 :0.50%(同) 6)09年3月末 :0.50%(同) 7)09年6月末 :0.50%(0.75%) 8)09年9月末 :0.50%(0.75%) 9)09年12月末 :0.75%(1.00%) 10)10年3月末 :0.75%(1.00%) 11)10年6月末 :1.00%(1.25%)

12)4-6月GDPは1-3月の大幅増の反動という面が含まれているにせよ、 内外需とも総崩れで、景気後退入りを確認するものだった。特に4-6月以降の 輸出環境の悪化は今後の鉱工業生産の減少を示唆している。足元、欧州景気の弱 さが顕著なほか、これまで相対的に世界景気を下支えしてきた新興市場国の需要 も減速傾向が目立ってきた。世界の鉱工業生産(各国の鉱工業生産をGDPで加 重平均)が4-6月に減少に転じたことが日本の輸出環境の悪化の背景だ。

先行きは、過去の景気後退局面とは異なり在庫の積み上がりが見られないこ と、企業の雇用・生産設備判断の過剰感が高まっていないことなどから判断する と、基本的には景気後退の底は深くならないと考えるが、米国経済が所得税減税 効果のはく落により08年後半に再び減速するとみられるほか、欧州経済も下方 リスクを強めている状況下、実体経済と金融システムの負の相乗作用が顕現化し ないとも限らない点には要注意だ。当面、景気下振れリスクに留意すべきだ。

今後とも原油価格が調整を続けると想定すると、CPIのうちエネルギー価 格(前年比)は7、8月にはピークアウトするが、食料品価格が押し上げ要因と して作用するため、コアCPIは11月まで2.0%を上回って推移する見込みだ。 CPI上昇率の低下が実感できるようになるのは09年入り後だろう。

13)日銀は6月鉱工業生産の弱さと7、8月生産予測指数の低下、さらには輸 出環境の悪化を考慮して、8月会合で景気先行き見通しをもう一段下方修正して くる可能性が高い。日銀が7月の中間評価で示した「08年度実質GDP見通し

1.2%」は既に実現困難になっているとみられることから、10月展望リポートで は08年度GDP見通しが再度下方修正されよう。

もっとも、日銀は「09年度の景気回復」という基本シナリオは維持する見 通しで、景気の落ち込みが一時的であるとの判断を踏襲する限り、利下げには至 らないだろう。当面「利下げも利上げもしない」現状維持スタンスを継続しよう。 従来は09年入り後の世界景気の回復見通しを前提に09年6月利上げを見込ん でいたが、新興市場国の景気減速と欧州景気の弱さが顕著になり、世界景気の回 復が先ずれしそうなことから、利上げ時期を09年10-12月に後ずれさせた。

●第一生命経済研究所の熊野英生主席エコノミスト 1)今回会合 :現状維持 2)利下げ時期 :当面なし(同) 3)利上げ時期 :09年7-9月(同) 4)08年9月末 :0.50%(同) 5)08年12月末 :0.50%(同) 6)09年3月末 :0.50%(同) 7)09年6月末 :0.50%(同) 8)09年9月末 :0.75%(同) 9)09年12月末 :0.75%(同) 10)10年3月末 :1.00%(同) 11)10年6月末 :1.00%(同)

12)4-6月のGDP一次速報では、08年度の見通しのゲタが▲0.8%ほどはげ 落ちる形になったので、中間評価の予測である1.2%(中央値)は大きく下がる だろう。企業物価は上方修正だが、景気判断は下振れがより大きい。

13)景気情勢から08年度中は動けそうもないことが明白になってきた。利上げ は早くても09年7-9月である。ただし、原油下落を契機に物価上昇圧力が消 えていけば、さらに後ずれもあり得る。

●BNPパリバ証券の河野龍太郎チーフエコノミスト 1)今回会合 :現状維持 2)利下げ時期 :利下げなし(同) 3)利上げ時期 :2010年4月以降(同) 4)08年9月末 :0.50%(同) 5)08年12月末 :0.50%(同) 6)09年3月末 :0.50%(同) 7)09年6月末 :0.50%(同) 8)09年9月末 :0.50%(同) 9)09年12月末 :0.50%(同) 10)10年3月末 :0.50%(同) 11)10年6月末 :0.75%(同)

12)08年4-6月の実質GDP成長率は前期比年率マイナス2.4%となった。 大方の予想通り、国内民間需要、公的需要、輸出いずれも低迷した。02年2月 から始まった今次景気拡大の最大のエンジンであった輸出は減少、減速トレンド 入りしたとみられる。景気動向指数や鉱工業生産の動向などから、07年10月を 山として既に景気後退局面入りしたと判断してきたが、政府も最近その可能性を 公式に認めた。GDP統計は後退局面にあることをあらためて示す内容だ。

内外需低迷の最大の原因はエネルギー・原材料価格高騰による資源国への所 得移転だ。1-3月に平均1バレル=98ドルだった原油価格は4-6月には平 均124ドルまで上昇した。日本から資源国への所得移転により、日本の国内民 間需要が大きく圧迫されている。コスト増に伴う収益低迷を受け、企業部門は昨 年から能力増強に慎重となっていたが、これまで堅調だった輸出が減速に転じた ことも加わり、設備投資は前期比マイナス0.2%と2四半期連続で減少した。

企業がコスト増を最終価格に転嫁し始めたため、海外への所得移転による悪 影響は、家計部門にも明確に及び始めた。今回、交易条件悪化による海外への所 得移転を示す交易損失(00年基準)は年率28.1兆円、GDP比5.0%まで膨ら んだ(1-3月は年率26.0兆円、GDP比4.6%)。所得移転はいわば日本が 資源国から課税されているようなものだが、消費税率1ポイント弱に相当する所 得移転が4-6月に新たに発生した。これでは内需が低迷するのも無理はない。

エネルギー・原材料価格上昇の一服で、7-9月には交易損失の拡大は止ま るとみられる(年率27.3兆円、GDP比4.8%と予想)。しかし、ここに来て 新たな問題が顕在化している。1-3月まで交易損失拡大による内需低迷を補っ てきた輸出が前期比マイナス2.3%と13四半期振りに減少した。日本同様、先 進国や多くの新興国でも資源国への所得移転で内需が低迷、そうした国々向けの 輸出が悪化している。

それでは今後何が起こるか。日本経済にとって内需の重しとなっていたエネ ルギー・原材料価格高が修正されれば、成長押し上げ要因となる。価格下落が続 けば一種の減税効果が期待できる。ただ、そうしたプラス効果が表れる前に、世 界経済の減速に伴う輸出悪化というマイナスの総需要ショックの波及が生じるリ スクが高い。輸出減速は一国の生産、所得、支出を抑制するため、輸入(=貿易 相手国にとっての輸出)を再び鈍化させる。

輸出減速による生産悪化を起点に、企業収益や雇用者所得が抑制され、設備 投資や個人消費・住宅投資が低迷する。さらに貿易乗数メカニズムを通じて、そ の悪影響が増幅され、各国の経済成長を抑制する。こうしたメカニズムは今後数 四半期続く可能性が高い。エネルギー・原材料価格の下落というプラスの価格シ ョック(=交易条件の改善)が総需要ショックをある程度相殺するとはいえ、当 初は、輸出減速による悪影響の方が大きいだろう。

価格ショックの影響は一定のラグを伴って現われるため、4-6月までのエ ネルギー・原材料価格上昇の悪影響はしばらく続く可能性が高い。実際、ここに 来て幅広い品目で値上げが始まっている。エネルギー・原材料価格高が修正され たとしても、実体経済が元の成長経路へすぐに復帰するわけではない。7-9月 はゼロ成長を予想している。来年前半までは潜在成長率を下回る低成長を余儀な くされるだろう。08年度は0.7%、09年度も1.1%の低成長を見込んでいる。

13)石油製品や食品価格の上昇の影響から、7月のコアCPI前年比は2.3%ま で上昇する。日銀が「中長期的な物価安定の理解」として掲げる0-2%(中心 値1%程度)の上限を上回る。しかし、上限を超えるとしても一時的であり、日 銀が政策的な対応をとるとは思われない。そもそも、この「物価安定の理解」は 短期的にインフレ率をレンジ内に抑え込むといった考え方ではない。

短期的にインフレ率を低下させようとすると、景気悪化を甘受しなくてはな らないが、日銀が目標とするのはあくまで中長期での持続的な物価の安定であり、 経済成長を犠牲にするとは思われない。日本のインフレ率が上昇するといっても、 諸外国に比べれば相当に低い。景気後退色の強まる中で利上げは予想されない。

●モルガン・スタンレー証券の佐藤健裕チーフエコノミスト 1)今回会合 :現状維持 2)利下げ時期 :09年4-6月(同) 3)利上げ時期 :2010年度以降(2010年以降) 4)08年9月末 :0.50%(同) 5)08年12月末 :0.50%(同) 6)09年3月末 :0.50%(同) 7)09年6月末 :0.25%(同) 8)09年9月末 :0.25%(同) 9)09年12月末 :0.50%(同) 10)10年3月末 :0.50%(同) 11)10年6月末 :0.50%(同)

12)世界経済の減速基調が足元鮮明だ。米国では減税や消費者信用の引き出し 効果から、08年前半はGDP上、景気後退を免れたが、08年10-12月から09 年1-3月は減税効果出尽くしと信用収縮の激化からGDP上も後退局面となる 見通し。

米国については先行きクレジット・イベントの頻度にも着目している。既に CP(コマーシャルペーパー)等直接金融による資金調達環境はタイトで、企業 は銀行のコミットメントラインに流動性の調達を頼っているが、デフォルトが多 発すれば商業銀行は同ラインの圧縮に乗り出す可能性があり、その場合はこれま で比較的健全さを保ってきた非金融部門に信用収縮の影響が及ぼう。

新興国もこれまでのマイルド・デカップリングが転じ、アジア中心にマイル ド・リカップリングに向かう見通し。アジアではエネルギー価格高を背景にイン ドを筆頭に生産活動が急減速しているほか、中国もオリンピック以降、エネルギ ーへの補助金削減を強化するとみられる。これらアジア諸国は補助金政策により エネルギー高騰に耐えてきたが、各国の財政事情を考慮すれば補助金政策はもは や持続可能でない。

こうした中、国内景気は07年10-12月を山として08年1-3月に後退局 面に入ったとみられる。戦後の景気循環によれば、いったん後退局面入りすると 底入れまでに平均16カ月要する(石油危機以降の平均は21カ月)。日本の景 気循環において景気の谷は年度後半、直近2回は1月に集中していることから類 推して、今回の景気後退は09年1-3月で底入れし、09年4-6月から回復基 調に転じることに期待したい。標準シナリオは来年1-3月までの景気後退だ。

こうした中、足元、原油市況が軟調に推移していること、また小麦の国際市 況の軟化により09年度の政府の小麦売渡価格再々引き上げを見込み難くなって いることから、物価は09年を中心に従来見通しより幾分下振れる見通し。それ でも09年のコアCPIは1%台半ばの伸びを維持すると見込む。これは電力・ ガス料金改定が輸入コストの変動に2四半期遅行し市況の変化が即座に反映され ないこと、またガソリン・灯油は小売価格の下方硬直性を想定しているため。

結論として、物価上昇下の景気後退という姿はたとえ原油価格の100ドル 割れでも変わらないだろう。

13)物価上昇下の景気後退で金融政策は手詰まり状態。原油価格は足元低下基 調だが、目先7月分の消費者物価は物価安定の理解の上限を超える見込み。ただ し、物価上昇の主因であるエネルギー・食料を除けば基調的な物価は引き続きゼ ロ近傍、かつマイナスに戻った単位労働コストの動き等を勘案すると、二次的な インフレを警戒すべき地合いではない。

こうした中、政府の景気判断下方修正に続き、日銀も8月月報で基調判断を 「減速」から「停滞」へ修正すると見込まれるが、政策金利ののりしろがわずか

0.5%しかない中、判断の下方修正が直ちに政策変更に結びつく公算は小さい。 政財界も今のところ追加景気対策への関心は高いが、利下げを求める空気はない。 もっとも、それも経済動向に加え、株価・為替といった市場環境次第だろう。

実際、日銀のイニシアチブで予防的な利下げに動くことはなくても、市場や 政財界の雰囲気に飲み込まれる形で受動的な利下げは依然あり得るとみている。 タイミングとしては、景気後退局面末期で恐らく景気が底打ちすると思われる 09年4-6月を有力視している。

●日興シティグループ証券の佐野一彦チーフストラテジスト 1)今回会合 :現状維持 2)利下げ時期 :利下げなし(同) 3)利上げ時期 :2010年以降(同) 4)08年9月末 :0.50%(同) 5)08年12月末 :0.50%(同) 6)09年3月末 :0.50%(同) 7)09年6月末 :0.50%(同) 8)09年9月末 :0.50%(同) 9)09年12月末 :0.50%(同) 10)10年3月末 :0.50%(同) 11)10年6月末 :0.50%(同)

12)前回指摘した通り、景気動向指数や法人企業統計などから景気後退期入り は必然だった。我が国の実質成長率は今年度1.1%、来年度1.0%と予想。世界 景気減速が低調な輸出に寄与、実質所得の鈍化などから設備投資、個人消費は低 迷しよう。コアCPIは原油・食料品価格の上昇を主因にいったん2.0%台半ば に達する公算。

米国景気は今年4-6月、7-9月こそ景気対策などから一時的に浮揚して も持続的回復にはつながらない。住宅部門はもとより個人消費、設備投資も減速 から後退の可能性が高い。実質成長率は今年が1.0%台後半、来年が1.0%台前 半にとどまる。欧州景気は政策金利の引き上げの直接的影響、ユーロ高止まり、 外需減速などから大きく落ち込む。ユーロ圏の実質成長率は今年が1.0%台前半、 来年は0.0%台後半まで低下すると予想している。

13)日銀は当面、景気の下振れリスクを警戒しよう。ただ景気後退に呼応し、 利下げといった判断には至らないと考えている。従って現行金融政策の維持が続 き、利上げの可能性が出てくるのも2010年度以降とみる。

●三菱UFJ証券景気循環研究所の嶋中雄二所長 1)今回会合 :現状維持 2)利下げ時期 :リスクシナリオで09年3月(回答なし) 3)利上げ時期 :09年10月(回答なし) 4)08年9月末 :0.50%(回答なし) 5)08年12月末 :0.50%(回答なし) 6)09年3月末 :0.50%(回答なし) 7)09年6月末 :0.50%(回答なし) 8)09年9月末 :0.50%(回答なし) 9)09年12月末 :0.75%(回答なし) 10)10年3月末 :1.00%(回答なし) 11)10年6月末 :1.25%(回答なし)

12)今回の景気後退は2つの段階を経て進行している。第一段階は07年2月以 降の総合HDI(内閣府・景気動向指数の先行・一致・遅行DIを合計して算出 したHDI。1970年7月のいざなぎ景気の山の判定に用いられた)の50%割れ 局面で、この時点で既に個人消費や住宅投資など国内需要は縮小し始めていた。 中小企業経営者や消費者のマインドの悪化はこのころから顕著になり始めており、 その意味では07年2月の日銀の利上げは問題があったと考えられる。

しかし、ここから約9カ月間は米欧経済の堅調さと中国経済の好調ぶりに支 えられて輸出が伸び、鉱工業生産を中心に景気の拡張そのものは続いたが、その 後輸出が折れてくると、外需に支えられていた景気が完全に崩れ、一致指数のH DIが50%割れした07年12月以降、政府でさえ事実上認めるような景気後退 期に突入したといえる。

当研究所が発表しているMUS先行指数(MUS-LI)日本景気版・累積 DIの長期先行系列(景気に平均9カ月先行)が直近6月時点でなお底入れが確 認されていないことを考えると、今後当分の間は景気後退が進行し、経済活動水 準の低下は09年3月ころまで続くと見ざるを得ない。これに伴い08年度の実 質GDP成長率は1.0%に減速しよう。

09年度は米欧経済の回復や景気対策の効果等もあって、内外需ともに緩や かに回復すると予想しているが、10年度初めに消費税の2%引き上げを想定し ているために、09年度末を中心に駆け込み需要による内需の盛り上がりが見込 まれ、実質成長率は1.7%に達しよう。

コアCPIは08年7-9月には平均で前年比2.0%に達するが、原油価格 の前年比が既に4-6月にピークを付けたとみられるため、10-12月には消費 者物価の鈍化も始まってくるだろう。08年度のコアCPIは1.6%、09年度は

1.1%とみている。

13)インフレファイターである欧州中央銀行(ECB)が利下げするような欧 米経済の一段の大幅悪化やドル・株価の急落が起こった場合(リスクシナリオ) は別として、日銀は景気・物価を両にらみしながら、どちらかといえば景気の下 振れリスクにより重点を置いて金融政策運営をしていこうが、利下げはメインシ ナリオには据えていない。

日銀は景気回復による短観業況判断DIの上昇基調を確認し、09年7月に ECB、8月に米連邦準備制度理事会(FRB)と欧米の利上げ開始を横目で見 ながら、10月に利上げを開始。消費税引き上げ前の駆け込み需要で内需が一時 的に盛り上がるタイミングである10年1月に再利上げに踏み切るだろう。

●HSBC証券の白石誠司チーフエコノミスト 1)今回会合 :現状維持 2)利下げ時期 :回答なし(同) 3)利上げ時期 :2010年度以降(同) 4)08年9月末 :0.50%(同) 5)08年12月末 :0.50%(同) 6)09年3月末 :0.50%(同) 7)09年6月末 :0.50%(同) 8)09年9月末 :0.50%(同) 9)09年12月末 :0.50%(同) 10)10年3月末 :0.50%(同) 11)10年6月末 :0.50%(回答なし)

12)四半期ベースでは昨年10-12月がピークで、今年1-3月以降は後退局面 入りしている。最近、米国のみならず、より広範な地域で景気・輸出の鈍化傾向 が目立ってきており、リカップリングシナリオの蓋然性は明らかに高まってきて いる。足元の原油・商品市況の下落はプレミアムはく落というよりは、世界経済 鈍化の傍証である可能性があり、その内需下支え効果に過度に期待すると景気ト レンドを見誤るリスクが高まろう。

過去の一次産品高の価格転嫁によるインフレ高位安定リスクは秋口にかけて 残るが、需給ギャップ面、原油・商品市況面から09年度インフレ率超低位安定 の可能性は高まってきている。

13)一次産品インフレによる二次的効果は杞憂(きゆう)であり、日銀の重心 は時間の経過とともに景気ダウンサイドリスク警戒により明確にシフトしていく だろう。ただ、①当面インフレ率が高止まる可能性が高い②利下げの効果が限定 的と考えられる③利下げに対する政治圧力がほとんどない-点などを踏まえると、 利下げ実現の可能性はまださほど高くないと考えられる。

利下げが比較的早期に実現するとしたら、再度の円高進行がそのカタリスト となる可能性はある。また、世界同時不況の可能性に対応する現象として、利上 げをする中銀が1つもなくなるかどうかにも注目しておくべきだろう。

●クレディ・スイス証券の白川浩道チーフエコノミスト 1)今回会合 :現状維持 2)利下げ時期 :利下げ想定せず(同) 3)利上げ時期 :09年7-9月(09年4-6月) 4)08年9月末 :0.50%(同) 5)08年12月末 :0.50%(同) 6)09年3月末 :0.50%(同) 7)09年6月末 :0.50%(0.75%) 8)09年9月末 :0.75%(同) 9)09年12月末 :0.75%(1.00%) 10)10年3月末 :1.00%(1.25%) 11)10年6月末 :1.25%(同)

12)名目GDPは昨年4-6月以降、5四半期にわたって縮小している。景気 は明らかに後退局面にある。景気後退をもたらしているのは資源価格の高騰によ る輸入増加、住宅投資の減少基調、設備投資のピークアウト、そして輸出の鈍化 だ。当面は景気後退局面が続くだろう。原油価格等の反落で輸入は徐々に減少す るだろうが、欧州・アジア景気の減速で輸出が鈍化するため、純輸出は低水準横 這いとなろう。住宅投資はごく緩やかにしか回復せず力不足。

こうした中で設備投資が縮小局面に入るため、景気の足を引っ張ることに。 個人消費はCPIピークアウトを受けて堅調さを取り戻すだろうが、一進一退か ら抜け出せまい。ただ、後退局面が中盤から終盤に入ろうとしていることには注 意がいる。年度明けには景気が後退局面から回復局面に入る可能性が高い。米国 景気の安定化、交易条件の改善が主因だ。なお、CPIインフレ率は7-9月に 2%強でピークアウトし、年度末には1.3-1.4%まで軟化しよう。

13)利上げの条件は、国内景気の後退局面からの脱却と、米国景気軟着陸の確 認だ。09年7-9月の可能性が最も高い。

●大和総研の田谷禎三特別理事 1)今回会合 :現状維持 2)利下げ時期 :利下げ想定せず(同) 3)利上げ時期 :09年7月(09年2月) 4)08年9月末 :0.50%(同) 5)08年12月末 :0.50%(同) 6)09年3月末 :0.50%(0.75%) 7)09年6月末 :0.50%(0.75%) 8)09年9月末 :0.75%(1.00%) 9)09年12月末 :0.75%(1.00%) 10)10年3月末 :1.00%(1.25%) 11)10年6月末 :1.00%(1.25%)

12)4-6月GDPは1-3月にうるう年効果が入っていたことを考えても、 ネガティブな内容だった。内外需とも弱く、昨年10月あたりから踊り場にとど まらず、景気後退に入っている可能性が高まった。景気後退の第一の要因は輸出 環境の悪化、第二の要因は輸入一次産品価格の上昇だろう。第一の要因に関連し ては、米国経済の鈍化が続き、欧州景気も急速に鈍化してきている。また、欧米 景気に影響を与えている金融市場の不安定性もなかなか解消しない。

しかし、中国を筆頭にした新興諸国経済はこれまでのところ堅調を保ってい る。このグループの経済動向がどうなるかは、日本の輸出環境を考える上で非常 に重要だが、今後ともある程度の堅調さを保つのではないか。従って、欧米経済 に悪いながらも安定化の兆しが出てくれば、日本経済も低成長ながら安定化して くるのではないか。第二の要因に関しては、特に原油価格の高止まりが問題だが、 家計、企業に対する事実上の大増税となっている。

昨年度の輸入金額75兆円の約2割(14兆円程度)が原油であり、最近の原 油価格は昨年度平均の6割近くも高くなっている。ここ数年の交易損失が家計と 企業にほぼ等しく負担されたことを参考にすれば、10兆円近くの半分ずつが家 計、企業にのしかかっている。これだけを考えても少々の景気対策ではほとんど 影響ないことが分かるだろう。原油価格が下がらなければ、内需はほとんど増加 しないだろう。純輸出が辛うじてプラス成長をもたらす姿になるのではないか。

13)欧米においては、物価情勢が改善しないかぎり金融政策の方向は依然とし て引き上げの方向だろう。確かにそのタイミングは後ずれしてきているが、経済 の安定化とともに、特に米国の政策金利は正常化されるだろう。日本も当面、利 上げは難しいだろうが、経済に安定化の兆しが出てくれば、金利正常化路線に戻 るだろう。ただ、そのタイミングについてはかなり幅をもって考えなければなら なくなった。年内は難しいだろうし、来年も早い時期と言い切るのは難しい。

●信州大学の真壁昭夫経済学部教授 1)今回会合 :現状維持 3)利下げ時期 :可能性残る(同) 2)利上げ時期 :09年7-9月以降(09年10-12月以降) 4)08年9月末 :0.50%(同) 5)08年12月末 :0.50%(同) 6)09年3月末 :0.50%(同 7)09年6月末 :0.50%(同) 8)09年9月末 :0.75%(0.50%) 9)09年12月末 :0.75%(同) 10)10年3月末 :1.00%(0.75%) 11)10年6月末 :1.00%(同)

12)人口減少局面に入り、少子高齢化が世界最速のペースで進行するわが国は、 国内要因だけで経済活動を大幅に活発化することは難しく、海外要因=輸出に依 存することは避けられない。サブプライム問題の顕在化をきっかけに米国経済に ブレーキがかかり始めている。現在は減税効果もあり、米国経済は健闘している が、雇用環境などは悪化しており、今後徐々に景気減速が一段と明確になる。そ れは中国などアジア諸国にもマイナスの影響を及ぼすはず。

それに伴い世界経済の減速が鮮明化している間、わが国経済にもブレーキが かかることは避けられない。今回の景気の山は恐らく昨年11月と認定されるこ とになろう。既にわが国経済は後退期に入っていると考える。物価水準は当面、 少しずつ上昇傾向をたどることになろう。原油や一部穀物価格は下落傾向を示し ているが、それが物価水準に跳ね返るまでには時間を要する。

ただし、世界的な景気減速が鮮明化していること、米国の政策当局の規制強 化の効果もあり、中期的に一方的に物価が上昇するとは考え難い。現在の状況が 続くと、年後半以降、物価上昇圧力は幾分和らぐと予想する。

13)現在の経済・金融の状況が続くことを前提とすれば、日銀は金利引き下げ の圧力をはね返すことは可能。ただし、信用不安などをきっかけに、欧米の金融 市場の機能が一段と低下しパニック的な状況になると、金利引き下げに追い込ま れる可能性は残る。

米国の政策当局の規制強化、決算処理の先送りなどによって、金融市場が見 かけ上、平穏を保ち、経済もとりあえず大きく落ち込まない状況が続いているが、 クレジットクランチとそれに続く金融機関のキャピタルクランチの問題が片付い たわけではない。日銀はそうした状況を十分に理解しているはずで、当面、金利 の引き上げを行える状況ではない。

日銀は現在、金融市場の混乱の可能性と物価上昇圧力の二つを両にらみにし ながら、さまざまな動向に目を凝らしている状況だ。最近の白川総裁の発言など をみると、欧米金融市場の信用状況には依然、懸念を持っているとみられる。当 面、そうしたリスクを意識した政策運営を続けざるを得ない。

ただ、潤沢な資金が商品市場や株式市場等に向かって流れ込み、そうした分 野でミニバブルが形成される可能性についても日銀は念頭に置いているはずだ。 欧米の政策当局の方策が予想以上の効果を発揮し、株式市場が堅調な展開になり、 景気も再び拡大の方向に向かう場合、来年春先以降、日銀の金利引き上げの可能 性がやや残っている。

そうした状況が現出する場合、果断に政策判断を変更することも考えられる が、その場合、選挙日程が一つの阻害要因になろう。現在の与党の状況を見ると、 選挙前に景気対策を打つことが予想される。日銀はそれと符合する政策運営を迫 られることは十分に考えられる。

●野村証券の松沢中チーフストラテジスト 1)今回会合 :現状維持 3)利下げ時期 :利下げなし(同) 2)利上げ時期 :09年10月(09年7月) 4)08年9月末 :0.50%(同) 5)08年12月末 :0.50%(同) 6)09年3月末 :0.50%(同) 7)09年6月末 :0.50%(同) 8)09年9月末 :0.50%(0.75%) 9)09年12月末 :0.75%(同) 10)10年3月末 :0.75%(1.00%) 11)10年6月末 :1.00%(回答なし)

12)景気は昨年10-12月から後退期に入っていた可能性が高いが、現時点では 「景気後退は比較的浅い」との見方を支持する状況証拠が多い。機械受注統計で は景気後退期に入っているにもかかわらず、設備投資がプラスの伸びを続けてい たことが示された。過去の景気後退局面において設備投資は二けたの減少を示す ことも多い。大企業を中心に売り上げの伸びが過去の後退局面に比べ高めに維持 されており、これに見合った設備投資をある程度続けざるを得ないのだろう。

輸出の伸びは今のところ04-05年の「景気踊り場」をも上回っているし、 生産も3期連続の調整とは言っても、減少率は過去の局面に比べかなり小さい。 しかし、今年後半は米国で減税効果のはく落と雇用悪化が相まって需要減退がほ ぼ確実視される。これに向けて企業は予防的に減産を進めているわけだが、ここ で想定以上の需要ショックが起これば、景気後退はもう一段深さを増すだろう。

世界同時後退となり、米国の構造問題(エネルギー効率の低さや低貯蓄率な ど)も一気に噴出するため、調整期間は相当長くなる。クリスマス商戦での需要 の落ち込みに対する経済の耐性を確認するまでは、景気後退の終わりは見えてこ ないだろう。「減税効果はく落」、「雇用低迷」、「信用収縮」といった押し下 げ要因に対し、「原油安」、「金利低下」、「住宅セクターの底入れ」といった 押し上げ要因がぶつかり合って、見通しははっきりとしない。

13)従来09年7月に利上げを考えてきたが、日本の景気後退局面入りがほぼ確 実になったことを受けて、来年1-3月に景気後退を脱するとしても、半年程度 回復軌道に乗ったのを見極める期間が必要であると考えられるので、09年10月 展望リポート付近での利上げが妥当であるとの見方に修正した。

●バークレイズ・キャピタル証券の森田長太郎チーフストラテジスト 1)今回会合 :現状維持 2)利下げ時期 :利下げなし(同) 3)利上げ時期 :09年4-6月(09年1-3月) 4)08年9月末 :0.50%(同) 5)08年12月末 :0.50%(同) 6)09年3月末 :0.50%(0.75%) 7)09年6月末 :0.75%(同) 8)09年9月末 :1.00%(同) 9)09年12月末 :1.25%(同) 10)10年3月末 :1.25%(1.50%) 11)10年6月末 :1.25%(1.75%)

12)内外需ともに減速傾向を確認。ただ、GDI(国内総所得)の大幅マイナ スに表れているように、景気減速の主因が原油高騰などによる交易条件の悪化に よっているところは、過去の景気下降局面との相違でもある。ストック調整が本 格化するかどうかは今後のファクターによる部分も大きく、景気減速の深さや長 さを議論するにはまだ材料が十分にそろっているとは言い難い。

最も重要なポイントは、原油価格をはじめとする資源価格の動向。資源価格 がもう一段下落して、新興国での金融引き締めの必要度合いが低下してくれば、 日本経済にとってもポジティブ。

13)景気減速の深さや長さを予測する上でのファクターが、資源価格など不確 定な要素に依存する度合いが強いという意味では、日銀の政策についてもあまり 予断をもって言いにくい局面だ。日銀は足元の数値を受けて景気判断はある程度 下方修正してゆくと予想はされるが、6月までの原油高騰の大きな要因の一つが グローバルな過剰流動性の問題であった点も引き続き無視はできないだろう。

世界経済が2%水準まで成長を切り下げて、急激な需給ギャップの拡大が生 じるような事態が明確になってくるまでは、金融引き締めまでは行わないものの、 金融緩和の選択肢もとり得ない。逆に、世界経済がそこまで落ち込まないことを 確認できてきた場合には、過剰流動性の調整に日本もある程度参加してゆく必要 も出てこよう。その意味では、物価と景気の両にらみ、という現在のフレームワ ークからまだしばらくは離れることはできないだろう。

●ゴールドマン・サックス証券の山川哲史チーフエコノミスト

今回は回答なし

●アールビーエス証券の山崎衛チーフエコノミスト 1)今回会合 :現状維持 2)利下げ時期 :利下げ想定せず(同) 3)利上げ時期 :09年10-12月(09年4-6月) 4)08年9月末 :0.50%(同) 5)08年12月末 :0.50%(同) 6)09年3月末 :0.50%(同) 7)09年6月末 :0.50%(0.75%) 8)09年9月末 :0.50%(0.75%) 9)09年12月末 :0.75%(1.00%) 10)10年3月末 :0.75%(1.00%) 11)10年6月末 :1.00%(1.25%)

12)景気は後退局面入りした可能性が高く、4-6月のマイナス成長に続いて、 7―9月以降も低成長が続くと考えている。08年度の実質成長率は0.4%程度 にとどまると予想している。景気後退の程度、期間は海外経済や原油・原材料価 格など外部環境に依存している。一方、08年度の企業収益は大幅な減少が予想 されるものの、企業部門の構造調整が終了していることが景気後退を深刻化させ ない要因になろう。

外部環境については米国経済が深刻なリセッションに陥らないことをメイン シナリオとして考えており、そうであれば日本の景気後退も比較的浅くなろう。 企業部門の収益性が改善していることから、米国景気回復や原油・原材料価格の 落ち着きなど、外部環境が好転すれば企業収益は容易に改善し、景気も再び回復 に向かう可能性が高いと考えている。

一方、賃金が伸び悩む中、消費者物価の上昇傾向が続くと考えられることか ら、消費の急速な回復は期待できず、成長率の上昇は緩やかだろう。経済成長率 が持続的に潜在成長率、ないしそれを上回るのは09年7―9月と考えている。

13)景気の後退局面入りの可能性が高まったことによって、早期利上げの可能 性は一段と低下したと考えられる。一方、原油価格が落ち着き始めたものの、物 価上昇率、期待インフレ率は当面高水準で推移し、実質金利はマイナスの状態が 続くため、利下げの可能性も低い状態が続くと予想している。政治的には、政府 は経済対策を打ち出すが、物価高で実質所得が減少する中で、家計の金利収入減 少につながる金融緩和に対する圧力は弱いと思われる。

経済財政担当大臣に利上げ容認派の与謝野氏が就任したことも、政権からの 利下げ圧力を弱めることになろう。次に日銀が政策スタンスを変更する場合は 「利上げ」との想定は以前と変わらない。ただ、景気回復について以前よりも遅 いタイミングを想定していることから、現在では利上げのタイミングは09年10 -12月と考えている(前回までは09年入り後の景気回復と利上げは4-6月と 予想していた)。

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