【米経済コラム】リセッション入りを歴史的に考察する-C・ボーム

「歴史」学者というものは常に、数十年、 数百年前の出来事について新たに光を当てようと研究を繰り返す。そうした 「修正」主義はときに、過去の習慣を政治的に公正な現在の基準に一致させる 試みといえるかもしれない。

経済史も何ら変わりはない。2007年10-12月(第4四半期)の米国内 総生産(GDP)成長率について、当初発表(歴史)の前期比年率0.6%増と 今回(修正)の同0.2%減の間には、数学的にも経験上も大差はない。8カ月 前も、米住宅市場は事実上崩壊し、住宅ローンのデフォルト(債務不履行)は 急増、食品とエネルギー価格が家計を強く圧迫していた。

昨年第4四半期がマイナス成長となったことで、米景気循環の時期を判 定する全米経済研究所(NBER)は、景気一致指標の低下が続くとの前提の 下、より政治的に公正にリセッション(景気後退)入りを宣言しやすくなった。

7月31日は08年4-6月(第2四半期)のGDPとともに、05年から 07年分の統計の改訂値が発表された。米商務省の経済分析局(BEA)は、 第4四半期同士を比較したベースで成長率を年間0.2ポイント下方修正した。 この調整は四半期ごとの大きな振れを正しく伝えるものではない。07年の第 2四半期と7-9月(第3四半期)は前期比年率4.8%増と高い伸びだったが、 その前後の1-3月期と10-12月期はそれぞれ0.1%増と0.2%減にとどま った。

それほど強くない

BEAが7月31日に発表した08年第2四半期GDP(速報値)は前期 比年率1.9%増。在庫投資の減少が成長率に対し約2ポイントのマイナスの寄 与度となった一方、純輸出が2.4ポイントのプラスの寄与度となった。米ゴ ールドマン・サックスの複数のエコノミストは、純輸出の好転の半分は輸入が 実質ベースで年率6.6%減となったことによると分析。顧客向けリポートで 「力強い経済であれば、輸入はこのように大幅に減少しない」と指摘した。住 宅投資は15.6%減で、減少率は過去1年で最小だった。米財務省が6月末ま でに景気刺激策の一環として783億ドル規模の税還付を実施したにもかかわ らず、個人消費は1.5%増にすぎなかった。

エコノミストや統計学者が経済史に関心を抱く、より重要な理由がある。 当局は常に、経済モデルの構築・破壊を繰り返し、新たな指標を生み出し、予 測の手掛かりとなる経済指標を探し続けている。

だが、どういうわけか当局者の多くは、リセッションを予測する上でよ り信頼性の高いイールドカーブ(利回り曲線)からの合図に注意を払うことを 怠る。イールドカーブは過去半世紀にわたり、リセッションの先行指標として 最も信頼できるものの1つだった。その輝かしい実績を買われ、イールドカー ブはコンファレンス・ボードによる1996年の見直しの際に、景気先行指標総 合指数(LEI)に加えられた。金融当局が長期金利を上回る水準に政策金利 を維持している逆イールドの状況は、厳しい今後が待ち受けていることを示唆 する。

現在の景気サイクルで、フェデラルファンド(FF)金利と10年物国債 の利回りとの格差は、月間ベースで06年7月から07年12月までFF金利が 10年債を上回る逆イールドの状態だった。米金融当局者は金融システムが大 きく混乱するまで、このメッセージを無視していた。

何かがおかしかった

金融当局者は「世界的な貯蓄のだぶつき」が金利を低位に維持するとの 議論を展開してきた。多くの人がイールドカーブからの合図を軽視し、逆イー ルドだろうが、そうでなかろうが、長期金利が低水準である限り、景気は大き く鈍化しないと豪語していた。

多分、きっと多分だが、逆イールドの状態は銀行を厳しい状況に陥れた。 昨年後半、複数の銀行が損失を表明し始めてから、ニューヨーク・タイムズの コラムニスト、フロイド・ノリス氏がすべての真相を明らかにした。昨年11 月16日付のコラムで同氏は「われわれは何かがおかしいことに気付くべきだ った」とし、「複数の銀行は、本来の姿以上に好調だった」と指摘した。

銀行は短期で借り入れ、長期で貸し付ける。順イールドである限り、銀 行の利益は順調に伸びる。FF金利で借り入れて事実上リスクのない米国債に 投資し、良好な利益を得ることができるからだ。

イールドカーブのお告げ

当時は、イールドカーブは長短金利がほぼ同水準のフラットな状況、も しくは逆イールドだったが、「銀行は利益を上げ、株は買われていた」とノリ ス氏は指摘した。

すべてを総合的に考えなかったことを悔やんだのを覚えている。今は皆 が承知しているが、銀行は利益追求に走り「AAA」格付けのごみに手を出し ていた。銀行は背伸びをし過ぎて、今その代償を払っている。

イールドカーブは現在、何を告げているのか。FF金利と10年債の利回 り格差は200ベーシスポイント(bp、1bp=0.01%)で、通常なら緩和 気味の金融政策がとられていることを示唆しているということになる。しかし、 現在は「通常」とは言い難い。近い例では1990年代初めなど、金融システム が危機的状況に陥った際には、銀行の体力を回復するには長短利回り格差が 400bp程度というほぼ垂直のイールドカーブの時期が必要だった。

銀行が資本強化に向け、融資を抑制し、場合によってはバランスシート の縮小を図っている状況では、体力回復のために現在以上の利回り格差が必要 だ。これは、金融当局が早期に利上げに動く可能性は低いと考える理由の最も 重要な部分だ。

2つめの理由は、リセッションの中にあっての利上げが危険であるのは もちろん、政治的に正しくない、ということだ。 (キャロリン・ボーム)

(キャロリン・ボーム氏は、ブルームバーグ・ニュースのコラムニスト です。このコラムの内容は同氏自身の見解です)

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