ドルむしばむ三重苦、米景気・信用不安・インフレ-円は全面高に(2)

基軸通貨ドルをむしばむ米国経済の低迷と 根強い信用不安、原油高を背景としたインフレ懸念の「三重苦」が6月中旬以降、 深刻さの度合いを増している。「三重苦」は、世界的な株価下落を受けた投資家 のリスク回避や米利上げ観測の後退を通じ、円相場の全面高にもつながっている。

主要通貨に対するドルの総合的な強弱を示す実効相場(米連邦準備制度理事 会が算出、1973年3月=100)は13日、米利上げ観測を背景に72.23に上昇。 2月下旬以来の高値をつけた。しかし、その後は「三重苦」への懸念が強まり、 27日には70.8と、2日以来の水準に下落した。過去最低は69.26。米サブプ ライム(信用力の低い個人向け)住宅ローン問題に端を発した金融システム不安 の中で、米証券大手ベアー・スターンズが事実上破たんした3月中旬に記録した。

大和総研の亀岡裕次シニアエコノミストは、米国経済の低迷・信用不安・ド ル安・原油高の「悪循環が続いている」と指摘。夏にかけて1ドル=102円前 後までドル安・円高が進むと予想する。ドルは今週、対円で1ドル=104円50 銭と約1カ月ぶり安値、ユーロに対しても1ユーロ=1.59ドルと4月23日以 来のドル安・ユーロ高水準をつける場面があると読む。

ドルは円に対し27日に1ドル=105円87銭、対ユーロでも30日に1ユ ーロ=1.5797ドルと、ともに9日以来の水準に下落する場面があった。

米景気低迷、信用不安

米国では、住宅価格の下落や失業率の上昇、ガソリン高を背景に、消費者心 理は歴史的な水準まで悪化。ブッシュ米政権の一時的な減税による景気下支えが 不発に終われば、米国内総生産(GDP)の約7割を占める消費が一段と低迷し、 景気の停滞に拍車が掛かる恐れがある。

ブルームバーグ・ニュースの事前調査によると、米ISM(供給管理協会) が7月1日発表する6月の製造業景気指数は、活動の拡大と縮小の境目を示す 50を5カ月連続で下回る見通し。4日発表される6月の米雇用統計では、非農 業部門の雇用者数が6カ月続けて減少する見込みだ。

しかも、足元では信用不安が再燃。金融保証会社(モノライン)大手のMB IAやアムバック・ファイナンシャル・グループが格下げされ、米欧の金融機関 大手による損失・評価損計上と増資に歯止めがかからない。先週は、米自動車大 手3社や米証券大手モルガン・スタンレーの格下げ観測も浮上した。みずほ総合 研究所の吉田健一郎シニアエコノミストは、7月は「米銀大手の決算もドルの重 しになる」と予想する。

企業の社債保証コストを取引するクレジット・デフォルトスワップ(CD S)市場では、北米の投資適格級企業125社で構成する マークイットCDX北米投資適格指数が27日、142.9ベーシスポイント(bp、 1bp=0.01%)に上昇。信用の質は3月末以来の水準に悪化した。

投資家のリスク回避は世界的な株安を呼んでいる。モルガン・スタンレー・ キャピタル・インターナショナル(MSCI)世界株価指数は1397.59と、ベ アー・スターンズが事実上破たんした3月17日以来の安値をつけた。

FOMC、原油高

米連邦公開市場委員会(FOMC)が25日公表した声明を受けた利上げ観 測の後退も、ドル安要因となっている。声明がインフレへの警戒度を高める一方、 前回4月の会合で指摘した景気低迷の見通しも堅持したためだ。

米金利先物市場ではFOMC後、FRBが現在2%の政策金利を8月も据え 置くとの予想が75%と、1週間前の60%から上昇。年末まで利上げがないとの 見方も2%から13%に増加した。今週の利上げが有力視されるユーロ圏や、早 期利上げ観測がそもそも盛り上がっていなかった日本と比べ、金利面でのドルの 魅力が低下した。

FRBの利上げ観測後退はドル安を通じて原油高を加速。原油高が米インフ レ懸念を悪化させ、ドル売り材料となっている。ニューヨーク原油先物相場は 27日に一時、1バレル=142.99ドルに上昇。過去最高値を更新した。米10年 債とインフレ連動債(TIPS)の利回り格差が示す予想インフレ率(BEI) は2.53%とFOMC前から上昇。今年3度つけた2006年8月以来の高水準

2.55%程度に接近している。

一方、米景気低迷や信用不安の再燃、株安、利上げ観測後退を受け、米10 年債利回りは3.97%と、3週間ぶりの水準に低下。大和総研の亀岡氏は、原油 高も「インフレ要因ではあるが、期待成長率を低下させるので、結局は市場金利 を下げる」と解説する。

米10年債利回りが低下したため、インフレによる価値目減り分を割り引い た「実質金利」は1.43%と、約3週間ぶりの低水準になった。JPモルガン・ チェース銀行の佐々木融チーフFXストラテジストは「米実質金利はドル相場と 相関性が高い」と指摘。「米実質金利の低下がドル安につながっている」と話す。

こうしたドル売り材料は、円相場には追い風となる。円はFOMC後、主要 16通貨のうちスイスフラン以外の15通貨に対して上昇。6月初めからFOM Cまでは、ニュージーランドドルを除く15通貨に対して下落していた。

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