【コラム】ウッズは気付いているか、ゴルフのこの虚構を-M・ルイス

ゴルフの驚くべき点の1つに、実に多く の人たちがそれを「本物のスポーツ」だと信じ込まされているということが挙 げられる。全世界で現在、ゴルフは野鳥観察などより、アメリカンフットボー ルやバスケットボールに近いと考えられ、語られている。

この集団的思い込みという病の最も明白で第1の症状は、ゴルファーは 状況に不似合いなメロドラマを盛り上げる必要があるということだ。タイガ ー・ウッズは、世界最強のプロゴルファーというだけでは十分ではないのだ。 ウッズはコースの上で小さい白いゴルフボールを打つプレーと並行して、飛び 回り、大声で叫び、ガッツポーズをし、胸をたたいて見せたりもしなければな らない。

先ごろの第108回全米オープンゴルフ選手権で最も印象的だったのは、 ウッズが左ひざのけがに耐えて優勝したことではない。最も特筆すべきは、タ イガー・ウッズが足を骨折した状態でプレーしたという事実に、本人とゴルフ 界全体がいかに酔いしれたかという点なのだ。

ウッズが大勢のギャラリーやカメラマンらを引き連れてフェアウェーや ドッグレッグのコースを足を引きずりながら歩くとき、それはもはや単にゴル フをしているだけではなかった。ウッズはゴルフを真の競技種目の地位へと高 めたのだ。

いよいよ、こんな声が聞こえてきそうだ。曰く、ゴルフ界は自ら「ゴル フこそプレーする人の真の人柄と肉体的勇気を試す機会を与えてくれるものだ ということを1人のゴルファーがきっぱりと証明している」と考えている。見 てみるといい。ゴルファーは痛みに耐えてプレーし、ゴルフをすることで負傷 するのだと-。

しかし、ダーツをしても負傷するし、やり方を間違えばハイキングやボウ リングも大きな危険をはらんでいる。十分な情熱をもってすれば、卓上ゲーム のモノポリーですら同様だ。私は実際、このゲームで指を切った経験がある。

裕福な大物たち

ボウリングでけがをするのはばかげた話で、それはゴルフも同じだ。ゴ ルフがスキューバダイビングや太極拳と同様に好奇心をそそられる屋外趣味の 1つに正当に分類されるとすれば、そうであろう。

しかし、そうはならない。ゴルファーはそれを許さない。あまりに多くの 富豪や各界の大物人物たちが、ゴルフがまじめな競技種目であるという信仰に 過度に投資しているからだ。多くの富豪や大物がゴルフを必要としているのは、 ゴルフは人生の代理戦争であり、人格や精神力の強さなどが試されるものであ るとみなされるからだ。

これまでかなりの間、専門化を促す現代の風潮がスポーツ界に大きな弊 害をもたらしてきた。真剣にスポーツに打ち込む選手たちはどんどん普通の人 からかけ離れていくが、裕福な大物たちの間ではますます自分たちを運動選手 として位置付けたい気持ちが高まっている。

裕福な大物たちがひどい屈辱を感じる恐れなく容易に参加し、プロ選手 の動きを真似できるようなスポーツとして成立させるには、当然肉体的な活動 も一部必要になる。一見、それは不可能のようにみえる。裕福な大物たちはし ばしば運動能力に欠けており、「スポーツもどき」はいかなるものであっても、 バランス感覚や機敏さなどなくても大丈夫というものでなくてはならない。裕 福な大物の多くは太めで、肉体的に動きが鈍い。従って、スポーツもどきは最 低限の活動で済む必要がある。だったら、ゴルフの世界に入りなさい。

ゴルフはバスケットボールよりも野鳥観察の方に近いが、裕福な大物た ちの手前、皆ゴルフは野鳥観察よりはバスケットボールに近いというふりをし ている。この点を押さえれば、理解が困難なゴルフにまつわる現象についても 分かり始める。

例えば、ゴルフでは一緒にプレーするために、「真の運動選手」に巨額 の金が払われる。最近引退した真の運動選手が財界人と1ラウンド回ることで 支払われる金は、明らかに奇怪な額だ。一緒にプレーするだけでそうした運動 選手に金が支払われる娯楽はほかにめったにない。探険家は元運動選手に同行 してもらって探検するために金を払ったりしない。ゴルフの世界だけが、より 運動選手に近づいた気分になるために、元運動選手とのプレーに金を払う。

これが、引退したスポーツ選手がゴルフを熱心にする最初の理由だ。プ ロのバスケットボール選手だったマイケル・ジョーダンは、取り付かれたよう にゴルフをする理由を好きだとからと考えているかもしれない。実際、猛烈に ゴルフをしているが、少なくとも最初は金もうけができたからだ。

ジョーダンと一緒にプレー

なぜ金が支払われるか。それは、ずんぐりした体型の金持ちたちが自分 自身や周りの人間に対し、マイケル・ジョーダンと同じスポーツを楽しんだと 報告することを切望するからだ。

真の運動選手が金に誘惑されてゴルフを始めた場合でも、その世界に選 手を引き止めるのにほとんど努力はいらないだろう。ゴルフ界が自認するよう に、金がゴルフの唯一の魅力ではない。いったんスポーツもどきが誕生すると、 本物のスポーツ以上に素晴らしいものが作り出される。

では、ゴルフから気持ちを引き離す要因と言えそうなものは何か。以下 にそれを列記するが、重要度については順不同。

1) 実社会での仕事

2) 妻

3) 子供

4) 上述の3つの要因のいずれかについてゴルフ以上に大切だという認 識

一部の裕福な大物たちは、自分自身や恐らく大切な人たちに、ゴルフは ゴルフ以上の意味を持つと納得させてきたことだろう。例えば、ゴルフをする ことで仕事上での刺激が受けられるとかだ。そうした説明は、ゴルフのもう1 つの特殊性でもあり、野鳥観察やシュノーケリングでは見られない。おかしな 話だが、太極拳ではよくある。

ゴルフに打ち込む人々は常に、楽しんでいるわけではない点を強調する ようだ。ウッズはゴルフでさまざまなことを示してくれたが、その1つは楽な ものではないということだ。 (マイケル・ルイス)

(ルイス氏はブルームバーグ・ニュースのコラムニストです。このコラ ムの内容は同氏自身の見解です)

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