インフレ時代の日本株、抵抗力と好需給で底堅さ堅持-課題は業績実勢

原油高などを背景に世界的なインフレ傾 向が強まる中、日本株のパフォーマンスは相対的に堅調だ。海外の主要株価指 数が約1カ月間で7-10%下落したのに対し、日本株は1%安。インフレが与 える影響度の違いから、日本株の見直しは当面続きやすいとの見方も出てきた。

CLSAのグローバルストラテジスト、ラッセル・ネイピアー氏は20日 に東京で開かれた同社セミナーで、日本のインフレ進行は「3つの引き金にな る。1つは債券から株式へのシフト、2つ目は個人消費の刺激。3つ目は製造 業の収益性向上だ」と述べた。このうち製造業の収益性向上については、デフ レを輸出していた中国が今後はインフレを輸出することで世界の製造業のマー ジンが改善、中でも日本はその恩恵を日本は大きく受けるという。2003年を底 に日本株は上昇しているが、「本当の上昇はこれからだ」とネイピアー氏。

原材料価格の上昇によるコストプッシュ型のインフレは交易条件を悪化さ せ、企業収益にとってのマイナス要因となる。景気減速下での原油価格の高止 まりがスタグフレーションへの警戒につながり、米ダウ工業株30種平均は直 近高値5月19日から6月19日まで7.4%下落。英FT100指数は10.5%安、 中国上海総合指数は24%安と落ち込んだ。その中で日経平均株価の下げは1% にとどまる。

ミョウジョウ・アセット・マネジメントの露久保裕道ディレクターは、 「日本は原油高のネガティブリスクはもともと小さく、世界の中で相対的にイ ンフレ抵抗力は強い」と話す。国際エネルギー機関(IEA)が07年に公表 した調査によると、05年の国内総生産(GDP)1単位当たりの1次エネルギ ー消費量(石油換算トン)は、日本1に対してEUは1.9、米国2.0、インド

7.9、中国8.6となっている。

ディマンドプルの恩恵も

大和住銀投信投資顧問の窪田真之シニアファンドマネージャーによると、 消費者物価がマイナス状態にあると景気を失速させ、5%を超えると要注意、 8-10%を上回ると再び景気を失速させやすいという経験則があるそうだ。欧 米諸国は現在3%強、新興国はおおむね6%以上のインフレに陥っている。そ れに対し、日本は依然1%に満たない。

窪田氏は、「資源価格の上昇は多くの国にとってコストプッシュインフレ になり、景気を悪化させる」とした上で、日本にとってインフレは「景気を壊 すマイナスのインフレからの脱出につながるため、世界との比較からはポジテ ィブ」との認識を示す。さらに、資源国による資源開発やインフラ投資、環境 対応の自動車などといった需要を取り込むことで、「ディマンドプルインフレ の恩恵も受ける」(同氏)との見解だ。

マネーフローやバリュエーションも追い風に

インフレをきっかけとする資金フローの変化も、日本株にとっては追い風 だ。海外ではスタグフレーション(景気後退期の物価上昇)への懸念から、マ ネーは債券から株式に流れず、商品や直接キャッシュに向かった半面、国内で は「インフレヘッジのために、年金が債券のウエートを減らして株式へ資金を 振り向けている」(ミョウジョウ・アセットの露久保氏)という。

米大手証券メリルリンチの6月のファンドマネジャー調査では、コアイン フレ率の上昇を見込む比率から、低下を見る比率を差し引いた世界のインフレ 予想は前月の25%から33%に上昇。インフレ警戒が高まる半面、日本株をア ンダーウエートしている投資家は41%から27%へと大幅に減った。日本株が 戻り歩調となる中で中国株は調整色を強め、「金融引き締めがオーバーキルに なるかもしれないアジア株に対し、日本株が相対的に浮かび上がる」(トヨタ アセットマネジメント投資戦略部の浜崎優シニアストラテジスト)という構図 から、リバランスの動きがうかがえる。

また、朝日ライフアセットマネジメント中静満博取締役執行役員は、「デ フレがインフレになる過程では、実質金利がマイナスになれば個人の金融資産 が動き出す」と指摘。こうした影響もあり、「株式のバリュエーションが高く なる可能性がある」(同氏)という。さらに、デフレからインフレへの移行は、 企業サイドから見れば、財務レバレッジの上昇を通じて株主資本利益率(RO E)が高まりやすくなる。

根強い慎重論

海外との相対評価や需給面から、インフレが日本株にプラスとする声があ る半面、日本のファンダメンタルズ(経済の基礎的要因)の厳しさを指摘する 向きも少なくない。「今回は物価が上昇する一方、賃金は上昇していないコス トプッシュインフレで、消費者の実質購買力は低下している」と警戒するのは、 ソシエテジェネラルアセットマネジメントの吉野晶雄チーフエコノミストだ。

明治安田生命保険相互の津坂睦彦特別勘定運用部長も、「企業は原材料価 格の高騰を価格転嫁できるか不透明な上、価格転嫁した場合は、個人消費にマ イナスの影響を与える。どちらにしても企業の収益改善は読みづらい」と、慎 重な姿勢を崩していない。大和総研が今月5日にまとめた金融を除く主要300 社の2008年度業績は、売上高で前期比3.5%増、経常利益で4.3%減と、7期 ぶりの減益が見込まれている。

みずほ投信投資顧問の岡本佳久執行役員は、「インフレ環境で需給面は良 好だが、日本企業の業績を左右する米国がスタグフレーションの足音がある中 で業績懸念は依然払しょくできない」と指摘。海外株式との相対比較では優位 性を示す可能性はあるものの、「スタグフレーションを回避できるかどうかの 方向性が明らかになるまでは、需給面と業績懸念との綱引きから日本株はもみ 合いの域を出ないだろう」(同氏)と予測している。

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