米国の景気減速と物価上昇、親の世代とは異なるスタグフレーション

「スタグフレーション」はもはや、かつてと 同じものではなくなった。

経済成長率がほぼゼロになり、原油高騰でインフレ率も昨年初めの2倍に なったものの、1970年代以降の経済構造の変化により、米国が当時のような状 況に陥る可能性は小さくなった。

ディシジョン・エコノミクス(ニューヨーク)のチーフエコノミスト、ア レン・サイナイ氏は、景気の現状を「ミニ・スタグレーション」と呼ぶ。

規制緩和や情報技術(IT)の発達のおかげで、米経済は70年代に比べ柔 軟性が増した。大幅な賃上げ要求がほとんど受け入れられないことや、バーナ ンキ連邦準備制度理事会(FRB)議長など政策当局者がインフレ・スパイラ ルを放置するリスクを以前よりも強く認識していることも、インフレが加速し にくい環境を作り出している。

ブランダイス大学国際ビジネススクールの経済学教授スティーブン・チェ ケッティ氏は「われわれは1970年代に多くの教訓を学んだ」と指摘。「再発は 見られていない。政策や経済構造の違いがその一因だ」との見方を示した。

70年代のスタグフレーションの種は、社会福祉の政府支出が増え、ベトナ ム戦争が激化し、融資基準が緩和された60年代にまかれていた。固定為替相場 制などによって経済が硬直化していたため、エネルギー高騰にうまく対応でき なかった。

より激しい競争

今日の米経済は70年代に比べ、より柔軟性があり、燃料効率が良く、競争 も激しい。昨年の国内総生産(GDP)は1973年の10倍だったが、エネルギ ーの消費量は当時の3割強の増加にとどまった(エネルギー省と商務省の統計)。

企業が抱える在庫が少なくなったため、石油ショック時のような大幅な減 産が必要になる可能性は低くなった。商務省の統計によると、在庫が売上高の 何カ月分に相当するかを示す指標は、過去最高(1.7カ月分)を記録した1982 年以降、低下を続けている。今年4月は1.25カ月分だった。

燃料コスト高騰の影響を最も強く受けた産業の1つである航空業界は、規 制緩和が競争激化につながり、料金が抑制された良い例だ。昨年の航空運賃の 値上がり率は1.8%。スタグフレーションに陥っていた1980年には、過去最高 の38%に達していた。

労働生産性、サービス業

労働効率の向上や低労働コストも、物価高騰に歯止めをかけている。労働 生産性は1996年以降、毎年平均で2.5%伸びている。1970-95年は同1.7%だ った。

製造業からサービス業へのシフトも、労組の組織率低下につながり、労働 者の賃上げ交渉力を低下させた。昨年の従業員全体に占める組合員の割合は 12%と、労働省が統計を取り始めた1983年の20%を下回った。

さらにFRBは、ボルカー議長時代から受け継がれている低インフレの伝 統を放棄することには非常に消極的だ。ボルカー議長はインフレ抑制のため、 政策金利を最大20%まで引き上げた。その代償は、第二次世界大戦後で最悪と いえるリセッション(景気後退)だった。

サイナイ氏は、インフレ期待がすでに高まっていることに懸念を示し、F RBなど政策当局の対応が今後の行方の鍵を握っていると指摘した。

ロイターとミシガン大学が先週発表した6月の家計調査によると、今後5 年間のインフレ率は3.4%になる見込み。13年ぶりの高水準である一方、1980 年2月に記録した9.7%の半分以下だ。

バーンズ、ボルカー、グリーンスパン

FRBはバーンズ議長時代の1974、75年、物価上昇ペースが加速し始めて いたにもかかわらず、景気減速に対応して利下げを実施した。一方、ボルカー 氏のほか、1987-2006年に議長を務めたグリーンスパン氏は、その20年間の大 半をインフレを予防する取り組みに費やした

FRBのバーナンキ議長、コーン副議長ほか少なくとも4人の地区連銀総 裁は過去数週間に、インフレ期待を抑制し続ける必要性を表明した。先物市場 の投資家の間では、FRBは9月にも利上げを実施するとの見方が優勢だ。

ブランダイス大学のチェケッティ氏は「世界中の金融当局は、1970年代初 め当時の対応より優れた措置が何かを確実に理解している」と指摘。「金融当局 がもはやインフレ率の上昇を容認することはないと確信している」と述べた。

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