「フトンマネー」がやって来る-待望のインフレは日本にプラスなのか

ここ数年間、物価下落を経験してきた日本 では今、これまでと違う雰囲気が生じている。最高値を更新している原油や食 品の値上がりを反映し、インフレ期待が高まっており、「今が買い時」という心 理が消費者の間に広がっている。

欧州から中国まで景気の足かせになりかねないとして懸念されているイン フレこそが、日本が必要としているものなのかもしれない。日本の消費者が押 し入れの隅にしまい込んでいる金融資産1500兆円は、物価上昇見通しにより引 き出され、日本経済の浮揚につながる可能性もある。こうした個人資産の大半 はほとんど利子のつかない銀行預金に回され、実際に「たんす預金」となって しまっているものもある。

シンガポールのヘッジファンド、タンタロン・リサーチ・ジャパンのディ レクター、イェスパー・コール氏は、「日本人がゆっくりと財布のひもを緩めつ つある。その理由はインフレだ。『フトンマネー』がやって来る」と話す。

昨年は食品を除き物価は横ばい状態だったが、今年に入ってのガソリン価 格の12%値上がりが、消費者のインフレ警戒感を高めた。日本銀行の調査では、 一般世帯は今後1年間に物価が7%以上上昇すると見込んでいる。これが、個 人消費の伸び率が今年1-3月期に昨年10-12月期の倍になったことの説明 にもなる。

キャピタル・エコノミクス(ロンドン)のチーフ国際エコノミスト、ジュ リアン・ジェソップ氏は、「物価上昇が見込まれるなら、消費者は貯蓄を少しば かり取り崩す気になる公算大だ。消費が上向けば、景気を幅広く支えることに なる」と指摘する。

個人消費

経済協力開発機構(OECD)は、個人消費が堅調で日本経済がリセッシ ョン(景気後退)を回避するとの最新見通しを示している。内閣府が11日発表 した四半期別国民所得統計(2次速報)によると、国内総生産(GDP)の6 割近くを占める個人消費が前期比0.8%増となったが、これはOECDの見方 を裏付けるものだ。

世界一の経済大国である米国の景気が減速している今は、米国に次ぐ経済 規模を誇る日本が存在感を示すには良い時期だ。国際通貨基金(IMF)によ れば、日本は昨年、世界の経済成長のわずか4.5%しか寄与できなかった。米 国の14.1%、世界4位の経済大国となった中国の19.9%と比べると見劣りがす る。

IMFによれば、今年の日本の成長率は1.4%と米国の見通し(0.5%)の ほぼ3倍だ。個人消費が輸出需要の鈍化を補うという。コール氏は、過去2年 ほど「内需が大きな足かせで期待はずれだったが、2008年は楽観的になれる良 い年だ」と言う。

だが、誰もが楽観しているわけではない。米スタンフォード大学のジョン・ テーラー教授は、インフレはどのような状況においてであれ良いものではない との認識だ。「本物の悪循環に陥る可能性がある。日本でも事態が悪化する場合 もある。現時点では考えにくいだろうが、悪性のインフレに陥る公算もある」 と述べる。日本リサーチ総合研究所が先月公表した調査によれば、食品とエネ ルギーの価格上昇に対応し、約44%の世帯が今年は出費を切り詰めるとしてい る。

巨額の金融資産

ジェソップ氏によれば、消費者心理が弱いことは消費が全く低調だという ことを意味するものではない。前回のリセッション(景気後退)が2002年に終 わって以来、最も消費者心理が悪化した今年1-3月期に、個人消費が大幅に 増えたのだ。巨額の家計貯蓄の存在がその理由の一端かもしれない。

マッコーリー証券の主任エコノミスト、リチャード・ジェラム氏は、「ほと んど想像を絶するほど大きな額だ」と言う。銀行預金や現金、投資を含む個人 金融資産は1500兆円で、日本のGDPのほぼ3倍だ。「悪いインフレが引き金 であり、フトンマネー放出の転換点だ」との見方をするのはコール氏だ。

生鮮食品を除いた消費者物価指数は1-3月期に約1%上昇し、日本のコ アインフレ率は10年ぶりの高水準となった。ジェソップ氏は「人々がここ半年 から1年の間に物価が上がると考えており、買い物を今する動機になる」と分 析する。

値上げ

東京都内の中心部にあるインテリアショップ「イルムスジャパン」の店舗 では食器類の売り上げが先月、6月1日の値上げ前に3割ほど伸びたという。 キリンホールディングスは2月、17年ぶりにビールを値上げ。それ以外にもパ ンやマヨネーズ、しょうゆも今年に入って値上がりしている。だが、日本の消 費者がこれまでの10年間、目にしてきたのは、全く逆の物価下落だ。マクドナ ルドのハンバーガーも今は100円だが、8年前は130円だった。

消費者に値下がり期待があれば、大きな出費は控えるようになる。需要が 落ち込めば、さらなる値下げが必要だ。ジェラム氏は、「この流れが変わり始め れば、景気にとってプラスとなる。日本はインフレのプラスの側面を実際に見 いだすことのできる数少ない国の1つだ」と語る。

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