【経済コラム】一般人がうらやむ超リッチの意外な買い物-M・ルイス

この数カ月間、私は成功しているヘッジフ ァンド・マネジャーの知られざる心理をブルームバーグ・ニュースの読者に伝え てきた。

10億ドル(約1050億円)余りの資産を運用し、純資産が1億ドルを上回る 私のような超富裕層は、一般人に本当の考えをめったに明かさない。割に合わな いからだ。

このため、純資産が1000万ドル(約10億5000万円)未満の一般人は、超 富裕層が多く住む地域でさえ、超リッチな人々の内面をほとんど分かっていない。 コネティカット州グリニッチで、リッチなロシア人と彼が建てようとした豪邸の トイレが巻き起こした騒ぎは、この意味で象徴的なケースのように思われる。

事のあらましはこうだ。2005年、ロシア以外ではまったく無名のバレリ ー・コーガン氏がグリニッチに現れ、2万平方フィート(約1600平方メート ル)の敷地面積を持つ邸宅と5エーカーの土地を購入した。

コーガン氏は古い邸宅を壊して、敷地面積5万4000平方フィートの豪邸を 新築しようと考えた。コーガン氏も私と同様、恵まれない環境から成功者にのし 上がった人間だった。

ところがグリニッチには組織化された労働者らがいた。そして本人の知らぬ 間にコーガン氏は、牧歌的な自然環境に自動車12台が入るガレージやフィンラ ンド風スパ、ドッグサロン、26室のトイレ付きの豪邸を建てようとしているス ラブ系の田舎者として米各紙に報じられたのだ。

「必要」と「欲しい」の違い

私にしてみれば、ドッグサロンの方が問題になりそうに思えるが、実際はト イレが憤激の的となった。26室のトイレは、グリニッチでさえ一般人の理解を 超えていたようだ。

反対住民の1人はブルームバーグ・ニュースのインタビューで、「そんなに 多くのトイレを誰が必要とするのか」と語った。

実はコーガン氏は26室のトイレを必要としているのだ。彼に代わって説明 しよう。まず、富裕層の自宅の利用法は一般人とは異なるのだ。

例えば、リッチなロシア人がハイキングに行くと言う時は、戸外のハイキン グを意味しているのではない。家の外では一般人に会い、金を無心されるかもし れないからだ。もちろん金をあげるわけではないが、追い払うにも貴重な時間を 浪費することになる。このような理由からも、リッチなロシア人は大邸宅を必要 とする。これなら屋内でハイキングができる。

しかし長いハイキングに付き物のことがある。小用だ。一般人は森で小用を 足すが、リッチなロシア人は彼らとは違う。半時間も掛けてらせん階段を降りた りした後で、結局、遠くのトイレに行くため後戻りするはめになどなりたくない のだ。屋内でも催したところにトイレがあれば便利だ。

もう1つの利点

またグリニッチの一般人が考え付かないもう1つの実際的な利点もある。

結局のところ、トイレとは何だろうか。一般人にとっては、排泄物を下水に 流すものだろう。しかしリッチなロシア人にとってはそうではない。

超リッチであればあるほど、高価なものを完全に消化できない公算は大きく なる。したがって排泄物を十分調べることなしにすぐ流してしまうのは無駄であ るばかりか、自滅的な行為でさえあるだろう。超リッチな人にとってのトイレは ただのトイレではない。銀行の金庫室とでも言うべきものなのだ。いくらあって も多過ぎることはない。

しかし、こうした明白で実用的な理由だけではない。これらを上回る深い感 情に根ざした衝動がある。本当に成功した人には、一般人が必要性を理解できな いものを持ちたいという欲求があるのだ。

この観点から見れば、コーガン氏の偉大な才能を理解できるだろう。米国で は、自己顕示や優越性への欲望などに消費の本質を見る「顕示的消費」の他の形 態は売り尽くされているのだ。一般人が持つ富裕層を彩る観念はほとんど出尽く していた。

車、家、ペット、毛皮、宝石、島。一般人がうらやむネタはもう尽きかけて いる。

「トイレだ!」。私はロシアの凍える夜半にコーガン氏がこう叫んだ様子を 思い浮かべることができる。「だれも想像できない数のトイレを買ってやろう。 そうすれば米国民は感嘆して私のうわさ話をするだろう」。そして実際、その通 りになっている。

(ルイス氏はブルームバーグ・ニュースのコラムニストです。このコラム の内容は同氏自身の見解です)

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