白川日銀総裁:ゼロ金利と量的緩和の景気刺激効果は「限定的だった」

【記者:日高正裕】

5月23日(ブルームバーグ):日本銀行の白川方明総裁は23日午後、本店 で記者団と会見し、ゼロ金利政策や量的緩和政策について「金融システムの安定 を維持する上では大変効果があった」としながらも、景気を押し上げていくとい う面では「効果は限定的だった」と述べた。白川総裁はさらに、金融システムが 安定を回復した後もそうした政策を長く続けると「ショックに対する耐久力を弱 める」と語り、超低金利政策が長期化した場合の副作用にも警戒感を示した。

日銀は1999年2月から2000年8月までゼロ金利政策、01年3月から06 年3月まで量的緩和政策を実施した。白川総裁は就任前に上梓(じょうし) した「現代の金融政策-理論と実践」で両政策に同様の評価を示しているが、 就任後に言及したのは初めて。今後景気が悪化しても、深刻な金融システム 不安が再燃しない限り、ゼロ金利や量的緩和に復帰する可能性は低そうだ。

大和総研の田谷禎三特別理事は「日銀は白川総裁の下、これまでより明確 な金利正常化スタンスが基本になるのではないか。金利正常化が道半ばであ り、金利引き下げの景気刺激効果が必ずしも短期金融市場の機能を減殺する デメリットを上回るほど大きくないとみれば、利下げには躊躇(ちゅうち ょ)するのではないか」としている。

何をやるかは状況次第

白川総裁は20日の定例会見で、世界経済について「下振れリスクが高 い」と述べた。23日の記者団との会見では、景気の下振れリスクが顕在化し たとき、ゼロ金利政策や量的緩和政策を視野に入れるのか、という質問に対し、 白川総裁は「どの中央銀行もそうだと思うが、どのような政策を採用するかは、 経済が置かれた条件、つまり景気、物価がどうなっていくのか、あるいは、その 背後にある金融システムの状況等に依存する」と述べた。

白川総裁はさらに、「責任ある中央銀行として、あらかじめ将来の政策の選 択肢を念頭に置いたり、あらかじめ排除することは原理的にない。物価の安定の 下での持続的な成長に貢献するかどうか、その一点に照らして金融政策を運営し ていくことが基本的な考え方だ」と語った。

その上で、ゼロ金利政策と量的緩和政策の評価について「その内容は幾つか の要素から成り立っている」と指摘。具体的には、①ゼロ金利という金利水準に かかわる部分②ゼロ金利を長く続けると約束する部分③日銀当座預金の量を拡大 していく部分④オペ期間の長期化や担保拡大などオペ手段の工夫⑤資産担保証券 など非伝統的な資産の購入-を挙げた。

金融システムの安定が最大の貢献だった

白川総裁は「そういう政策について、全体としてどういう効果があったのか を大ざっぱに言うと、ゼロ金利政策にしても量的緩和政策にしても、金融市場、 あるいは金融システムの安定を維持する上では大変効果があった」と指摘。「金 融システムの安定をしっかり確保することは、中央銀行のなし得る最大の貢献で あり、最も意味ある貢献だと思う」と述べた。

その一方で、「日本経済がバブル崩壊後に抱えた基本的な問題は、企業にし ても金融機関にしても、自己資本が大きくき損したことであり、これが根本的な 原因だった」と指摘。「別な言い方をすると、設備、雇用、負債の3つの過剰が 解消しない限り、経済の本格的な成長はなかった」とした上で、これらの過剰が 「既に発生してしまったところからスタートした場合、金融政策の効果は限定的 だったと思う」と語った。

白川総裁はさらに、ゼロ金利政策や量的緩和政策は「金融システムが非常に 不安定なときには効果がある」半面、「金融システムが安定を回復した後、そう した政策を長く続けると、今度は金融システムのショックに対する耐久力を弱め ていく」と指摘。「長い目で見て、リスクテイク活動も変化していくことにもな っていく」と述べ、超低金利が長期化した場合の副作用についても言及した。

両方向のリスクを注意深く見ていく

白川総裁は米サブプライム(信用力の低い個人向け)住宅ローン問題が起き た背景の1つとして「世界的な長い金融緩和との関係が議論されている」として、 「そうした要素も考える必要がある」と指摘。「ゼロ金利もそうだが、量的緩和 もそうだが、これは先例のない政策だった」とした上で、「政策の効果や副作用 について今までも検証してきたし、その検証を各委員がそれぞれ行って、それを 今後の政策に生かしていく」と語った。

また、インフレの上振れリスクと景気の下振れリスクのどちらを重視し て政策運営を行うのか、という質問に対しては「景気と物価について、両方向 のリスクを注意深く見ていく。今みたいなときに、どちらかに傾くということで はなく、両方向を丹念に見ていくということになる。その上で、毎回毎回の判断 を基本的な見解で示していきたい」と述べた。

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