白川日銀総裁:景気の下振れリスクに最も注意する必要ある(4)

(第6段落以降に発言などを追加します)

【記者:日高正裕】

4月30日(ブルームバーグ):日本銀行の白川方明総裁は30日の定例会見 で、海外経済や国際金融資本市場をめぐる不確実性、エネルギー・原材料価格 高の影響など「景気の下振れリスクに最も注意する必要がある」と述べた。 一方で、緩和的な金融環境が続く下で金融経済活動の振幅が大きくなる可能 性についても「以前より低くなっているが、引き続き存在する」と述べた。

白川総裁は日本経済の先行きについて「相対的に蓋然(がいぜん)性の高 い経済・物価の見通しとしては、先行き2009年度までを展望すると、おおむ ね潜在成長率並みの緩やかな成長を続ける可能性が高い」としながらも、 「現在は従来に比べて不確実性が高い状況にある」と語った。

金融政策については「現在のように不確実性が極めて高い状況の下で、予 め特定の方向性を持つことは適当ではない」と言明。その上で「経済・物価 の見通しとその蓋然性、上下両方向のリスク要因を丹念に点検しながら、そ れらに応じて機動的に金融政策運営を行っていく」と述べた。

明確に下振れリスクを意識

白川総裁は一方で、「緩和的な金融環境が続く下で、金融経済活動の振 幅が大きくなる可能性については、以前より低くなっているが、引き続き存 在する」と指摘。「下振れリスクが薄れたり、経済の先行きに対する企業の 見方が強まるような場合には、金融経済活動の振幅が大きくなるリスクの重 要性は増すと考えられる」と語った。

白川総裁は足元の景気については「エネルギー・原材料価格高の影響な どから減速している」と指摘。生産・所得・支出の好循環メカニズムについて も「足元で弱まっている」と述べた上で、08年度の経済情勢は「明確に下振れ リスクを意識している」と述べた。

日銀は同日午後、経済・物価情勢の展望(展望リポート)を公表。日本経済 は08年度から09 年度にかけて、おおむね1%台半ばから後半とみられる潜在成 長率並みの「緩やかな成長を続ける可能性が高い」としながらも、「不確実性が 極めて高い」と指摘。金融政策については「あらかじめ特定の方向性を持つこ とは適当ではない」とし、「機動的に金融政策運営を行っていく」と表明した。

インフレ予想が物価上振れさせる可能性も

白川総裁は生鮮食品を除く消費者物価指数(コアCPI)の見通しについて は「ならしてみれば1%程度の伸びとなる」と指摘。その上で「全体として中 長期的な物価安定の理解の線に沿っている」と述べた。日銀は今回の展望リポー トで「中長期的な物価安定の理解」の見直しを行ったが、「消費者物価指数の前 年比0-2%程度の範囲内にあり、中心値は大勢として1%前後」という従来の 考え方を踏襲した。

白川総裁は一方で、足元の物価について「消費者の購入頻度の高い品目が上 昇している」上、「上昇している品目の数が明らかに増えている」ことから、 「消費者が実感として感じる物価上昇率が高くなっている」と指摘。「消費者の インフレ予想を通じて、先行きの物価を上振れさせる可能性もある」として、 「消費者の物価に対する見方がどういうふうに変化していくか、非常に注意深く みている」と述べた。

円高は国際商品市況高を緩和する影響も

為替相場の円高については「国際商品市況の上昇を何がしか緩和する影響も ある」と述べた。米サブプライム(信用力の低い個人向け)住宅ローン問題が国 内の金融システムに与える影響については「深刻な影響があるとは考えていな い」と語った。

日銀は4月の金融経済月報で、景気は「エネルギー・原材料価格高の影響な どから減速している」として、情勢判断を下方修正した。18日発表した「地域 経済報告」も足元の景気について「地域差はあるものの、エネルギー・原材料価 格高の影響などから、全体として減速している」として、今年1月の前回報告か ら下方修正。地域別では全9地域のうち8地域が景気判断を下方修正した。

主な一問一答は以下の通り。

――本日の決定の背景と経済・物価情勢の展望(展望リポート)について説明い ただきたい。

「これまで公表された経済指標を踏まえ、わが国経済はエネルギー・原材 料価格高の影響などから減速していると判断した。先行きについては、当面 減速が続くものの、その後は潜在成長率並みの緩やかな成長経路をたどる可 能性が高いとみている。ただし、海外経済や国際金融資本市場をめぐる不確 実性、エネルギー・原材料価格高の影響などには引き続き注意が必要だ」

「したがって、今後公表される指標や情報、内外の金融市場の状況など を丹念に点検し、見通しの蓋然性とそれに対するリスクを見極めた上で、そ れらに応じて適切に政策判断を行っていくことが適当と結論付けた」

「本日公表した展望リポートの内容を簡単に言うと以下の通りだ。相対 的に蓋然性の高い経済・物価の見通しとしては、先行き2009 年度までを展 望すると、おおむね潜在成長率並みの緩やかな成長を続ける可能性が高いと みられる。また、消費者物価はならしてみれば1%程度の伸びとなると予想 される」

「もっとも、現在は従来に比べて不確実性が高い状況にある。特に海外 経済や国際金融資本市場をめぐる不確実性、エネルギー・原材料価格高の影響 など、景気の下振れリスクに最も注意する必要がある」

「一方、緩和的な金融環境が続く下で、金融経済活動の振幅が大きくな る可能性については、以前より低くなっているが、引き続き存在する。下振 れリスクが薄れたり、経済の先行きに対する企業の見方が強まるような場合 には、金融経済活動の振幅が大きくなるリスクの重要性は増すと考えられ る」

「先行きの金融政策の運営方針については、現在のように不確実性が極 めて高い状況の下で、あらかじめ特定の方向性を持つことは適当ではない。 日本銀行としては、経済・物価の見通しとその蓋然性、上下両方向のリスク 要因を丹念に点検しながら、それらに応じて機動的に金融政策運営を行って いく方針である」

「また、金融政策が効果を発揮する上で金融市場の安定性を維持するこ とが必要だ。この点で、日本の金融市場は欧米に比べて相対的に安定してい る。これはクレジット投資が相対的に少ないことが主因ではあるが、日銀の きめ細かな調節、および調節の枠組みも寄与していると思う。今後とも市場 動向を注意深くモニターし、適切な金融市場調節を行うことで、市場の安定 に努めていく所存である」

「なお、今回の決定会合では、中長期的な物価安定の理解について点検 を実施した。その結果、中長期的な物価安定の理解は、消費者物価指数の前 年比で0-2%程度の範囲内にあり、委員毎の中心値は大勢として1%程度 となっているという結果になった」

――資源価格の上昇の背景をどうみるか。

「大きな流れでみると、新興国を中心として資源を大きく使う経済が成長し ているという需要要因がまず基本にある。それから、資源価格が上がっても、そ れに対して供給を弾力的に増やすというふうに必ずしもなっていないという供給 サイドの要因も影響している」

「ただ、最近の動きについては、そうした大きな流れに加え、金融市場の動 きも影響していると思う。これはよく言われる話だが、昨年夏以来、複雑な金融 商品の評価がなかなか難しく、結果的にリスク評価が相対的に容易な商品に向か っている。よくシンプルなものへの逃避という言葉を使っているが、そうした動 きも関連していると思う」

「単純に金融が緩和しているから商品が上がっていくというメカニズムも昔 からあるが、そういった面だけでなく、今申し上げた意味での金融の影響もある だろう。いずれにしても、いろいろな説があるが、どの専門家も答えを持ってい るわけではないし、私自身は特定の仮説にあまり依拠することなく、複眼的にも のを見ていきたい」

――コアCPIは1%程度の伸びを予想されているが、物価上昇の実感との乖離 (かいり)をどうみるか。

「現在、石油製品や食料品の価格が上昇しているが、その結果、消費者物価 指数全体としては1%程度の上昇となっている。確かに最近、消費者が実感とし て感じる物価が上がっていることがいろいろなアンケート調査で示されている。 日銀の生活意識調査でもそうした結果が出ている」

「全体として物価が1%程度の上昇率であることと、一方で実感として物価 が上がっていることをどういうふうに解釈するかについては、日本に限らずどの 国でもそうだが、購入頻度の高い品目が上昇していると、どうしても物価が上が っているという実感が強く出ると思う。それから最近は上昇している品目の数が 明らかに増えている。その結果、消費者が実感として感じる物価上昇率が高くな っていると思う」

「日銀としては、そうした物価の動き、その結果、消費者の物価に対する見 方がどういうふうに変化していくか、非常に注意深くみている。消費者のインフ レ予想を通じて先行きの物価を上振れさせる可能性もある。あるいは、企業が価 格を設定する際、従来はなかなか転嫁できなかったが、だんだん消費者が今言っ たような感じになってくると、従来に比べて企業の価格設定戦略は少し変わって くる可能性もある」

――コアCPIの見通しにはガソリン価格にかかる暫定税率の復活はどのように 織り込まれているのか。

「暫定税率については、かつての消費税率の変更の時もそうだったが、常に 税制面での変更の要因を調整した基調的なベースで判断している。したがって、 物価の見通しは、暫定税率をめぐる制度変更を織り込まないベース、つまり基調 的なベースで判断している」

――展望リポートは生産・所得・支出の好循環メカニズムについては言及してな いが、どうしてか。

「日本経済はエネルギー・原材料高などから減速している。生産・所得・支 出の循環メカニズムも足元、弱まっているとみている。このことを個別に点検す ると、生産は横ばい圏内の動きとなっている。所得はエネルギー・原材料高は企 業収益などの所得形成を弱めている。支出は比較的底堅いが、設備投資の増勢は 鈍化している。生産・所得・支出は国民所得の3面等価だが、この3つの、面か ら点検すると、いずれも足元弱まっており、その結果その記述が落ちている」

――先行き物価が上昇する一方で景気が下振れしたら、どのような政策対応をと るのか。

「物価と景気が同じ方向を向いているとき相対的に金融政策はやりやすいが、 両者が食い違っているときにどうするかは、その都度難しい問題であり、あらか じめこういうふうに対応するという答えを中央銀行は持って臨むべきではない。 というのは、そういう食い違いが生じるのは、需要のショックではなく、供給の ショックが起こるからだ」

「つまり、石油価格が上がる、その結果、物価が上がるが、所得が流出して、 景気が下がっていく。例えば、これは1つの例だが、そういうとき供給ショック に対する金融政策の対応は、理屈の上では昔から比較的整理されている。つまり、 もしこれが純粋に供給サイドの要因であれば、これは消費国から言うと消費の減 退要因になる」

「一方で、この物価の上昇は一時的な要因であるため、もしこの物価上昇が 2次的な物価上昇、つまり期待インフレの上昇を通じて物価の上昇をもたらさな いのであれば、それに対して対応するのは適切ではないし、もし期待インフレ率 の上昇をもたらすのであれば、金融政策で対応すべし、というのが多分、オーソ ドックスな考え方だろう」

「ただ、現在起きていることは、先ほどの質問とも関連するが、単純に供給 ショックではなくて、需要ショックの動きが背後にある。大きな意味で新興国の 成長が拡大し、その結果として資源価格が上がっているということだと、実はそ の面で需要要因が既に働いているわけで、単純に供給面の要因だけ差っぴくとい うことは適切ではないということになる」

「結局はその時々において、現在の経済が先行きどういう経路になっていく のかということについて、あらゆる情報を集めた上で判断するしかない。ただ、 基本的な原理は、物価安定の下での持続的な成長ということであり、そのことを 少し長い時間的な視野の中でデータに即して判断していくということだろう」

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