バーナンキFRB議長:戦いの片手に権限拡大、片手に大恐慌の教訓

2002年にシカゴ大学で開かれた会議では、 ノーベル経済学賞受賞者のミルトン・フリードマン名誉教授の90歳の誕生日を 祝う催しがあり、当時は米連邦準備制度理事会(FRB)の理事だったベン・ バーナンキ氏もあいさつに立った。

バーナンキ氏は、1929年のニューヨーク株暴落に端を発する大恐慌が中央 銀行の政策の失敗によるものだとのフリードマン教授の見解に触れながら、「あ なたのおかげで、われわれはもうそうした失敗を繰り返すことはないでしょう」 と言うと、会議場は笑いに包まれた。

米経済における1929-33年のパニックを長年研究してきたバーナンキ氏 は今、FRB議長として、新たな金融危機が本格的な恐慌に進展するのを阻止 するという厄介な役割を担っている。米サブプライムローン(信用力の低い個 人向け住宅融資)市場の崩壊をきっかけに、世界的な経済・金融危機が発生し てしまった。

バーナンキ議長は、連邦準備制度の95年の歴史の中でも最も積極的にその 力を拡大して事態に収拾に対応した。0.75ポイントもの大幅利下げを2回実施 したほか、1930年代以来初めて投資銀行に対しても連銀の窓口貸し出しを実施 できるようにしたほか、資金難に陥った米投資銀行ベアー・スターンズを救済 するという前代未聞の措置を講じた。

議長の米経済に対する処方せんは強烈なものだ。だが、友人らによれば、 議長自身はそうした政策の猛烈さからは程遠い人物だという。プリンストン大 学でバーナンキ氏から教えを受けたデューク大学のエコノミスト、リチャー ド・ニューウェル氏は、議長について、「感じの良い態度と安定した気質を兼ね 備え、非常にバランスが取れている」と話す。「自らの深い知識を頭ごなしに他 人にぶつけることもなく、それが議長を効果的なコミュニケーターたらしめて いる」のだという。

金融行政改革案

ポールソン米財務長官が3月31日に発表した米金融行政の大幅な改革案 は、FRBの試みを支持する格好となった。商業・投資銀行や保険会社、ヘッ ジファンド、投資信託を含む金融システム全体を監督する恒久的な役割を連邦 準備制度に付与するという方針が示されていたためだ。

ただ、同長官はマイアミでの4月7日の記者会見で、米証券取引委員会(S EC)の廃止につながるこの改革案は実現に数年かかるだろうとの見方を示し た。議会の主導権を握る民主党も、すぐに法整備が実現する可能性は低いとし ている。

サウスカロライナ州出身のバーナンキ氏は2006年2月にグリーンスパン 前議長が率いていたFRBの理事に就任。前議長は18年の長きにわたり、その 職務を勤めたが、その後を引き継いだバーナンキ氏は、史上最強のFRB議長 になるための道を歩んでいる。

評価

元FRB理事で、現在はスタンフォード・グループの上級アドバイザーを 務めるライル・グラムリー氏は、「ポールソン長官の改革案についての1つの解 釈は、望むことがすべてできるような権限を手渡されたということだ」との見 方を示し、「システミックリスクの原因となり得るあらゆる金融機関に対する全 体的な監督責任をFRBに付与するものだ」と述べる。

元FRB副議長のアラン・ブラインダー氏は、バーナンキ議長の行動は正 当化されると指摘する。ポールソン長官とブッシュ米大統領は住宅ローン危機 への対応をほとんど見せておらず、「FRBは非常に創造的で、この戦いをほと んど単独で戦っている」と語る。

しかし、1979-87年にFRB議長を務めたポール・ボルカー氏の意見は異 なる。バーナンキ議長の下でFRBはすでに力を持ち過ぎたとの認識だ。ボル カー氏は4月8日のニューヨークでの講演で、FRBは「合法ぎりぎりの行動 を起す必要があると判断した」と言及した。

バーナンキ氏と共同研究の経験があるニューヨーク大学のマーク・ガート ラー教授(経済学)は、現在の金融危機に対するバーナンキ議長のアプローチ は、学者時代に培われたものだと語る。2000年に出版した大恐慌についての考 察を記した著書では、序文に「大恐慌を理解することが、マクロ経済の究極の 目標だ」と記している。

バーナンキ議長は4月2日の議会証言で、「経済を安定的に成長させるため にわれわれは行動する」と断言した。そして議長の意図は、FRBの権限を最 大限に引き出すことだ。

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