渡辺一橋大教授:アジア域内で1000億ドルの多国間通貨スワップ(2)

前財務官の渡辺博史一橋大大学院教授はブ ルームバーグ・ニュースのインタビューに応じ、アジア通貨危機の再発防止に 向けて2010年までに1000億ドル(約10.3兆円)規模の多国間通貨スワップ(交 換)を実現すべきだとの考えを示した。新たな仕組みづくりは、5月上旬にス ペイン・マドリードで開催される東南アジア諸国連合(ASEAN )プラス3 (日中韓)財務相会合の主要課題となる見通し。インタビューは21日に行った。

同域内の8カ国間で16本に上る2国間通貨スワップ協定(チェンマイ・イ ニシアチブ:CMI)が締結され、総額は計840億ドル(約8.7兆円)に上っ ている。昨年5月に京都で開かれた同会合で、域内で外貨の流動性に問題が生 じた場合に機動的な対応を可能にするため、これらの協定を一元化することを 決めた。財源となるのは13カ国で計約3兆ドルを超える外貨準備だ。

当時、財務官として新たな仕組みづくりの提言にかかわった渡辺氏は「1997 -98年にアジア通貨危機が起こった際に国際通貨基金(IMF)以外から調達 したのは700億-800億ドルだった。それから全体のマネーマーケットが広がっ ていることから言えば、1000億ドルが1つのめどではないか」と指摘。二国間 取り決めの約800億ドルに加えて、ブルネイやベトナムなど5カ国の新加盟国 からの拠出も念頭にすれば、「良い数字だ」と述べた。

時期については「あまり目標期間を長く設定するとモメンタム(勢い)を 失うことになる」と述べ、2010年を目標に掲げた。

CMIは国内の資金が急激に海外に逃避するなどの金融危機に陥ることを 防ぐため、自国通貨の買い支えに必要な外貨(主にドル)を融通し合うシステ ム。2000年5月にタイ・チェンマイで開かれたASEANプラス3財務相会合 で通貨スワップ協定のネットワーク構想として合意された。

出資資金の運用は「プール方式」で

また、渡辺氏は2カ国間の取り決めを多国間に移行する背景について「C MIは基本的には相互取り決めになっているが、日中韓がそれなりに大きな額 を提供する側に立っている。ASEAN域内にも融通機関があるが、まだ20億 ドルと規模が小さい。ASEAN自体に自らの組織だと認識を持ってもらうた めには平等な形の組織をつくることがよい」と説明した。

その上で「CMIは流動性などの問題が起こった際、IMFが出る前に手 当てをするというファーストエイド(応急手当て)。互いのマクロ経済政策をよ く見て議論を深める仕組みを一緒につくらなければ、イージーマネー(安易な 資金)の供給だけになる。多国間の枠組みにすれば、各国間のダイアログ(対 話)機能も深めることができる」と利点をアピールした。

具体的な多国間取り決めの仕組みについては「リジッド(厳密)な組織を つくる前に、まず仕組みを先につくることが必要だ」と述べ、運用するファン ドマネジャーを雇わず、プーリング(共同出資)したお金をもう一度出資国に 戻して各国が運用する「プール方式」を挙げた。このほか、各国ごとの拠出額 や仕組みを発動する際の拒否権の設定などの調整が必要だと指摘した。

渡辺氏は5月の会合での議論の見通しについて「まだ1年目。今回は次に 向けてどのように進めていくか、目標期間を皆が共有することになる。まず総 額ありき、ということにはならないのではないか。ASEAN側で限られた外 貨準備しか持たない国にとって外貨スワップで縛られるお金には限度がある」 とし、拠出額の合意は先送りとなる可能性も示唆した。

シンプルな証券化商品提供を-域内債券市場

もう1つの懸案は、アジア域内の潤沢な貯蓄資金を活用した「アジア債券 市場育成イニチアチブ:ABMI」。地域市場の構築に向けて、域内で定型化さ れている住宅ローンをベースに国境を越えた債券構成の検討や各国市場での同 時起債などを検討していた。しかし、米サブプライム(信用力の低い個人向け) 住宅ローン問題の影響でスピードが鈍っているのが現状だ。

渡辺氏は「中産階級が増えるアジアでは住宅ローンの需要はある。サブプ ライムのように専門家しか分からない証券化商品ではなく、大口を小口にする などした証券化商品の提供から始めればよい。シンプルな商品への需要はこれ から出てくる。新たな種類の債券の発行など目に見える形で出てくることが望 ましい」と述べ、引き続き検討するよう求めた。

アジア経済は世界経済のアンカーに

渡辺氏は世界経済が減速するなかでのアジア経済の先行きについても触れ、 「アジア経済自体は国内で消費を伸ばす余地もあり、そこそこの成長は維持で きる。北米や欧州への輸出に依存しており、米国経済の減速の影響を受けるか もしれないが、世界経済の最後のアンカー機能を担う」と指摘した。

昨年のASEAN域内の経済成長率は6.7%と高い数字を示したことから、 「08年に5%強ぐらいの成長を維持できるとすれば、欧米や日本で1%前後と いう世界全体の伸びに比べてはるかに高い。インドや中国とともに、米国から の津波を抑える役割を果たせる」と重ねて強調した。

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