【経済コラム】アジアの苦い経験が米国の良薬になる-W・ペセック

米国が1930年代以来最悪とみられる金融 危機に直面するなか、日本に期待の目が向けられている。日本の「失われた10 年」が米当局の参考になると示唆するアナリストがいるからだ。

だがアジア危機を乗り切った韓国の経験からは、さらに多くの教訓が得ら れるようだ。

世界最大の米経済が同12位の韓国経済からいったい何が学べるのかと思 う方もおられるだろう。だが、韓国財政経済省時代に次官補として97年に始 まったアジア危機を乗り切った経験を持つ金容徳氏の話を聞けば、その理由は 明確になるだろう。

金氏は「米国の現在の問題とアジア危機には多くの共通点がある」と指摘。 「アジアでは無謀な投融資や過剰流動性が拡散し、救済措置が頻発してモラル ハザード(倫理の崩壊)リスクが高まった。今回のサブプライムローン(信用 力の低い個人向け住宅融資)危機にも同じ要素が見られる」と説明した。

最近、韓国金融監督委員会委員長を辞任した金氏は、為替市場への強い影 響力から「ミスター・ウォン」と呼ばれていた。

アジア危機の際、韓国は国際通貨基金(IMF)から570億ドル(現在の レートで約5兆8000億円)の金融支援を受け取った後、迅速に対応しなけれ ばならなかった。財務力に乏しい企業や商業銀行は倒産が認められた。数行の 商業銀行が閉鎖され、従業員は解雇された。

韓国の教訓

こうした措置を受け先行き不透明感は相当強まったものの、アジア危機で 打撃を被った各国のなかで韓国は最初に立ち直り、IMFに借入金を返済する ことができた。中南米各国では80年代の経済危機の後、外資が戻るまで10年 を要したのに対し、韓国には1年半で投資家が戻ってきた。

90年代には法人部門に限られていた信用バブルが家計部門にシフトするな ど状況は変化しているものの、韓国の経験はポールソン米財務長官の想像以上 に米国にとって重要だ。金氏が教訓として具体的に挙げたのは、現実逃避、投 資家信頼感、低金利、無謀な行為を促すいわゆるモラルハザードの4つだった。

米国は、アジアに対してするなと言っていた事のほとんどを今行っている。 米国は利上げや為替相場の上昇、緊縮財政、資産バブルの回避、投資家救済の 制限を各国に求めたが、最近は助言を与えることには長けていても、受け入れ るのは下手だという印象を世界に与えている。

金氏が懸念しているのは、米国が利下げによる短期的な対策を試みること で現実から目をそらしているのではないかということだ。同氏は、ブッシュ政 権が金融市場の沈静化のため大胆な政策や方針を打ち出すのに消極的だったと 指摘する。「流動性供給などこれまでの対策では、金融市場の混乱を沈静化す るには十分ではない」と語る。

リーダーシップの欠如は投資家信頼感の低下を招いている。金氏によれば、 韓国が10年前に学んだように、投資銀行は信用市場に関連する資産の正確な 情報を開示し、直ちに評価損を計上し、できるだけ早く資本を増強する必要が ある。さらに、市場安定化のために公的資金を注入するとしたら、できるだけ 早期に実施するのが最善だという。同氏は「市場に最も害となるのは不透明感 だ」と述べた上で、「好材料なのか悪材料なのかは関係ない。とにかく実行に 移すことだ」と述べた。

ソロス氏の警告

私が10日に、この問題について米投資家ジョージ・ソロス氏に意見を求 めたところ、ソロス氏もすべての規制を悪と決めつけるブッシュ大統領の考え 方(ソロス氏はこれを「市場ファンダメンタリズム」と呼んだ)が信用危機を 長引かせる可能性があるという点で同意した。ソロス氏は基本的に、米国の対 応は不十分だとみている。

ベアー・スターンズを救済したことが正しかったかどうかは時がたてば明 らかになるだろう。金氏は、米国が毎回のようにウォール街の金融会社を救済 し、無謀な投機家の利益に加担することのないように気を付ける必要があると 指摘。また、規制の改正によって同様な危機を阻止することも同じく重要だと 述べた。

韓国経済が米経済変革のモデルになることはない。韓国は海外からの投資 に対し閉鎖的であり、起業家精神の面で見劣りする上に、財閥が依然支配的で 汚職体質の改革を遅らせている。だからといって韓国の教訓が役に立たないと いうわけではない。

金氏は「最優先すべきなのは、信頼感を早急に回復させることだ」と強調 した上で、「さもなければ問題は一段と深刻化し、実体経済を害することにな る」と警告を発した。 (ウィリアム・ペセック)

(ウィリアム・ペセック氏は、ブルームバーグ・ニュースのコラムニスト です。このコラムの内容は同氏自身の見解です)

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