【経済コラム】名も無き女性が混乱する市場に告げた神託-M・ルイス

現在進行中の金融パニックの舞台で刺激的な 脇役を演じているのはオッペンハイマーのアナリスト、メレディス・ホイットニ ー氏だ。ウォール街でそれほど注目されない同社に勤務し、さほど目立たない同 氏はこの数カ月で、市場を動かす女性になってしまった。

事の発端は、ホイットニー氏が米銀シティグループについてリポートを発表 した2007年10月31日にさかのぼる。今や伝説化した同リポートで、同氏はシ ティの配当が利益に照らして多過ぎると指摘。米銀最大手の同行はこのままでは 破たんするため、増資か資産売却か減配、もしくはその3つの選択肢すべてが必 要だろうと分析した。

ホイットニー氏は同リポートについて、「この上なく率直な分析で、これま でに自分で行ったなかで最も簡単だった」と回想する。

それなのに、シティの配当支払い能力に疑問を呈した別のアナリストの出現 にはそれから7週間かかり、ベアー・スターンズのアナリスト、デービッド・ヒ ルダー氏はホイットニー氏がリポートで提示したシティの懸念について「行き過 ぎだ」として、同行株は市場を上回る値動きを示すとの見通しを示した。

これに市場は関心を払わず、ひたすらホイットニー氏の見方に同意したた め、リポート発表翌日のシティ株は急落。当時のチャールズ・プリンス最高経営 責任者(CEO)は11月4日に辞任した。今年1月にシティは減配し、増資に 向かった。以来、ホイットニー氏(38)はウォール街に神託をもたらすにも等し いような人物となった。

ホイットニー氏ほど、株価を急落させたり金融機関のあっと驚く事実を公表 する人物はいない。同氏は最近、金融機関が格付け各社による影響にひどくさら されているとあらためて強調。ムーディーズ・インベスターズ・サービスやスタ ンダード・アンド・プアーズ(S&P)がサブプライム(信用力の低い個人向け) 住宅ローン関連証券を格下げするたびに、証券を保有する金融機関には増資の必 要性が生じるという主張で、同氏は07年11月に既にこの点を指摘していた。

立身出世

興味深いのは、金融界にパニックが走った昨年秋に、ホイットニー氏を認識 していた人物はほとんどいなかったという事実だ。同氏は「顧客は私のことを知 っていたと思うが、それ以外の人はそうではなかったと思う」と語っている。そ んな同氏が半年後にはウォール街で最も恐れられるアナリストになってしまっ た。この立身出世はひとえに1つの予想がもたらした結果だ。つまり、07年10 月31日にホイットニー氏だけが正しくて、世界は間違っていたということだ。

どうしてこんなことが起きたのだろう。幾つか可能性のある説を以下に述べ てみよう。

その1。ホイットニー氏がウォール街で本音を語る唯一のアナリスト説。

投資銀行の分析で生計を立てている人間は、雇用主からにらまれたくないの で、本音を語る勇気がない。その結果、ウォール街の幻想維持に寄与して、仕事 に見合った以上の報酬を得る。これは感情的に納得いく理論だが、アナリストが あえて金融界の酷評をする多くの機会の説明になっていない。

シティ以外にも影響力

その2。ホイットニー氏は単に幸運だったという説。

あまり注目されない小規模な会社に勤めるホイットニー氏に失うものはな く、大胆な予測をしてみた。間違っても誰からも注目を集めることはないし、正 しければ、有名になれる。ただ、この説明には問題がある。単に幸運だったとい うには、同氏があまりにも多くの幸運をつかみ過ぎているからだ。格付けと関連 付けた分析のように、同氏はシティ以外の金融機関にも影響を及ぼしている。

その3。ウォール街とそれ以外の世界との関係で、目に見えないけれども重 要な何かが変わったことに初めて気付いたのがホイットニー氏だったという説。

これは私の説だ。ウォール街の真実とは、誰にもそこに存在する金融機関の 価値が分からないということだ。もちろん、これまでも把握されたことはない。 好況時であれば、市場のえじきになるために取引ポジションを明かすようなこと は金融機関にできないし、現在のように不調なときは、あまりの複雑さに当事者 でさえポジションを把握できないからだ。

ホイットニー氏は「金融機関のディスクロージャー(情報公開)はひどい。 うそか分かっていないかのどちらかで、私は本当に分からないのだと思う」と語 った。

これまで長いこと、この不透明性が大手金融機関には有利に働いてきた。そ の不透明さゆえに、投資家やアナリストから恩恵を得てきたのだ。ホイットニー 氏は、このつながりを逆転させた。同氏は恩恵を与えるどころか、分からないこ とに対する不明点を明らかにしたのだ。

ホイットニー氏はウォール街に、金融機関に対する新たな懐疑論を持ち込ん だ。07年10月31日時点で同氏以外の人物は、金融機関の姿を同業界が興隆し た少なくとも1980年代初頭以来と同様の状態として多かれ少なかれ考えてい た。当時以来、資本主義の中心にある金融機関が資本で何を行っているのかを実 際に把握しているのか、市場は真剣に疑うことはなかったのだ。

ホイットニー氏は誰よりも先に、ウォール街の金融機関と投資家との関係 で、何かが根本的に変わったことを悟ったのだ。 (マイケル・ルイス)

(マイケル・ルイス氏はブルームバーグ・ニュースのコラムニストです。 このコラムの内容は同氏自身の見解です)

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