白川次期日銀総裁:特に不確実性高い-上振れリスクも意識必要(5)

(第7段落以降に発言と一問一答を追加します)

【記者:日高正裕】

4月9日(ブルームバーグ):日本銀行の白川方明次期総裁は9日の定例会 見で、日本経済の先行きについて「現在は不確実性が特に高い」とした上で、金 融政策の方向性に「予断を持つことは適当でない」と述べた。一方で、「不確実 性が急に晴れてくることもシナリオとしてあり得る」と指摘。「下振れリスクを 中心に米国経済を見てはいるが、上のリスクも意識する必要がある」と語った。

白川次期総裁は世界経済について「全体として拡大を続けているが、米国 経済を中心に下振れリスクが高まっている」と指摘。国際金融資本市場について も、米サブプライム(信用力の低い個人向け)住宅ローン問題に端を発した動揺 が続いており、「不安定な状況にある」と述べた。株式市場や為替市場の動向も 「依然として振れの大きな状況にある」と指摘した。

日銀は同日公表した3月の金融経済月報で、景気は「エネルギー・原材料 価格高の影響などから減速している」として、前月から「基調としては緩やかに 拡大している」との文言を削除し、情勢判断を下方修正した。先行きについても 「当面減速が続くものの、その後緩やかな成長経路をたどると予想される」とし て、前月の「拡大を続ける」という文言を削除し、判断を引き下げた。

上振れリスクも意識する必要

白川次期総裁は「世界経済や国際金融資本市場をめぐる不確実性、エネル ギー・原材料価格高の影響などに引き続き注意が必要だ」と指摘。金融政策運営 については「経済、物価の見通しの蓋然性と上下両方向のリスク要因を丹念に点 検し、それらに応じて適切に政策運営を行っていきたい」と述べた。

白川次期総裁は利下げの可能性について問われ、「現在は不確実性が特に 高い状況だ。こうした下では先行きの政策の方向性について予断を持つことは適 当でない」と指摘。この先「さまざまな下振れリスクが薄れて、持続的な成長経 路が実現していくのか、それとも下振れリスクが顕在化する蓋然性が強まるのか、 毎回の決定会合でよく見極めていく必要がある」と語った。

一方で、上振れリスクの有無についても問われ、「現在は特に不確実性が 高いということは共通の認識」としながらも、「いろいろな調整が終わって、不 確実性が急きょ晴れてくるということもシナリオとしてはあり得る」と言明。 「私自身は下振れリスクを中心に米国経済を見てはいるが、常に複眼的にみる必 要があるという意味において、やはり上のリスクも意識する必要があると考えて いる」と語った。

メカニズムは途切れたわけではない

白川次期総裁は生産・所得・支出の好循環メカニズムについては「足元は 弱まっている」と述べた。具体的には、生産は「横ばい圏内の動き」となってお り、所得面では「エネルギー・原材料価格高は所得形成力を弱めている」と指摘。 支出面では「設備投資の増勢が鈍化している」と語った。

その一方で、「やや長い目でみると、プラスの循環メカニズムが途切れて しまったわけではなく、景気は当面減速が続くものの、その後は潜在成長率並み の緩やかな成長経路をたどると考えている」と述べた。

その根拠としては「輸出は、米国向けは減少しているが、幅広い地域に向 けて増加を続けている」ほか、生産も「在庫と出荷がおおむねバランスの取れた 状態にある」ため、「横ばい圏内での推移の後は増加を続ける」と指摘。さらに、 「設備、人員の面では企業は過剰を抱えていないし、企業収益も水準としては歴 史的に高い水準にある」と語った。

白川次期総裁はその上で「もちろん、これはあくまでも標準的なシナリオ なので、こうした見通しに対しては、海外経済や国際金融資本市場をめぐる不確 実性、エネルギー・原材料価格高の影響など、下振れリスクもあるので、引き続 き注意する必要がある」と語った。

9日夕に正式に総裁に就任

福田康夫内閣が提示した白川方明副総裁を総裁に昇格させる人事案は9日、 衆参両院の本会議で可決されて同意が得られた。白川氏は同日午後、政府の任命 を受けて新総裁に就任。福井俊彦前総裁の3月19日の退任後、総裁が空席とな っていた異例の事態は3週間ぶりに解消された。ただ、政府が副総裁として提示 した渡辺博史一橋大教授(前財務官)は民主党の反対で同意が得られず、日銀の 新体制の姿は依然として流動的だ。

日本銀行は9日午後、金融政策決定会合で無担保コール翌日物金利の誘導 目標を「0.5%前後」とする方針を維持することを全員一致で決めた。

主な一問一答は次の通り。

――本日の決定の背景を説明してほしい。

「短観などこれまで公表された経済指標を踏まえ、わが国の景気はエネル ギー・原材料価格高の影響などから減速していると判断した。先行きについては 当面減速が続くものの、その後、潜在成長率並みの緩やかな成長経路をたどると 予想している。やや詳しく述べると、まず世界経済は全体として拡大を続けてい るが、米国経済を中心に下振れリスクが高まっている。国際金融資本市場ではサ ブプライム問題に端を発した動揺が続いており、不安定な状況にある」

「証券化商品市場は引き続き機能が低下した状態にあり、社債などクレジ ットスプレッドも3月下旬以降は幾分低下したものの、依然として高い水準にあ る。株式市場や為替市場では依然として振れの大きな状況にある。こうした下で、 日本の輸出をみると、米国向けは弱めの動きが続いているが、新興国や産出国な ど幅広い地域に向けて増加を続けている。先行きは海外経済が減速しつつも拡大 する下で、増加を続けていくとみている」

「国内の民間需要については、まず企業部門では3月短観などをみると、 企業収益は高水準ながら伸び悩んでおり、企業の景況感もこのところ慎重化して いる。そうした下で、設備投資は増勢が鈍化している。雇用、所得の面では1人 当たり賃金は長らく弱めの動きが続いていたが、雇用の不足感が続く中で、足元 は若干改善している。そうした下で、雇用者所得は緩やかな増加を続けており、 個人消費は底堅く推移している」

「先行きは企業収益が幾分弱まりつつも総じて高水準を続け、雇用者所得 も緩やかな増加を続ける下で、設備投資や個人消費は底堅く推移する可能性が高 いとみている。この間、住宅投資も回復に向かうがそのテンポは緩やかと予想さ れる。こうした内外需要の下で、生産は昨年後半やや強めに推移した反動もあっ て、このところ横ばい圏内の動きとなっている。先行きは当面横ばい圏内で推移 するが、その後増加していくとみている」

「物価面では、国内企業物価は国際商品市況高などを背景に、3カ月前比 でみて上昇しており、当面上昇を続ける可能性が高いとみている。消費者物価指 数(除く生鮮食品)の前年比は、2月は1%とプラス幅を拡大した。先行きは経 済全体の需給がおおむねバランスした状態で推移する下で、石油製品や食料品の 価格上昇などからプラス基調を続けていくと予想される」

「以上のように、相対的に蓋然性の高い見通しを言うとすれば、日本経済 は当面、減速を続けるものの、その後は潜在成長率並みの緩やかな成長経路をた どるということだ。ただ、世界経済や国際金融資本市場をめぐる不確実性、エネ ルギー・原材料価格高の影響などに引き続き注意が必要だ」

「日銀としては今後公表される指標や情報、内外の金融市場の状況などを 丹念に点検し、見通しの蓋然性とそれに対するリスクを見極めた上で、それに応 じて適切に政策判断を行っていく方針だ」

――情勢判断を下方修正したが、今後、利下げを検討する可能性はあるのか。

「経済はいつも不確実性を伴う。現在はそうした不確実性が特に高い状況 だ。こうした下では先行きの政策の方向性について予断を持つことは適当でない。 この先の経済、物価の展開が先ほど申し上げたようなさまざまな下振れリスクが 薄れて、持続的な成長経路が実現していくのか、それとも下振れリスクが顕在化 する蓋然性が強まるのか、毎回の決定会合でよく見極めていく必要がある」

「これまで繰り返し述べてきているように、経済、物価の見通しの蓋然性 と上下両方向のリスク要因を丹念に点検し、それらに応じて適切に政策運営を行 っていきたい」

――上下両方向のリスクと述べたが、金融経済月報などからは上振れリスクはな かなか想像できない。上振れリスクもあるのか。

「上下両方向のリスクをあらためて次回の決定会合で点検するが、1つだ け自分自身が感じているリスクを申し上げると、経済はもともと不確実性に満ち ているが、現在は特に不確実性が高いということは共通の認識だと思う。このこ とが一方で景気にマイナスの作用をするわけだが、逆にいろいろな調整が終わっ て不確実性が急きょ晴れてくるということもシナリオとしてはあり得るわけで、 そうすると同じ金利水準が持つ景気の下支えの力はまた変わってくる」

「これは日本のことを念頭に置いているというより、主として米国のこと だが、そうすると実は、一方で私自身は下振れリスクを中心に米国経済を見ては いるが、しかし常に複眼的にみる必要があるという意味において、やはり上のリ スクも意識する必要があると考えている。それ以外にもどういうリスクがあるか については次回会合で丹念に点検したい」

――生産・所得・支出の好循環メカニズムは維持されているのか。

「日本経済はエネルギー・原材料価格高の影響などから減速している。景 気の動きは生産、所得、支出の3つの面から点検できるが、そうした3つの面を 点検すると、生産・所得・支出の循環メカニズムも足元は弱まっているとみてい る。生産面をみると、横ばい圏内の動きとなっている。所得面をみると、エネル ギー・原材料価格高は所得形成力を弱めている。先般公表された短観でも、07 年度の企業収益が減益に転じる姿になっている」

「最後に支出面では、設備投資の増勢が鈍化している。こういうふうに考 えると、足元で循環メカニズムは弱まっていると判断している。もっとも、やや 長い目でみると、プラスの循環メカニズムが途切れてしまったわけではなくて、 景気は当面減速が続くものの、その後は潜在成長率並みの緩やかな成長経路をた どると考えている」

「これも少し付言すると、輸出は米国向けは減少しているが、幅広い地域 に向けて増加を続けている。生産も在庫と出荷がおおむねバランスの取れた状態 にあることを考えると、横ばい圏内での推移の後は増加を続けると考えられる。 また、設備、人員の面では企業は過剰を抱えていないし、企業収益も水準として は歴史的に高い水準にある」

「もちろん、これはあくまでも標準的なシナリオなので、こうした見通し に対しては、海外経済や国際金融資本市場をめぐる不確実性、エネルギー・原材 料価格高の影響など、下振れリスクもあるので、引き続き注意する必要がある」

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