日銀総裁空席、FRBに救われた日本株-人事で争う「幼稚」な政治

日本銀行総裁の空席と、米金融当局の危機対 応で金融不安が峠を越えた時期が重なったため、総裁不在に乗じて海外投資家が 日本株を売り浴びせる事態は避けられた――。大和投資信託の長野吉納シニアス トラテジストは、日本が恵まれた幸運に胸をなでおろしている。

福井俊彦前総裁が3月19日に退任した後、総裁の座は約3週間にわたり戦 後初の空席となっている。ただ、市場関係者の関心はこの間、米サブプライム (信用力の低い個人向け)住宅ローン問題に端を発した金融危機に集中。米金融 当局が米証券大手ベアー・スターンズ買収を取りまとめ、貸し倒れリスクを伴う 約300億ドルの融資も決めたため、信用不安が過去最悪の水準から緩和。世界的 な株安と円高・ドル安は一服し、日本市場も金融危機の余波と日銀総裁不在とい う「ダブルパンチ」は免れた。

みずほ証券の上野泰也チーフマーケットエコノミストは、日銀総裁人事の迷 走で「金融資本市場が大混乱に陥っていれば、政治家も解決を急いだはず」と述 べ、混乱が避けられたことでかえって決着が遅れた可能性があると指摘する。

福田康夫内閣は7日、総裁候補に白川方明副総裁(総裁代行)を充てる人事 案を衆参両院に提示。参院第一党で正副総裁人事に事実上の拒否権を持つ民主党 も賛成に回り、衆参それぞれの本会議で9日可決され た。政府は直ちに任命する方針。金融危機への対応策などを話し合う11日の7 カ国財務相・中央銀行総裁会議(G7)時に日銀総裁が空席という事態は、避け られる見通しとなった。

それでも、日銀の正副総裁人事が政争の具となる構図は、なお変わらない。 白川副総裁の後任を渡辺博史一橋大教授(前財務官)とする政府案は、参院で否 決。定員2人の副総裁のうち、1人が空席となった。民主党内には渡辺氏の国際 金融に関する見識を評価する意見が多かったが、「天下り阻止」のさらなる追求 が必要とする小沢一郎代表ら党執行部が反対を決めたからだ。

幼稚な政争に不信感

これまで参院で相次ぎ、総裁就任を否決された武藤敏郎前副総裁と田波耕治 国際協力銀行総裁は財務・大蔵事務次官の経験者だが、渡辺氏は国際金融を担う 財務官だった。ただ、渡辺氏が副総裁に就任した場合、総裁が日銀生え抜きで、 財務省首脳OBと内閣府に関係の深い経済学者が副総裁を分け合う構図は、前任 の福井総裁・武藤副総裁・岩田一政副総裁の組み合わせと同じになる。

額賀福志郎財務相は8日夜、記者団に対し、民主党が「渡辺副総裁」案への 反対を決めたことについて、渡辺氏は国際経験が豊富で優秀な人物なので「送り 込んだ」が、不同意は残念だと述べた。

日銀の正副総裁に、執拗に財務省出身者を送り込もうとする自民党と、財務 省出身者というだけで反対する民主党。「政府は指導力不足を露呈し、民主党の 政権担当能力にも疑問符が付いた」(ちばぎんアセットマネジメントの大越秀行 運用部長)。市場では「両党の意思決定は幼稚で、他の重要案件でも暗礁に乗り 上げるのではないか」(大和投資信託の長野氏)との不信感が広がる。

バンク・オブ・アメリカの藤井知子・日本チーフエコノミスト兼ストラテジ ストは、民主党の「渡辺副総裁」反対には「福田内閣をさらに弱体化させ、解 散・総選挙を狙う意図もある」と指摘。海外投資家は「日本が政治・財政政策に おいて機能不全に陥りつつあるとの印象を抱くだろう」と懸念する。BNPパリ バ証券の河野龍太郎チーフエコノミストは、日銀総裁人事をめぐる政争は「道路 特定財源と並び、統治能力の欠如を内外にさらす恥ずべき問題」と嘆く。

国内メディアは一般に、政権維持に必要な支持率を30%と見ている。とこ ろが、共同通信や毎日新聞が5日報じた福田内閣の支持率は、軒並み30%を割 り込んだ。UBS証券の大守隆チーフエコノミストは、政局の混迷が長期化する 可能性が高いと予想。海外投資家の失望を通じ、株式市場や日本経済に悪影響が 及ぶ恐れがあると懸念する。

総裁候補、評価の指標

モルガン・スタンレー証券のロバート・フェルドマン経済研究主席は先週の リポートで、日銀総裁人事などの重要案件には、特定の「基準に照らして開かれ た議論」が望ましいと主張。中央銀行マン・官僚・財界人ら19人を「マクロ経 済学と独立性」「政策決定機関のトップをつとめた経験」「国内外のネットワー ク」の3指標で採点した。

フェルドマン氏の評価で最も評価が高かったのは、小泉純一郎内閣で経済財 政担当相や金融相などを歴任した竹中平蔵慶応義塾大学教授。次いで、日銀出身 で金融研究所所長や経済協力開発機構(OECD)の副事務総長を務めた重原久 美春氏だった。田波耕治国際協力銀行総裁は、3指標全てで最下位。武藤前副総 裁も「マクロ経済学と独立性」で18位、他の2指標では17位にとどまった。白 川副総裁は、19人には含まれていない。

財務省支配に風穴

白川副総裁は、金融政策を立案する企画畑を歩み、事務方としては最上位の 日銀理事までつとめた人物。実務能力に対する評価は高く、政府による第1回目 の正副総裁人事案で一人だけ、衆参両院の同意を得た。ただ、就任して半月余り で総裁候補となった背後には、優れた見識だけでなく、与野党の「利害不一致が 最も小さく、(民主党が賛成する)確実性が高い」(第一生命経済研究所の熊野英 生・主席エコノミスト)人物という事情もあったと見られる。

とはいえ、白川副総裁の昇格により、松下康雄元総裁以来となる旧大蔵・財 務事務次官OBの総裁就任はなくなった。リーマン・ブラザーズ証券の川崎研一 チーフエコノミストは、たすきがけ人事が復活していたら、海外投資家が日本は 「変わらない、変われない」国だと受け止め、対日投資に悪影響が及ぶ可能性が あったと指摘。政局の混迷による空席の期間はあったが、「財務省を頂点とする 日本の政策形成構造の変化を促す」好影響が期待できると評価している。

--共同取材:廣川高史、山村敬一、河野敏、浅野文重、池田祐美、宋泰允

Editor:Norihiko Kosaka, Hidenori Yamanaka

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