白川日銀副総裁:米国では大恐慌以来の市場の動揺が続いている(5)

日本銀行の白川方明副総裁は8日午前、政 府の次期総裁候補提示を受けた衆院の議院運営委員会での所信聴取で、「米国で は1930年代の大恐慌以来の深刻な金融市場の動揺が続いている」とした上で、 日銀として重要なことは「予断を持つことなく見通しの蓋然(がいぜん)性と上 下両方向のリスク要因を注意深く点検することであり、それに基づいて必要かつ 適切な政策を機動的に実施することだ」と語った。

白川副総裁はまず、「今回、全く図らずも日銀総裁候補としてのご指名を いただき、事態の急激な変化に戸惑っている」とした上で、「私は自らが微力で あることは十分認識しているが、仮に総裁に選任される場合には、この職務に求 められる役割、責任を意識しながら努力を重ねることで、一歩でも二歩でも前に 進めるように全身全霊を傾けて職務に励む覚悟だ」と述べた。

福田康夫内閣は7日、福井俊彦前総裁が3月19日に退任した後、空席とな っていた総裁候補として白川日銀副総裁、その後任の副総裁候補として渡辺博史 一橋大教授(前財務官)を提示した。民主党は白川氏の総裁就任には同意する見 通しだが、渡辺氏の副総裁就任には党内に反対論もあってなお流動的だ。

白川氏「内外とも多くのリスク要因」

白川副総裁は日本経済については「現在、国際金融市場の動揺や世界経済 の減速、エネルギー・原材料価格高騰による中小企業の収益環境の悪化や、生活 関連物資の値上がりなど、内外ともに多くのリスク要因を抱えている」と語った。

先行きについては「当面減速するものの、その後は緩やかな成長を続ける という姿を相対的に蓋然性の高いケースとして想定している」としながらも、 「最大のリスク要因である国際金融市場の動揺についてみると、米国では1930 年代の大恐慌以来の深刻な金融市場の動揺が続いている」と指摘。

その上で「このような状況の下で日銀として重要なことは、予断を持つこ となく見通しの蓋然性と上下両方向のリスク要因を注意深く点検することであり、 それに基づいて必要かつ適切な政策を機動的に実施することだ」と語った。

渡辺氏、切迫感持った対応必要

一方、副総裁候補として提示された渡辺一橋大教授は「米国のサブプライ ム問題に起因して年末以降、国際金融資本市場は大きく変動するようになり、今 年に入ってからますます調整の度合いを深めている」と指摘。「このような急激 な市場の変動は市場参加者の予見可能性を奪って対応力を損なわせるため、経済 を一層減速させる恐れがある」と述べた。

渡辺氏はさらに、「このようにサブプライム問題を背景とした金融資本市 場の変動は、特に短期金融市場の収縮を通じて投資、消費の両面で米国の実体経 済を減速させている」と指摘。「世界経済の下振れリスクが高まっている」とし た上で、「米国経済の景気後退に伴い、日本経済においても減速感が高まってい る」と語った。

渡辺氏はまた、「われわれが現在、直面する課題に取り組むためには、切 迫感というか、時間の制約という感覚をきちんと持つ必要がある。そして、これ への対応をわが国が必ずしも適切に行えなかったことが、長年にわたって世界経 済の重要な担い手であった日本がここ数年、ややその存在感を低下させている背 景だ」と述べた。

渡辺氏「金融政策の舵取りはますます重要に」

渡辺氏は「このように世界経済、そして日本経済が短期的にも、中長期的 にも重大の局面を迎える中で、日本銀行の金融政策の舵取りはますます重要とな ってくる」と指摘。その上で「仮に副総裁を拝命した場合、金融政策の理念、す なわち物価安定を通じた経済の発展を実現するため、力を尽くして総裁をしっか り支えていきたい」と語った。

渡辺氏はさらに、「その際、国民の信頼に応えられるような適切な判断を 自主独立の立場で下していくためには、国際的な経済情勢の不確実性が高まって いる時期だけに、内外の経済情勢や市場動向について幅広く情報収集するととも に、多くのリスク要因について予断を持たず、さまざまな角度から丹念に分析す るよう努めたい」と述べた。

実質金利は低いが直ちに政策にはつながらない

8日午後に参院の議院運営委員会でも所信聴取が行われた。白川氏は金利 の正常化論について問われ、「一般的な構えで言うと、相反する2つのことを感 じている。1つは、現在起きている変化に対して鋭敏な目を持って観察し、もし 情勢が変化し、必要な政策があれば機動的に実施していく。他方、金融政策のラ グは1年から2年とかなり長いので、どうしても過去の経験からすると、足元の 状況に引きずられやすくなる傾向があることも事実だ」と指摘。

その上で「この2つをその時々の中で判断していく。金利正常化論との関 係で言うと、現在の実質金利が非常に低いことは事実だが、その低いという事実 でもって、直ちに毎回毎回の決定会合の政策金利の方向が出るというわけではな く、そこは大きな経済の流れをしっかり踏まえる必要がある」と語った。

物価安定で国民が願っているのは

白川氏は物価情勢については「国民が物価を認識するのは必ずしも物価指 数ではなく、頻繁に買うもの、今で言えばガソリンや食料品で、このところ食料 品が随分値上がりしており、これが国民の感じる物価が随分上がっているという 結果になっている」と述べた。

白川氏は一方、「物価を全体で見渡すと、一方で上がっているものもある が、他方で電気製品を中心に下がっているものもたくさんある」と指摘。2月の 消費者物価指数(除く生鮮食品、コアCPI)が前年同月比1%上昇したことに ついても「以前に比べて上がっているが、どんどん上がるという状況ではない」 と語った。

その上で「国民が願っているのは、ある特定の物価指数でピンポイントで 物価安定を定義することではなく、物価がどんどん上がっていく事態を防いで欲 しい、しかし物価が下がって景気が悪化することも避けて欲しい、あるいは物価 が安定してもバブルが起きてはだめだということだと思う。これを一言で言うと、 物価安定の下での持続的な成長であり、5年間を通じて振り返ってみて、それを きっちり達成したい」と述べた。

水準設定のための介入はやるべきではない

渡辺氏は、為替市場への介入について「水準設定のための介入は本来の介 入の趣旨を外れている。いまや膨大な取引が行われている市場に対して手を入れ るのは非常に危険を伴うし、他の政策も同じだが、入っていくときにいつやめる かという覚悟がなければならないことからしても、そういう水準設定はやるべき ではない」と述べた。

一方で、何らかのことをきっかけに相場が非常に大きく振れて市場が不安 定になったとき、振幅をなるべく小さくするために行うスムージング・オペレー ションについては、「ある日突然、急激に円がドルに対して上がる場合には、そ こにたまたま輸出決済、あるいは代金決済がある人たちに大きな影響を与えるの で、そういうことへの対応はあってしかるべきと思っている」と語った。

日銀ポストの指定席への懸念は理解

渡辺氏は日銀と財務省の関係については「政府と中央銀行との間にも異な った点に立ち、それぞれの識見や判断を戦わせて最終的な結論にもっていくとい う意味での切磋琢磨は必要だ」と言明。その上で「ある組織がある組織に優越す る、あるいは従属する関係を作るのではなく、それぞれが自分が得意とする分野、 自分が責任を持つ分野について、どれだけの識見を持ってお互いに対応していく かという中で、本来の一番良い経済政策ができると思っている」と述べた。

渡辺氏はまた、財務省出身者が日銀に天下りすることの是非を問われ、 「日銀の総裁、副総裁というポストが『下る』とはなかなか思いがたいところが ある」と指摘。その上で「特定の省庁が特定の機関に対し、常に何らかのポスト を持っていることにご懸念があることについては、私も理解している。そういう 点について、なるべくオープンな形で議論することは必要だと考えている。私が それに該当するかどうかは議員各位のご判断だ」と語った。

――白川方明日銀副総裁の主な発言は次の通り。

「今回、全く図らずも日銀総裁候補としてのご指名をいただき、事態の急 激な変化に戸惑っている。総裁空席という事態は明らかに異例であり、そうした 事態は早急に解消される必要がある。私としては熟慮を重ねた結果、国家の場で 自分なりに所信を申し上げ、その上で同意をいただけるのであれば、総裁の職務 を果たすため全身全霊を傾けて努力を固め、その旨、総理にご返事を申し上げた 次第だ」

「日本経済は現在、国際金融市場の動揺や世界経済の減速、エネルギー・ 原材料価格高騰による中小企業の収益環境の悪化や、生活関連物資の値上がりな ど、内外ともに多くのリスク要因を抱えている。先行きの日本の景気については、 当面減速するものの、その後は緩やかな成長を続けるという姿を相対的に蓋然性 の高いケースとして想定している」

「ただ、最大のリスク要因である国際金融市場の動揺についてみると、米 国では1930年代の大恐慌以来の深刻な金融市場の動揺が続いている。このよう な状況の下で、日銀として重要なことは、予断を持つことなく見通しの蓋然性と 上下両方向のリスク要因を注意深く点検することであり、それに基づいて必要か つ適切な政策を機動的に実施することだと思っている」

「昨年夏以降の国際金融市場の動揺と、それへの中央銀行の対応を見てい ると、中央銀行の本質的な機能が流動性の適切な供給や配分を通じる金融市場、 金融システムの安定維持であり、危機管理であることをあらためて痛感する。幸 い日本の金融市場ではこれまでのところ混乱は生じておらず、相対的に安定を保 っているが、今後とも市場機能を維持するため細心の注意が必要と考えている」

「次に、現在の経済、金融情勢への対応を離れ、金融政策運営に関する基 本的な考えについて申し上げる。内外の通貨の歴史を振り返ると、景気や財政、 為替レートへの短期的な配慮が優先される結果、通貨の発行が過大になり、経済 が混乱したことを示す事例には事欠かない。そのような経験を踏まえ、中央銀行 という組織に対し、金融政策決定の権限を与え、持続的な物価安定の実現という 目的に専念させるという考え方が生まれた」

「これが金融政策の独立性という考え方であり、中央銀行の行動を律する 重要な原則であると理解している。しかし、それと同時に、中央銀行の独立性が 独善に陥ってはならないことも強く自覚している。日銀としては金融政策に関す る自らの判断の根拠を国民や市場参加者に対して丁寧に分かりやすく説明するこ と、すなわち透明性を確保することが非常に大事だと考えている」

「私は独立性と透明性という中央銀行に課された2つの重要な原則に基づ いて行動することを肝に銘じている。金融政策の運営にあたっては、一方で短期 的な景気、物価情勢に対して十分に注意を払う必要があるが、他方で金融政策の 効果が経済全体に及ぶには1年から2年程度の長い時間がかかること、金融と実 体経済の間には複雑な相互依存関係があることから、足元の動向だけでなく、中 長期的なリスクについても十分な目配りをする必要がある」

「これは従来より、フォワード・ルッキング(先見的)な金融政策という 言葉で表現している考え方だ。もとより、経済の先行きには不確実性に満ちてお り、中長期的なリスクを的確に認識することは容易ではない。それだけに予断を 持たず、いつも謙虚な姿勢で幅広く情報収集に努め、その上で日銀内に蓄積され ている知識を最大限活用して適切な政策決定を行うことが求められている」

「最後に、総裁という職務遂行にあたっての私自身の心構えを申し上げる。 第1に、物価の安定の金融システムの安定という日銀に課せられた公的な使命の 達成に向けて責任を持って取り組みたい。その際、金融政策や金融システム、決 済システムをはじめ、日銀でのさまざまな業務の経験をベースに専門家として誠 実に仕事をしたいと考えている」

「第2に、日銀というわが国にとって極めて重要な組織であり、また大き な組織のリーダーであることを十分自覚して仕事に取り組む覚悟だ。市場や国民 に日銀の政策運営に対する考え方を分かりやすく伝えることに努力する。政策委 員会の議長としてメンバーの多様な意見に十分耳を傾けた上で、必要なリーダー シップを発揮し、政策委員会として適切な政策決定に到達できるように努力する。 職員に対してはモラールを高め、専門的能力が最大限発揮されるような職場作り に取り組む考えだ」

「第3に、この中央銀行との関係で、あるいはより広く国際金融社会にお いて人的な信頼関係を構築し、緊密な情報交換、意見交換を重ねることによって 日本経済、ひいては国際経済に貢献したいと願っている。私は自らが微力である ことは十分認識しているが、仮に総裁に選任される場合には、この職務に求めら れる役割、責任を意識しながら努力を重ねることで、一歩でも二歩でも前に進め るように全身全霊を傾けて職務に励む覚悟だ」

――渡辺博史一橋大教授の主な一問一答は次の通り。

「最近の世界的な資金の流れを見ると、潤沢さを増した資金が金融市場と いう範ちゅうを超えて、原油等の資源市場にまでその移動する範囲の外縁を拡大 して高利回りを求めて、かつ瞬時に世界中を移動するようになっている。新興市 場国の貯蓄の拡大をも要因として資金が潤沢になった結果、それぞれの市場が同 じ方向に動くようになり、正の相関というか、共振性が強まっている。この結果、 リスクに対するヘッジが難しくなり、市場全体の振幅が増す方向に働いている」

「そうした中、米国のサブプライム問題に起因して年末以降、国際金融資 本市場は大きく変動するようになり、今年に入ってからますます調整の度合いを 深めている。為替相場は約12年ぶり1ドル=100円の水準を割り込み、原油価 格の高騰も続いている。このような急激な市場の変動は市場参加者の予見可能性 を奪って対応力を損なわせるため、経済を一層減速させる恐れがある」

「このようにサブプライム問題を背景とした金融資本市場の変動は特に短 期金融市場の収縮を通じて投資、消費の両面で米国の実体経済を減速させている。 共に振れるという意味での共振性が高まる中で、為替市場の変動や資源市場の変 動が窮屈になることなどに伴って、世界経済の下振れリスクが高まっている」

「われわれが現在、直面する課題に取り組むためには、切迫感というか、 時間の制約という感覚をきちんと持つ必要がある。そして、これへの対応をわが 国が必ずしも適切に行えなかったことが、長年にわたって世界経済の重要な担い 手であった日本がここ数年、ややその存在感を低下させている背景だ」

「今や米国経済の景気後退に伴い、日本経済においても減速感が高まって いる。国内要因である改正建築基準法改正の影響は収束しつつあるが、国際的な エネルギー価格や穀物の高騰が続いており、中小企業や家計に悪影響が及ぶこと が懸念される。また、中長期的には人口減少という問題がある。これは経済全体 の生産性などに大きく影響を与えるとともに、相対的に低い金利という環境の中 で、どのように持続的な年金経理を仕組んでいくかという課題にもつながる」

「1億人という大きな人口を抱える国において、急速な高齢化が進行する のは日本を嚆矢(こうし)とする。われわれにはこの難しい問題に取り組む道筋 を全世界に対して示すことが期待されている」

「このように世界経済、そして日本経済が短期的にも中長期的にも重大の 局面を迎える中で、日本銀行の金融政策の舵取りはますます重要となってくる。 仮に副総裁を拝命した場合、金融政策の理念、すなわち物価安定を通じた経済の 発展を実現するため、力を尽くして総裁をしっかり支えていきたい」

「その際、国民の信頼に応えられるような適切な判断を自主独立の立場で 下していくためには、国際的な経済情勢の不確実性が高まっている時期だけに、 内外の経済情勢や市場動向について幅広く情報収集するとともに、多くのリスク 要因について予断を持たず、さまざまな角度から丹念に分析するよう努めたい」

「金融政策における中央銀行の独立性と透明性は、金融政策の信認を得る 上で極めて重要だと考えている。市場との対話を通じて説明責任を果たすよう努 め、金融政策の独立性と透明性を確保し、国民の皆様にご信認いただけるよう努 力する。信用秩序の維持、すなわち金融システムの安定を図ることも日銀の大き な使命だ。グローバル化した金融市場において中央銀行間の連携、協力は極めて 重要だ」

「金融市場における緊張感が高まる中、日銀は世界で最も優れたノウハウ や知識を持つ中央銀行として国際金融市場の安定化に貢献していくことが重要だ。 また、金融システムの安定には内外の金融機関の実態をしっかりと把握すること が重要だ。さらに、銀行券の発行や日銀ネットの運行など、資金決済の円滑な確 保も中央銀行の重要な業務だ。こうした中央銀行としてのさまざまな業務につい ても総裁をしっかりと補佐していきたい」

「私は公務員と奉職して以来、いかなる職にあるときも、与えられた職責 を全うするよう全力を尽くしてきた。日本経済と世界経済が極めて難しい局面に ある中で、日銀副総裁という職責を担う機会を与えていただくことになれば、日 銀法の理念に忠実に沿い、持てる力をすべて注いで職務に取り組みたい」

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