【経済コラム】アジア経済、真のリスクはインフレ-W・ペセック

米大手証券会社ベアー・スターンズの救済 劇は忘れてほしい。バーナンキ米連邦準備制度理事会(FRB)議長やポール ソン米財務長官が何をしようとしているのかも無視していい。破たんしそうな ヘッジファンドがあるとしても、そんなの関係ない。問題はコメだ。

約30億人の主食であるコメの価格が先週、過去最高値に高騰したことこ そ、急成長を続けるアジア地域における真の危機だ。アジア開発銀行(ADB) のチーフエコノミスト、イフサル・アリ氏は、「食糧相場は氷山の一角だ。ア ジアの新興市場国ではどこでも、景気過熱の兆候が見受けられる」と話す。

アジアのインフレ加速には、ほかにもここ数年積み上げられた2つの要因 がある。米国から日本まで各国の中央銀行が低金利政策を採用しており、それ に基づく資産価格上昇が1つで、もう1つは熟練労働者不足などを背景とする 賃金上昇だ。

インフレ急加速は、恐怖のシナリオだ。アジアの急成長を考慮すれば、賃 金上昇もうなずける。ADBは、アジアのインフレ率が今年、10年ぶりの高水 準に達すると予想している。

アリ氏は、「高成長と低インフレという無邪気な時代のパーティーは終わ った」と言う。「アジアが将来再び急成長することができるようになるために は、各国政府の真剣な取り組みが必要だ。もしこのインフレ傾向を抑え、流れ を変えることができなければ、アジアの貧困減少もストップしてしまうだろう」 との分析だ。

インフレとの戦いは金融危機から10年かけて回復したアジア地域を再び 大きく後退させる恐れもある。各国中銀は利上げ以外の選択肢がほとんどなく、 それは成長鈍化と株式相場の圧迫につながるだろう。

厳しい時代

各国政府は、一段と厳しい時代に直面しようとしている。商品相場高騰の 影響は、政府の補助金と輸出規制で覆い隠されてきた。だが今や相場の一段高 で負担が大きくなり過ぎ、各国首脳は債務水準を大きく高めるか、国民に負担 を強いるかどちらかの容赦ない選択を迫られている。

アリ氏によれば、現実の明白な危険をはらんでいるのは食品コストだ。多 くのアジア諸国では、商品指数の60%が食品と食用油が占める。最近の値上が り前でも、アジアの一般世帯では平均で所得の50%を食品に費やしており、そ の割合は刻々と大きくなっている。

さらにアリ氏が「経済成長のスピード防止帯」と呼ぶものがあり、それが インフレをあおっている。セメントから鉄鋼まですべての商品の価格が大きく 上昇しており、道路や橋、通信設備といったインフラ整備が必要なアジアにお けるあらゆる建設活動が、さらにその値上がりを加速する可能性があるのだ。

あらゆる状況が、かなりの調整を必要とするだろう。資本主義にとってア ジアは最も新しいフロンティアで、収益押し上げのために多国籍企業はその急 成長と人口増加、台頭する中産階級に依存している。

クッション機能

アジアが全く困難な状況というわけではない。ADBは日本を除くアジア の成長率が今年、7.6%に達すると予想している。エコノミストが昨年唱えてい た経済のデカップリング(非連動性)の神話はその正体が暴かれたが、日米の 景気が減速しても、アジアは大きなクッション機能を享受している。

1990年代後半、金融危機でインドネシアや韓国、タイといったアジア諸国 は国際通貨基金(IMF)の支援を受けざるを得なくなった。だが今は、アジ ア各国は巨額のドルを抱えており、その資金を食糧在庫の買い入れに充てるこ とも可能だ。

食糧はほかの商品と違い、代替が難しい。アリ氏は、「このインフレ問題 は、基本的な暮らしに直接的な影響を与える。それが政治的かつ社会的な火薬 となっている理由だ」と語る。 (ウィリアム・ペセック)

(ペセック氏は、ブルームバーグ・ニュースのコラムニストです。このコ ラムの内容は同氏自身の見解です)

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