【米経済コラム】リセッションを現実と錯覚するなかれ-J・ベリー

疲弊した住宅市場と信用危機に直面して、 米国経済が見せる耐久力は驚嘆すべきものだ。一部で深刻なリセッション(景 気後退)を予想する人もあるが、そうした気配は依然としてどこにも見えな い。

現在の景気減速局面が、最終的に緩やかなリセッションというレッテルす ら張られずに済む可能性は、少なくとも50%はある。

バーナンキ連邦準備制度理事会(FRB)の議長は2日、上下両院合同経 済委員会で、同様のことを語った。バーナンキ議長は同委員会での証言で「実 質国内総生産(GDP)は2008年1-6月(上期)にたとえ成長したとして もほとんど伸びない公算が大きく、わずかに縮小する可能性もある」と述べ た。議長はその後の質疑応答で、「それは必ずしもリセッション入りを意味す るものではない。それはその時の状況によるからだ」と説明した。

バーナンキ議長の用心深い言葉の選び方は、議長をはじめ当局者が、わず かに縮小する可能性より低めのプラス成長の公算が大きいと考えていることを 示唆しており、深刻な景気減速を見込んでいないことは明白だ。

議長は「現時点では、すでに進行中の金融と財政の刺激策などにより今年 7-12月(下期)の成長は改善すると予想される。しかし、上期が低成長と なるのは疑いない」と述べた上で、来年についてはさらに回復を見込んでいる ことを明らかにした。

苦境の緩和

こうした見通しは、一部の民間エコノミストの見解とも合致するものだ。 ドイツ銀行のエコノミストらは3月31日付の顧客向けリポートで、「やや驚 きではあるが、住宅ローンと住宅融資部門を除くと、今現在、米国の実体経済 に対する大幅な金融ショックといったものはほとんど見られていない」と指摘 している。

ドイツ銀のエコノミストらは「米国経済の比較的健全な状態は、過去数カ 月に中央銀行や政府当局によって大掛かりな投薬が行われた結果である可能性 が高い」と説明している。

バンク・オブ・アメリカ(BOA)のエコノミスト、ミッキー・レビー氏 も同様の結論に至っている。同氏は1日のインタビューで、「納得のいく数字 というなら、ほとんどゼロ成長というものだ」とし、「大幅なマイナス成長と ならないのは、住宅部門を除けば、企業は極めてスリムな在庫と雇用、生産活 動の上で資本ストックが大幅に滞ってはいない状態で現在の状況に突入したか らだ」と説明した。

信用収縮の緩和

金融市場でも一部で困難な状況が緩和されつつある兆しが見られている。 1日に、米証券4位のリーマン・ブラザーズ・ホールディングスは優先株によ り40億ドル(約4100億円)を調達、これを好感して株価は急伸した。

同日、スイスの銀行大手UBSは、米サブプライム(信用力の低い個人向 け)住宅ローン関連で巨額の評価損を計上するとともに、約150億ドルの増 資計画を発表した。リーマンとUBSのこうした発表は、2日に全界的な株価 上昇の材料となった。

いろいろな意味で、今年の第1、2四半期の米GDP成長率がゼロを挟ん で、プラス圏となるか、マイナス圏となるかはさほど大した話ではない。重要 なのは、雇用、個人消費、企業投資に2次的な負の連鎖が起きないことであ り、少数のエコノミストは年内にそうした展開に至ると予想する。それに対す る1つの回答としては、米国は金融危機に見舞われているものの、信用市場か ら締め出されているのは住居用不動産向けや高利回りタイプの信用であり、一 般家庭や企業ではないと、ドイツ銀行は説明している。

「緊張」

米金融当局による計3ポイントの利下げにより、スプレッド(米国債利回 りに対する上乗せ幅)は拡大しているものの、大半の信用コストに大幅な上昇 は見られていない。政策金利のフェデラルファンド(FF)金利の誘導目標は 現在2.25%。

ドイツ銀のエコノミストらは「米国の一般家庭と企業の資金調達水準は、 金融危機が発生して以降も極めて安定している」とし、「従って、金融政策は これまでのところ、金融部門と実体経済との間でのマイナスのフィードバック が起きることを阻止する上で成功しているようだ」と指摘している。

こうしたことは、市場が正常な状態に戻ったことを意味するものではな く、バーナンキ議長はコマーシャルペーパー(CP)や高利回り債、地方債、 住宅ローンなど数々の分野で依然として「緊張」が見られると述べた。

春の兆し

米住宅市場は現在極めて厳しい状態ではあるが、一部で春の到来を告げる 兆しもある。政府系住宅金融のファニーメイ(連邦住宅抵当金庫)とフレディ マック(連邦住宅貸付抵当公社)に対する規制緩和策や、30年物金利固定型 住宅ローン金利が6%を下回っていることで、住宅購入資金の調達が容易にな りつつある。さらに、大半の市場で住宅価格が下落していることも、住宅を購 入し易くしている。

マクロエコノミック・アドバイザーズは3月31日付の週間経済解説で 「新築住宅販売の減少ペースは最近緩やかなものとなってきており、中古住宅 販売は2月に増加を示した」と指摘。同社も、GDPはマイナス成長には陥ら ないと予想する。「売れ残り住宅は安定したペースで減少し続け、住宅建設業 者の信頼感が下げ止まっており、住宅建設部門の底打ちに必要な条件が整い始 めた」と指摘している。

だが、こうした明るいニュースのいずれもが、危機を脱したことを意味す るわけでない。バーナンキ議長が「景気の下振れリスクが残っている」と語っ たのは正しい。

雇用者総数はさらに減少し、失業率は恐らく上昇し、消費は力強いものと はならないだろう。しかし、今回の状況は1929年に端を発する大恐慌や、日 本の失われた10年といったケースの再来ではない。ただの「リセッション」 にすら陥らないかもしれないのだ。 (ジョン・ベリー)

(ジョン・ベリー氏は、ブルームバーグ・ニュースのコラムニストです。 このコラムの内容は同氏自身の見解です)

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