書評:タレブ氏の「ブラックスワン」は最良のタイミングのビジネス書

2007年3月のある日、ナシーム・タレブ氏 は米証券大手モルガン・スタンレーの本部を訪れ、同社のリスク管理担当者ら に説明した。「あなた方のリスク管理モデルは役に立たない」と。

同氏はウォール街が「ストレステスト」と呼ぶ手法を批判した。これは、 市場が総崩れとなるシナリオのシミュレーションだ。タレブ氏によれば、スト レステストにはリスクが内在している。非常にまれにしか起こらないが壊滅的 な影響を与える恐れのあるイベントを織り込むことができないからだ。

オプショントレーダーからベストセラー作家に転進したタレブ氏は40人 ほどのモルガン・スタンレー従業員を前に、「過去の事件は将来の出来事を予言 する役には立たない」と講義した。「クオンツ(定量分析)」の専門家らは理解 できない様子でタレブ氏を見つめ、それから活発な議論が始まったという。

その後1年もたたない07年12月、モルガン・スタンレーは米サブプライ ム(信用力の低い個人向け)住宅ローン関連資産で94億ドル(約9300億円) の評価損を出した。そのような資産の価値下落の速さと度合いをトレーダーら は予測できなかった。同社のリスク管理は失敗したのだ。

自身を「まぐれ」の哲学者と呼ぶタレブ氏は、タイミングの天才でもある。 同氏の著書「ブラックスワン」は07年5月に出版された。サブプライム問題が 世界の市場を揺さぶり金融機関に損失をもたらす数カ月前だった。

同書の内容は、その後に展開していくサブプライム危機のうまい説明にな っている。われわれは皆、まれにしか起こらないイベントを視野に入れること ができないにもかかわらず、リスクとその報酬を予見できると繰り返し自分た ちに思い込ませているのだという。

タレブ氏によれば、歴史にはそのような(衝撃が大きく、まれにしか起こ らない)イベントが多々見られる。同氏は1982年の中南米債務危機や98年の ヘッジファンド、ロングターム・キャピタル・マネジメント(LTCM)の事 実上の破たん、87年10月の米株式相場暴落などを例に挙げている。

「ブラックスワン」は英米で37万部以上が刷られ、米紙ニューヨーク・タ イムズのベストセラーリストに17週間とどまった。27カ国語に翻訳されつつ あり、アマゾン・ドット・コムでの07年の売れ行きではグリーンスパン前米連 邦準備制度理事会(FRB)議長の著書をも上回った。

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