【経済コラム】日銀総裁に最適なのはP・ボルカー氏だ-W・ペセック

日本銀行の総裁人事をめぐって争っている日本 の政界は、いつもよりも内向きになっている。ここは、外側に目を向けた方がいい のではないか。

年功序列という企業文化がある日本では、日銀総裁候補者が長い経験を有する 人物であることは少しも驚きではない。政治家の論争の最初の犠牲者は武藤敏郎氏 だった。同氏は1966年に大蔵省(現財務省)に入った。武藤氏に続いて不同意と なった田波耕治氏は64年に同省に入省。総裁代行となった白川方明副総裁は日銀 で34年の経歴がある。

与野党が今もめているのは、19日に総裁任期が切れた福井俊彦氏の後任だ。世 界経済が混乱しているときに、茶番ではないにせよ、日銀トップの不在という事態 がどれほど格好の悪いものか、政治家には理解していただきたい。

本当の問題は、これまでと同じような候補者の中から総裁を選ぼうとしている ことかもしれない。これは好ましいことではない。中央銀行や財務省に数十年にわ たって在籍したエコノミストは考え方が均質化する傾向があり、新たな発想は生ま れにくい。

日銀総裁には外部の人材の登用が必要だ。現在の日本の状況は、平和を維持す るためコンピューターが生み出す仮想現実に生きる人間を描いた99年の米映画「マ トリックス」を連想させる。だが、たとえ政策決定過程がそうだとしても、1億2700 万人の日本人は仮想現実を生きているわけではない。

世界経済がリセッション(景気後退)に向かうなか、日銀は政策金利を現行の

0.5%から引き下げるとの観測が広がっている。米金融当局の積極的な利下げを考 慮すると、利下げを求める政治家の圧力に白川総裁代行が抵抗するのは非常に難し いだろう。日銀に今必要なのは、現状を打破する人材だ。恐らくそれは、米連邦準 備制度理事会(FRB)議長を務めたポール・ボルカー氏のような人物だろう。

ボルカー元FRB議長

ボルカー氏がFRB議長指名を受けた79年、米国のインフレ率は14%、国債 利回りは15%に達していた。同氏は実質的にマネーサプライ(通貨供給量)に焦点 を絞るという因習にとらわれない手法で、退任の87年までに消費者物価の上昇率 を4%に引き下げた。

日本の課題は、それとはかなり異なるものだ。景気を殺さずに、金利をゼロか ら遠ざけることだ。政治家からの大きな圧力に直面するなかで、ボルカー氏が干渉 をはねのけたことと、同氏が採用した戦略は、今でもエコノミストを魅了してやま ない。

ボルカー氏は正確に言えば、外部の人間というわけではない。米連邦準備制度 や米財務省に勤務した経歴がある。65年に財務省を去り、チェース・マンハッタン 銀行(当時)で職を得た。69年に財務省に戻り、75年にはニューヨーク連銀の総 裁に就いた。同氏は数年前、政策当局者がどのようにして景気を安定化すべきなの かということについて、4年間の民間での経験が新たな展望をもたらしたと筆者に 語った。

日本の財務省と日銀は多くの有能な人材を誇るが、日本が必要としているのは、 批判をものともせず、斬新な考えを打ち出す知性を持つ、どこにも属さない人物だ。 日銀の総裁ポストが空席となったことで、福田康夫首相に加え、この問題を政治問 題化した野党に対する批判が広がっているが、より大きな課題は、日本がいつ、日 銀にその本来の仕事をやらせるのかということだ。

公的債務

福井前総裁はデフレ終息と金利の正常化を同時に成し遂げるという不可能に 挑み、そして失敗した。日銀の任務を難しくしているのは、政府の借金だ。日本の 公的債務残高は国内総生産(GDP)の少なくとも150%に達する。

日銀は政府の借金漬けを可能にしてきた。政治家がそれを望んだからだ。日本 国債の10年物利回りは今のところ1.3%にとどまっており、債務削減の真剣な議論 はなされていない。利上げは政府の借金返済の負担を重くすると、政府が日銀に対 し毎日、念を押しているような状況だ。

金融と財政の政策決定が正常化するまで、日本経済の潜在成長率への拡大は望 めないだろう。国内で政治家に対する抗議デモは起きておらず、今のところ政治家 がそのやり方を変える理由は特に見当たらない。日本で急速に進む高齢化を考えれ ば、債務削減より重要な問題はほとんどない。日銀が独立性を維持すれば、政府の 借金はもっと難しくなるだろう。そして、マトリックス的状況から脱するチャンス が大きくなるはずだ。 (ウィリアム・ペセック)

(ウィリアム・ペセック氏は、ブルームバーグ・ニュースのコラムニスト です。このコラムの内容は同氏自身の見解です)

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