日銀総裁の権威は「すでに」失墜、政争と天下りに市場あ然(3)

米国の金融不安を背景に円相場が一時1ドル =100円を突破し、日経平均株価は1万2000円を割り込んだというのに、なぜ 日本銀行の総裁が空席になろうとしているのか――。三井住友銀行の宇野大介チ ーフストラテジストは、政局の混迷にあ然とするばかりだ。

東京海上アセットマネジメント投信運用戦略室の平山賢一チーフストラテジ ストは、日銀総裁人事が政争の具となったことで、日銀の権威は「すでに」失墜 していると指摘。投資家は、政治が指導力を発揮できない日本を素通りする「ジ ャパン・ガバメント・パッシング」を続けるだろうと嘆く。

政府は18日、衆参両院に、今日で任期を終える福井俊彦日銀総裁の後任に 元大蔵事務次官の田波耕治国際協力銀行総裁(68)を、副総裁候補に西村清彦日 銀審議委員(54)を充てる人事案を提示した。19日昼の参院本会議は、同院第 一党で正副総裁人事に事実上の拒否権を持つ民主党などの反対で「田波総裁」案 を否決。西村氏には同意した。京都大学大学院の白川方明教授(元日銀理事)は 13日までに衆参両院で副総裁としての同意を得ており、20日以降、総裁が空席 となり、副総裁2人のいずれかが総裁職務を代行する可能性が限りなく高まって きた。

世界は本当の危機に

日銀総裁人事が迷走している間に、米欧ではサブプライム(信用力の低い個 人向け)住宅ローン問題に端を発した信用不安や米景気減速が一段と深刻化。米 証券大手の一角を占めていたベアー・スターンズが実質的に破たんし、米銀大手 JPモルガン・チェースによる買収に合意。米連邦準備制度理事会(FRB)は、 公定歩合の緊急引き下げや相次ぐ資金供給策、大幅な利下げに追い込まれている。

投資家はリスク恐怖症に陥り、今週初めまでに、世界中で株価が下落。米金 利低下を受け、ドル相場は、対円で1995年8月以来の1ドル=100円突破、ユ ーロに対しても過去最低の1ユーロ=1.59ドル台まで売り込まれた。

世界経済が本物の危機にひんしているにもかかわらず、金融政策をつかさど る日銀総裁の空席が濃厚となった東京市場では、憤りと懸念が広がっている。日 商の岡村正会頭は18日、参院で野党が多数を占める「ねじれ国会の中で、政争 の具となった」と遺憾の意を表明。経済同友会の桜井正光代表幹事も同日、「与 野党双方に問題があった」と政治の対応を批判した。

丸三証券の牛尾貴投資情報部長は、国内株価は「すでに総裁の空席を織り込 んだ水準になってきた」と指摘。与野党の「調整が失敗に終わり、白川氏による 総裁代行で新体制が始まりかねない」(BNPパリバ証券の島本幸治チーフスト ラテジスト)との見方が背後にある。いちよし投資顧問の秋野充成運用部長は、 総裁空席と信用不安などをめぐる「有事」が重なったら、日本は「対応不能に陥 り、海外勢の資金流出が加速する恐れもある」と懸念を示す。

差し替え人事に「なぜ?」

武藤敏郎副総裁の昇格案が12日の参院で不同意となった後に提示された総 裁候補が、なぜ国内畑を歩んだ財務事務次官OBという同じ経歴を持つ田波氏な のか。第一生命経済研究所の熊野英生・主席エコノミストは、政府は「民主党が 掲げる『財金分離』の原則を無視しているのか」と疑問を呈した。

国際金融に精通しているとの評は聞かれないうえ、国際協力銀行の副総裁か ら総裁に昇格してから半年も経っていない田波氏が任期半ばで日銀総裁に推され た背後には、政府が官僚の天下り先と序列の維持に配慮した可能性がある。

UBS証券の大守隆チーフエコノミストは、民主党が今回の人事案を「典型 的な財務官僚の天下りで、田波氏の後任に武藤氏が回るのではないか」と考えか ねないと予想。実際、民主党の鳩山由紀夫幹事長は18日、「日銀は財務省からの 究極の天下り先になっている」と批判した。

歴代の日銀総裁に日銀の生え抜き組と財務省の事務次官経験者がおおむね交 互に就いてきた「たすきがけ」人事に関しても、「世間一般の理解を得にくい。 見識に優れた民間人でもよいのではないか」(三井住友銀の宇野氏)との意見も 聞かれる。

財務事務次官OB以外にも対象を広げれば、民主党が同意を示唆したアジア 開発銀行の黒田東彦総裁や国際金融情報センターの渡辺博史顧問ら財務官経験者 は、国際金融の専門家として市場での評価も高い。実際、渡辺氏は16日付の経 済週刊紙「日経ヴェリタス」で、かつては相関性が低いとされてきた各種の金融 商品が、世界的な資金余剰を背景に同じタイミングで同じ方向に、より大幅に動 く傾向が強まり、リスク回避が困難さを増しているなどと指摘。国際金融情勢に 関する詳細な分析を披露した。

後進国に資金は入らず

総裁人事が混迷を極めているにもかかわらず、当面の金融政策に重大な支障 が生じるとの声は少ない。日銀は正副総裁に6人の審議委員を含めた9人の「合 議制で金融政策を決めている」(岡三証券投資戦略部の坂東明継シニアストラテ ジスト)ためだ。東京海上アセットマネジメントの平山氏も、副総裁に白川氏と いう「優秀な技能者」が就任する限り、支障は来たさないと見る。

ただ、今回のドタバタ劇が尾を引く面もありそうだ。いちよし投資顧問の秋 野氏は、日本は「海外の投資家から、政治面で後進国と見られても仕方がない」 と話す。丸三証券の牛尾氏は、「株価が世界的かつ本格的な反発局面に入る時、 日本株が買われるのは最後になるだろう」と予想した。

自民、民主両党が日銀総裁人事などをめぐって政争に明け暮れていた18日 夜、中国人民銀行は過剰融資とインフレの抑制を狙い、預金準備率を引き上げる と発表。国有化された英銀ノーザン・ロックは、従業員の約3分の1を削減する 計画を示した。米国ではゴールドマン・サックス・グループやリーマン・ブラザ ーズ・ホールディングスが07年12月-08年2月期決算を発表。FRBは信用 不安と景気減速を抑制するため、政策金利を0.75ポイント引き下げた。

--共同取材:廣川高史、山村敬一、駅義則、林純子、長谷川敏郎、河野敏、

浅野文重、池田祐美、宋泰允

Editor:Norihiko Kosaka, Tetsuzo Ushiroyama

参考画面: 記事に関する記者への問い合わせ先: 東京 野澤茂樹 Shigeki Nozawa

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