日本製鋼所:世界の原発が頼る「刀匠」の魂-名刀の鋼技術で市場独占

再び活況を呈してきた世界の原子力発電の運 命を握っている日本企業がある。北海道室蘭市で原子炉容器などを生産する日本 製鋼所だ。日製鋼の室蘭製作所は、世界で唯一、原子炉容器の中核部を単一の鋼 塊をくり抜いて放射能漏れの恐れが少ない形で製造することができる。

世界の原子力発電所は、1億ドル(約101億円)の頭金を支払って日製鋼が 600トンの鋼塊から作り出す容器を予約している。しかし日製鋼はこの容器を年 間4基しか製造できない。向こう2年間で生産能力を2倍に上げたとしても、原 子力発電所の新設ペースには追いつかない。

米エンジニアリング会社フルアーの原子力建設・エンジニアリング事業担当 シニアバイスプレジデント、ロン・ピッツ氏は、「今後50-100基の原子炉が製 造された場合、容器の不足や納入遅れが発生するだろう。だから今、予約するこ とは良い防衛策だ」と説明した。

ピッツ氏は、原子炉容器のシェルや蒸気発生器、圧力容器など大型鍛鋼製品 のコストは原子力発電所1基当たり3億-3億5000万ドルと推定している。

原子力発電所の建設ラッシュ

世界的な原子炉需要の急拡大に加え、各国政府が温暖化対策で温室効果ガス の排出量を規制するなか、原子力発電所の発注は大きく伸びている。世界原子力 協会(WNA)によると、2030年までに世界で最大237基の原子炉が建設され る可能性がある。これは年当たり10基を上回るペースだ。86年の旧ソ連でのチ ェルノブイリ事故以来、現在までに建設された原子炉は78基と、年4基を下回 っていた。

パリ近郊の原子力産業コンサルタント、マイクル・シュナイダー氏は、日製 鋼の生産能力を考えると、どう計算しても供給が追いつかないと指摘する。日製 鋼は自国で鍛鋼製品を生産するロシア以外のすべての原子炉に供給しているから だ。

シュナイダー氏は、「非常に多くの人たちが、原子力産業の内情を調べずに われ先にと原子力発電所のブームに乗ったのは驚くべきことだ」と語った。

競合各社の動向

日製鋼の永田昌久社長は、韓国の斗山重工業などの競合各社が同社の技術に 追いつくには5年以上かかるだろうと語る。

東芝傘下の米原子力大手、ウェスチングハウス・エレクトリックのダン・リ ップマン上級副社長は、斗山重工業が、中国に建設中の同社2基目の原子炉向け の鍛鋼製品生産に携わる可能性があると述べた。

一方、原子炉製造最大手、フランスのアレバは原子炉容器を350トンの鋼塊 から製造できるように設計変更を検討している。アレバの国内プラントのマネジ ャーによれば、現在は500トンを上回る鋼塊を必要としているという。

しかし、原子炉容器の需要が強まるなか、日製鋼は急速な事業拡大には慎重 な構えだ。1998年にドイツで緑の党を含む連立政権が誕生した後に、受注が落 ち込んだ経験があるからだ。室蘭製作所長を兼任する佐藤育男取締役は、「次期 政権下の米国がブッシュ政権のように原発建設を推進するのか不透明」と述べた 上で、6月までに増産するかどうかを決定したいと語った。

製鋼の心

室蘭製作所は第二次世界大戦中、戦艦「武蔵」や「大和」の砲身生産を手掛 けた。佐藤氏は、砲身製作のために蓄積した知識が、鍛鋼の技術革新に役立った と語った。

だが、日製鋼にはもう1つの隠れた製品がある。明治維新後、西洋の兵器の 普及で失職した刀鍛冶の技術を継承するため、同社は1918年に室蘭製作所内の 山すそに鍛刀所を開設。現在でも少数ながら日本刀が製作されている。鍛刀所で は刀匠の堀井胤匡氏が1キログラムの玉鋼を鍛え上げ、美術品として高い評価を 受ける日本刀を作り出している。堀井氏は、「石のような玉鋼から、妖しい光を 作りだすのが作り手としての冥利(みょうり)に尽きる」と語った。

永田社長は、日本刀を鍛える過程こそが日製鋼の心だと指摘する。「日本刀 には製鋼技術の粋がある。われわれはこの技術を先人から受け継いできたのだか ら、この技術は国内にとどめておきたいと思う」と語った。

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