【経済コラム】近未来小説より恐ろしい2028年の日本-W・ペセック

ここ数年間に日本を訪れた人なら、誰もが その光景を不可解と感じるかもしれない。

景気は停滞し、円の下落が止まらない。東京のあちこちにはホームレス集団 が見られ、犯罪は爆発的に増加。一家の生計を支えるため臓器を売買する一部の 人々。政界トップには決断力がなく、揺れ動くばかりで、中国に脚光を奪われる 日本。

言い過ぎかって?もちろんだ。それでもピーター・タスカ氏が2003年の著 書「ドラゴン・ダンス(原題)」で示したこの光景は先週、「2028年の日本」 と題してユーロマネーがロンドンで開催したパネル討論会でも取り上げられた。 その数日前には、英誌エコノミストが日本(ジャパン)と痛み(ペイン)を合わ せて「ジャペイン(Japain)」と題した巻頭特集で日本経済を論じている。

著名ストラテジストでもあるタスカ氏が指摘するように、日本の未来は必ず しも暗くないし、日本を無視する考え方自体が非現実的にみえる。世界の主要市 場の1つであり、世界に本当に通用する通貨を持つ国としてはアジアで日本が唯 一だからだ。

それでも、タスカ氏が長期的にみて日本に関して抱えている懸念を考えてみ る価値はある。それは政治的・経済的な空白状況だ。

HSBCホールディングスのストラテジスト、ギャリー・エバンズ氏(香港 在勤)も「日本人でさえ、日本を無視する段階に到達してしまったが、われわれ を特に悲観させるのは、このところの問題の多くが短期的な問題ではなく、もっ と根深い潜在的な停滞を示しているからだ」と語る。

日銀総裁の後任人事

日本銀行の福井俊彦総裁の後任人事を福田康夫内閣が提示したのは、総裁任 期切れまで12日に迫った今月7日になってのことだった。武藤敏郎副総裁を昇 格させる内容に驚きはないが、この人事は与野党間の対立で何カ月も棚上げ状態 となり、世界中の新聞紙面をにぎわせるありさまだ。

政策金利が0.5%の状況下では、日本の景気を支えるのに日銀に何ができる のか考えてしまうのも無理はないが、それでも、武藤氏の昇格阻止はあり得る。 この騒ぎは経済上の指導者不足の多くを物語っている。

ただ、景気の現状はさほどひどくみえない。キャピタル・エコノミクスの主 任国際エコノミスト、ジュリアン・ジェソップ氏は討論会で、「失業率は依然、 比較的低く、雇用の伸びも強い。データは消費の上向きを示している」と述べた。

問題は今から20年後の日本だ。この点に関して、多くの識者が疑問を呈す る。急速に台頭する中国やインド、東南アジア諸国との競争で、高齢化する日本 がこれまでにないほど追い込まれるからだ。大きく懸念されるのは、古びて硬直 したビジネスモデルに苦しむ日本経済が外国資本や新しい考え方を引き続き避 けようとしていることだ。

キャノンベリー・グループ(ロンドン)のプレジデント、フィリッパ・マル ムグレン氏は「日本の人口の推移だけみても、政府が将来に向けて積極的に行動 することが必要とされるのに、それが現在起きている形跡はほとんどない」と語 る。同氏はその例として、依然として起業家よりも大企業優先型である税制を挙 げる。もっと広く言えば、増税に重きが置かれ、成長後押し型に変える方向に向 かっていない。これではいつか東京をロンドンやニューヨーク、シンガポールに 匹敵する金融センターにしたいとの希望はかなわない。

ジャパンイヤー

日本の経済規模は約4兆3000億ドルで、中国の約2兆7000億ドルを大きく 上回っているが、アジアにおける地位を維持するには迅速な行動が必要だ。政治 家がそれを認識しているかどうかは定かでない。

犬は人間の7倍の速さで成長するとの理論、いわゆる「ドッグイヤー」に対 し、スタンダード・チャータード銀行のシニアエコノミスト、スティーブン・グ リーン氏(上海在勤)は中国では変化が毎年激しいとして、現在は「チャイナイ ヤー」だと指摘する。

アジアパシフィック・テクノロジー・ネットワークのルイス・ターナー最 高経営責任者(CEO)によれば、日本では政治の変化が氷河のように遅々とし て進まない。同氏は「ドッグイヤーにチャイナイヤー、ジャパンイヤーがある。 これから20年というのは日本にとって経済や企業文化を改革するのに十分な時 間だろうか。私には疑問だ」と語った。

変化の遅さが、日経平均株価が年初来で16%超の下落と、米ダウ工業株30 種平均のほぼ2倍の下落率を示した理由を説明している。米景気減速と信用市場 の混乱も原因の一部だが、改革志向の小泉純一郎氏が06年9月に首相を退いて からの日本株式会社の逆戻りはさらに責められよう。

株式の相互持ち合いや買収防衛といった古いやり方が再び横行している。日 本にはトヨタ自動車やシャープといった世界に冠たる企業があるが、民間部門の 前進には政府の努力が追いつかなければ限界がある。

タスカ氏は日本株に関する「救い」として、企業が利益の大きな部分を海外、 特に米国以外で上げている点を挙げたが、同氏は先週、「あまり明るい気分には なれない」とも語った。

日本が今から20年後にも現在の地位を維持したいのなら、今から本気にな って取り掛からねばだめだ。このままでは世界経済の未来における指導的な役割 を日本は失ってしまう。 (ウィリアム・ペセック)

(ウィリアム・ペセック氏は、ブルームバーグ・ニュースのコラムニストで す。このコラムの内容は同氏自身の見解です)

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