【スポーツコラム】野球が嫌になったらTウッズだ-S・ソシュニック

記憶をたどる時が来た。われわれスポー ツファンがかつて拍手喝采(かっさい)を送った素晴らしいプレーを必死に思 い出してみよう。

正気のさたとも思えない自己鍛錬に明け暮れ、成績向上と記録更新を狙 い、完璧を求め続ける大層立派なスポーツ選手が1人いる。

その特別な男は、新たに発達した二頭筋が話題になってはいるものの、議 会小委員会の公聴会に呼び出されて、ゴルフティーからの距離がルールに違反 していないかどうかだとか、薬物の副作用だとかを説明するような事態に陥っ てはいない。

プロゴルファーのタイガー・ウッズは、ひたすら進化を続け、勝利を重 ねている。勝負という意味での面白さはさほどでもない。つい最近まで、酒場 ではウッズと男子プロテニスプレーヤーで現在最強とされるロジャー・フェデ ラーとを比べる話で盛り上がった。どちらの選手がそれぞれの世界でより圧倒 的なプレーヤーかというたわいもない議論だ。どちらにも分があった。だが、 今はもうこの話の勝負はついてしまっている。

野球の場合がそうであるように、人々の関心が球技から離れてしまった としても、それは理解できる。野球はスポーツファンを混乱に陥れたからだ。 結局、スポーツファンは毎週と思えるほど頻繁に開かれている議会の公聴会に 振り回されている。

そんな私たちのゆがんだ心を治すため、ウッズに登場願おう。ステロイド 剤汚染疑惑騒動を忘れさせ、真のスポーツ選手の素晴らしさについて思い起こ させてくれるのが彼だ。ウッズは、スポーツ選手の記録達成や勝利は犠牲を払 って懸命に練習した成果だと信じるファンにとっての象徴なのだ。

時間の無駄

古き良き時代の話に無駄に時間を費やすことはやめよう。正しい答えな どない。ウッズの戦いぶりをただ楽しめばよい。彼は全力を尽くす。それでも 満足しない。「偉大」なだけでは十分ではないのだ。ウッズの場合そうではな いのだ。次のラウンドではさらに好成績を残したいと思う。その繰り返しだ。

スポーツファンは数字が好きだから、こうした数字を考えてみるといい だろう。ウッズは過去9試合で8勝し、勝ちを逃した残り1試合についてもフ ィル・ミケルソンに次いで2位だった。

しかし、ウッズに真の畏敬の念を感じるのは、優勝を逃した試合について 熟考し、失敗を認めることだ。2位であろうが、最下位であろうがそれは変わ らない。

アーニー・エルスは先ごろ、「ジャック・ニクラウスのプレーをテレビ で観戦し、ニック・ファルドやグレッグ・ノーマンと多くの試合をしてきた。 こうした選手たちは、長い間世界の頂点に君臨してきた」とした上で、「しか し、ウッズのような選手は記憶にない。一段上の選手だ」と語る。

マッチプレー選手権のミスマッチ

ウッズが出場した直近の試合について検証してみよう。アリゾナ州で行 われた「アクセンチュア・マッチプレー選手権」だ。試合の名前とは裏腹に、 「ミスマッチ」と言った方がずっと近い。ウッズは決勝でスチュワート・シン クを破って優勝したが、同選手との決勝は9年の歴史を持つこの大会の中で最 も大差を付けた勝負だった。

さらに数字を挙げよう。同試合の勝利でウッズの通算成績は63勝と、ア ーノルド・パーマーを抜いた。あと2勝でベン・ホーガンを抜き、歴代3位と なる。残り歴代上位2人は、サム・スニードとニクラウス。

考えてほしい。ウッズはまだ32歳だ。つまり、彼はこれから円熟期に入 っていくところだ。ゴルフの世界は、精神力が体力に追いつくまでに時間がか かる。結婚がウッズの足かせになると予想した人たちがいたが、今ではお笑い 草だ。そんなことはなかった。次に子を持つ父となった。ここでもそれは足か せにならなかった。今後もそうだろう。

シンクは「ウッズは混乱に陥るということがない。常に自分をコントロ ールできている」とし、「彼の体をスライスして内部を調べてみる必要がある と思う。多分、ボルトとナットが出てくだろうね」と語った。

機械ではない

ウッズは機械ではない。彼は情緒豊かだ。ご存知のように涙も流す。創 造力もある。鉄のように強いゴルフをするからといって、動じないのは何事も 気に掛けないためだと誤解してはいけない。ウッズは十分気に掛けているのだ。 例えば、クリス・ディマルコ、ブー・ウィークリー両選手はしばしば勝利を収 め、蓄えを築き、前進していくことで満足しているようにみえる。ウッズはそ れを超越しているのだ。

ディマルコは「試合に勝つことは素晴らしく、極めて難しい。でも私の 人生にはほかにもいろいろある」と語る。

今年出場する全試合に勝利してそのインタビューで観客を喜ばせること ができそうかと尋ねられた際のウッズの受け答えに彼の気配りが垣間見える。 ウッズは「僕はそれを目標にしている」と答え、「勝てないと思って試合に臨 めば、勝てないからね」と述べた。

それは「自信」であり、議会公聴会でよく見受けられる「尊大さ」ではな い。 (スコット・ソシュニック)

(ソシュニック氏は、ブルームバーグ・ニュースのコラムニストです。 このコラムの内容は同氏自身の見解です)

    最新の情報は、ブルームバーグ端末にて提供中
    LEARN MORE