水野日銀委員:利下げには慎重-将来的にも効果は大きくない(3)

日本銀行の水野温氏審議委員は28日午後、 大分市内で会見し、「今のわが国の金融環境は極めて緩和的」とした上で、利下 げについては「効果よりも副作用について、いつもに増して慎重にならなければ ならない」と述べた。また、景気認識や金融環境が緩和的という認識が変われば、 「金融政策がどうあるべきかという結論も変わってくる」としながらも、利下げ の効果は「将来についても、必ずしも大きくないだろう」との見方を示した。

同日朝発表された1月の鉱工業生産指数は前月比2.0%低下と事前予想を大 きく下回った。水野委員は「全体をみると12月までの高い伸びの反動が出てい る形で横ばい圏内の動き」と指摘。「在庫率は前月比4%減と落ちている。在庫 調整が広がることによって、4-6月まで生産が弱くなっていくという動きでは なくて、1-3月は横ばい圏内で、4-6月については世界経済の需要動向によ って変り得るという印象を受けている」と述べた。

その上で、「今のところ、生産についての判断は、足元で横ばい圏内を続け た後、先行き緩やかながら増加基調をたどるという2月の金融経済月報の見方で 良いかと思う」と語った。

不確実性がいつもにも増して高まっている

水野委員は日本経済について「景気を支えるメカニズムは現時点でも機能し ている」としながらも、「足元でダウンサイドリスクが高まっている」と指摘。 「今後公表される指標や情報、内外の金融市場の状況等を丹念に点検し、景気を 支えるメカニズムが今後もしっかりと機能するかどうか、丹念に見ていかなけれ ばならない」と述べた。

水野委員はさらに、「わが国の景気は基調としては緩やかに拡大しているも のの、踊り場的な状況にある」と指摘。「今後の米国を中心とした世界経済の動 向、原材料価格の高騰の影響、金融市場の動向その他によって、先行きには非常 に不確実性がいつもに増して高まっている」と語った。

その上で、踊り場を脱する時期について「予断を持てる状況ではない」と言 明。こうした不確実要因によって「景気判断が上にも下にも変わり得る」と述べ た。水野委員は一方で、日本経済が「下に落ちていくという蓋然(がいぜん)性 が非常に高まったかというと、私はそこまで悲観的には見ていない」と指摘。 「基本的には前向きのメカニズム自体は維持されている」と語った。

将来的にも利下げの効果は大きくない

金融政策運営については、「今のわが国の金融環境は極めて緩和的な状況に ある」と指摘。「現時点で入手可能な経済見通しに関わるデータの中では、利下 げについてはその効果よりも副作用について非常に、いつもに増して慎重になら なければならない」と述べた。

水野委員はその上で「当然、大前提である景気の認識が変わる、あるいは金 融環境が緩和的だという私の認識が変わるときは、効果と副作用の判断も変わっ てくるので、金融政策がどうあるべきかという結論も変わってくる」と語った。

水野委員は一方で「低金利が長く続いたこともあり、金利に対する感応度が 非常に弱くなっている」と指摘。「金利を下げても上げても、物価は低インフレ が続く可能性が高い、景気も回復するとしても、息は長いかもしれないが緩やか だという認識、あるいは期待が市場で強い状況では、利下げの効果は将来につい ても必ずしも大きくないだろうということは、今の時点で推測される」と述べた。

主な一問一答は次の通り。

――今朝発表された1月の鉱工業生産指数は前月比2.0%低下と事前予想より悪 かった。生産・所得・支出の好循環のメカニズムについてあらためてうかがいた い。

「詳細はまだ承知してないが、ヘッドラインの数字と2、3月の予測指数 を見た限り、全体をみると12月までの高い伸びの反動が出ている形で横ばい圏 内の動きで、日銀や経済産業省の判断と整合性が取れているのではないか。出荷 の落ち方は生産に比べて低く、その結果、在庫率は前月比4%減と落ちている」

「在庫調整が広がることによって、4-6月まで生産が弱くなっていくとい う動きではなくて、1-3月は横ばい圏内で、4-6月については世界経済の需 要動向によって変り得るという印象を受けている。今のところ、生産についての 判断は、足元で横ばい圏内を続けた後、先行き緩やかながら増加基調をたどると いう2月の金融経済月報の見方で良いかと思う」

「生産・所得・支出の好循環のメカニズムについては、基本的には世界経済 との接点である輸出を起点として企業部門が成長を続け、その果実が緩やかに家 計部門に波及していると考えている。企業部門の回復が緩やかに家計部門に波及 するというのは、企業部門が激しいグローバル競争に直面している下で、このと ころ原材料価格の高騰を受けて、企業の賃金抑制姿勢が引き続き強いためだ。す なわち、一人当たりの名目賃金がなかなか上昇しないことを前提にしている」

「こうした中で、非正規雇用の正規化も含めた雇用の増加と安定、財産所得 の増加等を通じて、企業部門の果実が家計部門に波及している。以上のように、 景気を支えるメカニズムは現時点でも機能している。ただし、わが国経済は足元 でダウンサイドリスクが高まっているので、今後公表される指標や情報、内外の 金融市場の状況等を丹念に点検し、景気を支えるメカニズムが今後もしっかりと 機能するかどうか、丹念に見ていかなければならない」

――講演で「景気は踊り場的な状況」と指摘されたが、踊り場的状況はいつ脱す ることができるとお考えか。

「わが国の景気は基調としては緩やかに拡大しているものの、踊り場的な状 況にあると個人的には思っている。これは日銀の金融経済月報で書いてある基本 的見解を言い換えたものに近いと思ってほしい」

「踊り場的な状況とは、景気のベクトルとしては横ばいを続けながら、2月 の金融経済月報に盛り込んだように、今後の米国を中心とした世界経済の動向、 原材料価格の高騰の影響、金融市場の動向その他によって景気の先行きには非常 に不確実性がいつもに増して高まっている。そういう意味で今は時期について予 断を持てる状況ではない。そういうものによって、景気判断が上にも下にも変わ り得るという意味でも踊り場ということだと思う」

「基本的には、日本経済は内憂外患に直面しているという判断で、12月の 金融政策決定会合で、利上げ提案から現状維持に賛成に回った。内憂については、 08年はたとえば定率減税の廃止の影響、改正建築基準法の施行など制度的な影 響は減衰してくると思うが、外患については、たとえば米国経済の回復時期が遅 れる可能性について今日は指摘した」

「2つ目に、日本経済のメカニズムに影響を与えるものとして、ここにきて ますます予断を許せなくなってきたのは素原材料価格の上昇であり、これについ ては非常に注意深く見なければならない。サブプライム問題については、まだ米 国住宅市況の底入れのめどが立っていないのに加え、それが米国以外の経済金融 情勢に与える影響はまだ完全には情報が集まっていない」

「ただ、下に落ちていくという蓋然性が非常に高まったかというと、私はそ こまで悲観的には見ていないので、基本的には前向きのメカニズム自体は維持さ れているという判断を他の政策委員とシェアしている」

――講演で「利下げをしても追加的な景気下支え効果は不確実だ」と述べられた が、利下げには非常に否定的という理解でよいか。

「今のわが国の金融環境は極めて緩和的な状況にある。その上で今、利下げ について議論するという仮定に立った場合、その効果と副作用について、現時点 で入手可能な経済見通しにかかわるデータの中では、利下げについてはその効果 よりも副作用について非常に、いつもに増して慎重にならなければならない」

「当然、大前提である景気の認識が変わる、あるいは金融環境が緩和的だと いう私の認識が変わるときは、効果と副作用の判断も変わってくるので、金融政 策がどうあるべきかという結論も変わってくる。あくまで現時点においては利下 げについて慎重だ。利下げについて議論するときには効果と同時に、副作用につ いてより強く意識している」

――利下げの副作用について、具体的に述べていただきたい。また、景気認識が 変わったとしても、利下げの効果は不確実だとお考えか。

「景気判断の見通しが定まるにはもう少しデータが必要だ。しかも、日銀が コントロールできないことによってわれわれの景気判断が変わり得る可能性がい つもにも増して大きいと考えている。当面、慎重に判断しなければならないと考 えている」

「今の状況で金利を下げることの副作用は、低金利政策を続けていることの 効果が十分出ていると思っているので、その中でさらに(利下げを)やるという ことについては、金利の正常化―景気が中期的に拡大を続けていくという見通し の中で、金利を緩やかに引き上げていくという金融政策方針を掲げているわけな ので、この方針から外れて元に復するための時間的な問題がある」

「それから、金融政策にはラグがあるので、それを考えると、景気の先行き 不透明感が多少強まったからといって、すぐ利下げを議論するのはどうかという 一般論の話だ」

「将来的な話をすれば、利下げする効果でまず考えなければならないのは、 日本経済自体、低金利が長く続いたこともあり、金利に対する感応度が非常に弱 くなっている。金利を下げても上げても、物価については低インフレが続く可能 性が高い、景気も回復するとしても、息は長いかもしれないが緩やかだという認 識、あるいは期待が市場で強い状況では、利下げの効果は将来についても必ずし も大きくないだろうということは、今の時点で推測される」