利下げと景気刺激策、米国経済の長期的な処方せんにならない恐れも

米国で今年、バーナンキ連邦準備制度理事 会(FRB)議長とブッシュ大統領、連邦議会がリセッション(景気後退)回 避の戦いに勝ったとしても、経済を強化する長期的な戦いには敗れる恐れがあ る。

今月議会が可決し、ブッシュ大統領が署名した景気刺激策では、総額1070 億ドル(約11兆4800億円)の戻し減税の一部が消費に回り、今年後半には景 気浮揚効果が表れる見込みだが、その効果が色あせれば反動的な落ち込みの可 能性もある。そうなれば金融業界の委縮や個人負債の拡大、生産性の成長鈍化 といった米経済の根底にある弱点が頭をもたげてくるかもしれない。

ボルカー元FRB議長の補佐を務めた経歴があるクレディ・スイス・グル ープのエコノミスト、ニール・ソス氏は「1、2四半期で終わる現象ではない」 と指摘。「V字型の回復になることもない。低成長シナリオだ」と語った。

米金融当局によると、来年の成長率は2%超に持ち直す見込みだ。インフ レ率は2%かそれ以下にとどまるという。バーナンキFRB議長は27、28日に この見通しについての議会証言を行う。

これまでのところ、今年に入って実施された2001年以来の大幅な利下げは、 金融市場や経済の助けになっていない。利下げがもたらしたのは、招かれざる インフレ期待の高まりだ。金相場は先週、過去最高の1オンス=958.40ドルに 達した。

「簡単ではない」

連邦準備制度の元職員で現在、ライトソンICAPの主任エコノミストの ルイス・クランドール氏は「連邦準備制度は1つの金利を操作するだけで、金 融市場や実体経済、物価水準を安定させようとしている」と指摘。「これは簡単 なことではない」と語った。

ソス氏やリーマン・ブラザーズ・ホールディングスのイーサン・ハリス氏 は、金融当局が直面しているのは、利下げや減税といった伝統的な政策措置の 効き目がさほど表れなくなった経済の構造的な変化だと指摘する。ソス氏は、 今年の成長率が1.3%、来年が約1.5%にとどまるとみている。ハリス氏の予想 は今年が1.1%、来年が0.9%と、さらに悲観的だ。

FRBは20日公開した1月29、30日開催の連邦公開市場委員会(FOM C)議事録で、金融市場の信用逼迫(ひっぱく)問題に先手を打つのに苦労し ていることを明らかにした。

10年間にわたり好調な利益を生み出していた金融業界は、昨年第3四半期 に業績が急激に悪化したため、信用を縮小させて資本を確保している。過去の 融資の焦げ付きにより、金融機関が昨年初め以降に計上した評価損は計1630億 ドルに達している。

融資基準引き上げ

FRBが4日発表した四半期調査によると、2007年11月-08年1月に企 業や個人向けの融資基準を引き上げた銀行は増加した。金融当局は今後もこの 傾向は続くとみており、利下げを通じた景気刺激は一段と困難になっている。

元ダラス連銀総裁のロバート・マクティア氏は、20日のブルームバーグテ レビジョンとのインタビューで「連邦準備制度の政策措置は、今回の状況への 対処にはさほど適していないかもしれない」と指摘。「連邦準備制度は、市場に 流動性をもたらすことはできるが、市場が支払い能力不足のリスクを恐れてい る場合は対応できることが少ない」と語った。

これまで景気拡大のけん引役を務めてきた消費者も逼迫感を覚えている。 戻し減税は短期的な浮揚効果をもたらすかもしれないが、より長期的な財政事 情は不安定だ。

昨年12月、15年前に10%近くあった可処分所得に対する家計貯蓄の割合 がほぼゼロとなった。クレジットカード業界の調査機関カードウェブ・ドット・ コムのロバート・マッキンレー社長によると、カード各社は融資基準を引き上 げており、消費者は融資を受けるのが困難になっているという。

住宅価格

住宅価格の低下も個人消費のマイナス要因だ。全米20都市部を対象にした 昨年11月の米スタンダード・アンド・プアーズ(S&P)/ケース・シラー住 宅価格指数は前年同月比で7.7%低下した。

ディシジョン・エコノミクスの主任エコノミスト、アレン・サイナイ氏は、 個人消費の落ち込みは「著しい転換を意味しており、個人消費の伸び率は今後 数年にわたり長期平均の3.5%を大幅に下回ることになる」との見通しを示した。

食品、燃料など生活必需品の価格上昇も消費者に打撃を与えている。昨年 12月の個人消費支出(PCE)価格指数は前年同月比3.5%上昇と、12月とし ては1990年以来の高い伸びとなった。

住宅ローン金利の目安となる10年国債利回りは22日に3.80%と、1カ月 前の3.44%から上昇。連邦準備制度がその間に計1.25ポイントの利下げを実施 したにもかかわらず利回りは上昇した。

生産性の鈍化も、インフレ懸念につながっている。生産性が伸びなければ、 企業はコスト高を効率向上で埋め合わせるのが難しくなる。

ノースウエスタン大学のロバート・ゴードン教授は、1995年ごろに始まっ た生産性の大幅な伸びは、インターネットの出現に伴う一時的な出来事だった との見方を示した。生産性の潜在成長率は約1.8%とみている。

2006年にノーベル経済学賞を受賞した米コロンビア大学のエドモンド・フ ェルプス教授は、構造的変化に直面している連邦準備制度ができることはほと んどないと指摘。「一連のブームは終わってしまったように思える」と語り、「そ の結果、成長率がこれまでより低い時期を迎えることになる」との見通しを示 した。

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