16日と28人-ケルビエル氏のうそ看破にソシエテが要した日数と人数

欧州株式相場が崩れ始めた1月上旬の5日間、 フランスの銀行ソシエテ・ジェネラルのトレーダー(当時)、ジェローム・ケルビ エル氏は専門用語を駆使してうそをつき続けた。最終的に銀行史上最大の損失を もたらし、同容疑者の失職へつながる不正取引が発見されないよう努めたのだ。

20日に公表されたソシエテの内部調査報告書によれば、ある女性行員はケル ビエル氏に取引相手が高いリスクを取った理由について尋ねたものの、返ってき た説明があまりに込み入っていたため、それ以上の追究を断念した。この行員は、 1月2日に始まった取引8件について最初に疑義を呈したバックオフィスやミド ルオフィス、リスク管理部門の4行員の1人だった。

報告書は、デリバティブ(金融派生商品)市場の形成に一役買ってきたソシ エテのリスク管理を批判する内容となった。ケルビエル容疑者が取引相手を変更 したり解消するなか、同容疑者の説明内容を疑問視することもなく、さらに詳し い調査も実施されないままリスク管理が行われていた実態が明らかになった。

ランデスバンキ・ケプラーのアナリスト、ピエール・フラベー氏(パリ在勤) は「銀行内には『自由放任主義』がまん延していたようだ」と語り、「トレーダー は稼ぎたいし、成功に酔わされる可能性もある。限度の考え方が緩やかだったよ うだ」と述べた。

ソシエテによれば、ケルビエル容疑者は相場が下落するとの見通しで取引が うまくいっていたものの、ドイツのDAX指数やダウ・ユーロ50種株価指数の 反発に賭けるポジションへ変更。1月2日から不正取引が発覚した同月18日ま での間に、DAX指数は8%下落した。

この不正取引による49億ユーロ(約7790億円)の損失をソシエテが発表 して以来、同行の株価は12%下落。今のところ同行取締役会は、辞任の意向を示 したダニエル・ブトン会長兼共同最高経営責任者(CEO)の留任を支持してい る。

75件の警告がふいに

取締役会が1月30日に委託した調査の報告書によると、ソシエテはケルビ エル容疑者の取引に関して75件の警告があったのに、これをフォローすること ができなかった。報告書は同容疑者が単独で不正取引を行ったと結論付けている。

ソシエテ傘下の米証券部門フィマットの元マネジングディレクター、スタン レー・ジョナス氏は、ケルビエル容疑者が「気付いた素晴らしい事実は、いかに リスク管理システムが不十分かということだった」と語る。また、同容疑者が通 常の先物取引のみでなく、ソシエテの株式デリバティブ事業の根幹を成すオプシ ョンやワラントも積極的に取り扱っていたことが報告書で明らかに出たことが注 目点だとも指摘した。

報告書によれば、法令順守担当者が取引相手に関するケルビエル容疑者の説 明に惑わされた翌日の1月9日、ほかの行員が同容疑者に2度にわたって事情を はっきりさせるよう求めた。しかし取引は解消され、「今後表面化することはない」 との説明で一件落着してしまった。しかし、この件は、ソシエテが資本基準の算 定で年末のエクスポージャーを再構成するという例年の作業をするなかで1月 15日に再び表面化。ケルビエル容疑者が12月に始めた取引向けに30億ユーロ が必要なことが分かった。同日夕まで、担当者らはケルビエル容疑者の説明に困 惑。その後、3日間にわたって、この取引に関して電子メールが行き交った。

本当の相手はドイツ銀?

1月17日遅くになって、会議に呼ばれたケルビエル容疑者は5人の担当者 に対して本当の取引相手はドイツの大手銀行で、3億9000万ユーロで取引が解 消できると説明した。裁判所の資料によれば、この銀行はドイツ銀行という。そ の翌日、一人の担当者がケルビエル容疑者に面会し、直後に同容疑者はドイツ銀 からとみられるファクスを作成した。別の担当者がドイツ銀に連絡してみたが、 同行はこの取引を確認できなかった。

この時点で初めて、ソシエテの投資銀行部門のジャンピエール・ムスティエ CEOに連絡が入った。そして同行は週末を徹して、取引の真相を突き止めた。

今回の事件はトレーディング部門と管理部門の間に内在するあつれきを浮き 彫りにした。ボストン大学のタマー・フランケル教授(法律学)は「一方では銀 行に富をもたらす人間が、もう片方には損失リスクのために稼ぎを抑制する人間 がいる」と指摘。「力関係でどちらが上か、考えてみるとよい」と語った。

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