福井日銀総裁:世界経済は不確実性増している-市場の動揺続く(4)

(第4段落以降に発言と一問一答を追加します)

【記者:日高正裕】

2月15日(ブルームバーグ):日本銀行の福井俊彦総裁は15日午後、定例 会見し、国際金融資本市場は「サブプライム(信用力の低い個人向け住宅ロー ン)問題に端を発した動揺がなお続いており、依然として不安定な状態にある」 と指摘した上で、世界経済は「全体として拡大を続けているが、国際金融資本市 場の動揺が続く中で、不確実性が増している」と語った。

福井総裁は米国経済について「景気の減速傾向が一段と強まっている。住 宅投資が大幅な減少を続けているほか、個人消費も足元では減速傾向がやや明確 になってきている。金融機関の与信態度のタイト化がやや幅広い分野で進行して いる」と指摘。国際金融資本市場や世界経済の実体面での調整には「それなりに 時間を要する」と述べた。

日本経済については「生産・所得・支出の好循環メカニズムが基本的に維 持される中で、緩やかな拡大が続く蓋然(がいぜん)性が引き続き高い」としな がらも、「好循環のメカニズムは足元でやや弱まっている」と指摘。「世界経済、 あるいは国際金融資本市場、原材料高の影響などを含む不確実性に加え、国内景 気も足元、住宅投資の減少などから減速している」と指摘した。

デカップリングはあり得ない

福井総裁はサブプライム問題の影響について、国際的に短期金融市場では 「落ち着きを取り戻しつつある」が、「問題の発端である証券化商品市場では、 引き続き機能が低下した状況にある」と指摘。「銀行の貸し出し姿勢の厳格化も あり、米国、欧州の金融環境は従前に比べタイト化している」と述べた。

福井総裁はさらに「株式市場や為替市場は世界的に振れの大きな展開とな っており、これらを見ていると、投資家のリスク回避姿勢は引き続き強いと感じ られる」と語った。

米国など先進国の経済が減速しても、新興諸国の高成長が続くというデカ ップリング(非連動)論についても「経済の完全なデカップリングはもともとあ り得ないのではないか。あくまでも程度問題だ」と指摘。「直接、株式市場など では非常に大きなマグニチュードで影響を受けているが、それ以外の分野でも当 初の予想を上回る影響が出てきていることも否めない」と語った。

その上で、「米国経済が一段と減速して世界経済全体に影響を与えるリス クは、やはり米国においてダウンサイドリスクが実際に顕現化すればするほど、 他国への影響の心配も高まっていくと考えていた方がよい」と述べた。

十分先につながる金融政策ができている

福井総裁は国内の金融政策運営については「今後公表される指標や情報、 内外の金融資本市場の状況などを丹念に点検し、見通しの蓋然性とそれに対する リスクをさらに見極めた上で、適切な政策判断を行っていきたい」と述べた。

福井総裁はまた、日銀の金融政策運営を自ら評価して、「生産・所得・支 出の好循環メカニズムは基本的に損なわれないで、先行きにもこれからうまくつ なげていける可能性を十分残して、今、政策運営が行われている。これからの努 力がいっそう必要だと思うが、十分先行きにつながる金融政策運営ができている と一応思っている」と語った。

インフレのリスクは小さいが

消費者物価指数(除く生鮮食品、コアCPI)の前年比上昇率が昨年12月 に前年同月比0.8%上昇するなど、プラス幅を拡大していることについては「イ ンフレリスクは欧米に比べて小さい。インフレ期待が急に誘発されるリスクも低 い」と述べた。

福井総裁は一方で、「緩やかであっても、先々息の長い成長を確保してい こうということであり、現実にその経路がより強く見えてくれば、やはり物価上 昇圧力は知らない間に強まっていく」と指摘した。

その上で「物価上昇率がまだ比較的マイルドであり、人々のインフレ期待 もしずまっているからといって、全く安心して目を離して、しばらく情勢判断を してよいかというと、やはりそうはいかない。常に中央銀行としては十分そこを カウントして、総体としての情勢判断をし続けていかなければならない」と語っ た。

国債買い入れ額は比較的大きいが

現在、月1兆2000億円のペースで行っている長期国債の買い入れについて は「今の買い入れ額が比較的大きいことは認める」としながらも、「日銀のバラ ンスシートに偏りがあり過ぎるため、弾力的な金融調節ができず、支障があると いう状況には全くなっていない」と指摘。その上で「長期国債の買い入れ額を急 激に減らす必然性は必ずしもない」と述べた。

長期国債買い入れの将来的な扱いについては「成長通貨供給の範囲内とい う広い意味合いの中にきちんと収めていく、かつ日々の日銀の金融調節運営の道 具立てとして偏りがあり過ぎて窮屈だという感じがないように、多少、早めに手 を打ちながら、必要があれば修正していくことが大切ではないか」と指摘。買い 入れ額の縮小を図かる場合には「予見可能な方法でやっていく」と語った。

主な一問一答は次の通り。

――本日の決定の背景をご説明ください。

「前回の会合以降、日本経済を取り巻く環境、日本経済自身の現状と見通 しは、それほど大きな変化があったわけではない。世界経済は全体として拡大を 続けているが、国際金融資本市場の動揺が続く中で、不確実性が増している」

「特にサブプライム問題の震源地である米国では、景気の減速傾向が一段 と強まっている。バーナンキ米連邦準備制度理事会(FRB)議長が議会証言を している通りだ。住宅投資が大幅な減少を続けているほか、個人消費も足元では 減速傾向がやや明確になってきているということのようだ。また、金融機関の与 信態度のタイト化がやや幅広い分野で進行している状況にあるようだ」

「日本経済については、輸出は新興諸国や産油国など幅広い地域で増加を 続けている。先行きについては、海外経済が減速しつつも拡大を続ける下で、増 加を続けていくとみられる。国内の民間需要については、企業収益が総じて高水 準で推移する中、設備投資は引き続き増加基調にあると判断している。住宅投資 が改正建築基準法の施行の影響で大幅に減少しているが、設備投資は引き続き増 加基調にあるとみている」

「雇用・所得の面では、一人当たり賃金はやや弱めの動きが続いているが、 雇用者数は増加しており、雇用者所得は増加を続けている。個人消費は従来同様 に底堅く推移していると認識している」

「このように内外の需要の増加する中で、生産は増加を続けている。生産 の先行きは、これまで大幅に増加してきた自動車の反動があるし、IT(情報技 術)関連のところも多少の振幅があることもあり、生産は当面横ばう局面がある ものの、在庫と出荷がおおむねバランスの取れた状態にあることを考えれば、生 産は増加基調をたどるとみられる」

「物価の面では、国内企業物価は国際商品市況高などを背景に3カ月前比 で見て上昇しており、当面上昇を続ける可能性が高いとみられる。消費者物価指 数は当面は石油製品や食料品の価格上昇などから、また、より長い目で見ると、 マクロ的な需給ギャップが需要超過方向で推移していく中、プラス基調を続けて いくと予想される」

「日本経済は生産・所得・支出の好循環メカニズムが基本的に維持される 中で、緩やかな拡大が続く蓋然性が引き続き高いと判断している。そう判断して いるが、世界経済、あるいは国際金融資本市場、原材料高の影響などを含む不確 実性に加え、国内景気も足元、住宅投資の減少などから減速しているとみられ る」

「私どもとしては、今後公表される指標や情報、内外の金融資本市場の状 況などを丹念に点検し、見通しの蓋然性とそれに対するリスクをさらに見極めた 上で、適切な政策判断を行っていきたい」

――サブプライム問題の現状と先行きをどうみるか。

「国際金融資本市場では、サブプライム問題に端を発した動揺がなお続い ており、依然として不安定な状態にあると言える。証券化商品のさらになる格下 げ、あるいはモノライン各社の格下げ、金融機関の損失の拡大など、こうした金 融面の動きが重なっていることに加え、金融環境のタイト化の影響などが実体経 済面に影響を及ぼしつつある、あるいは影響を及ぼすのではないかという懸念が 強まっているということも指摘されている」

「市場ごとに見ると、短期金融市場では昨年12月以降の各国中央銀行の流 動性供給措置もあり、ターム物金利は低下し、TED(米3カ月物TBと3カ月 物LIBORとの金利差)スプレッドも縮小するなど、落ち着きを取り戻しつつ ある。3月末が近づいているので、各国中央銀行で注意深く調整を進めることに なろうかと思うが、短期金融市場については一応そういう感じだ」

「一方、問題の発端である証券化商品市場では、引き続き機能が低下した 状況にある。より広く企業金融全般を見ても、社債プレミアムやCDS(クレジ ット・デフォルトスワップ)プレミアムは拡大しているほか、銀行の貸し出し姿 勢の厳格化もあり、米国、欧州の金融環境は従前に比べタイト化している。その ほか、株式市場や為替市場は世界的に振れの大きな展開となっており、これらを 見ていると、投資家のリスク回避姿勢は引き続き強いと感じられる」

「こうした今般の国際金融資本市場の変動はリスク再評価の過程であり、 この修正過程を今後とも秩序だって進めていくことが大切だ。同時に実体経済の 秩序ある調整も進めていかなければならない。この調整にはそれなりの時間を要 すると考えられる。そのための事実認識と対応の方向性については、今回のG7 を含めて各国で共有されている」

――中小企業の現状をどうみているか。

「中小企業は最近、業況判断が少し後退している。収益の見通しが少し悪 くなっていることはわれわれも十分認識している。エネルギー、原材料価格の高 騰等、コスト高から収益が圧迫されていることが非常に大きな原因になっている と思うし、改正建築基準法の施行に伴う影響も中小企業にも強い影響を及ぼして いる」

「それにとどまらず、中小企業、特に規模の小さな企業において、ボーナ スの支払いその他、企業所得の賃金への還元も事前の予想より弱めに出ている。 これらは家計部門、消費者の心理にも多少悪い影響を及ぼしていると受け止めて いる」

「したがって、われわれはマクロの経済の判断をしていく場合、一番軸と していくのは生産・所得・支出の循環メカニズムだが、生産が伸びたときに企業 所得がどのように形成されるかという部分で、中小企業の部分にプロフィット・ スクイーズ(収益の圧迫)が起きていることには注目している。そこからさらに 家計部門への還元というところで、中小企業段階での賃金の状況が大企業に比べ てさらに鈍いということも認識している」

「これらが最終的に、生産・所得・支出の支出の段階で消費者マインドに 陰りを及ぼしているとすれば、そこにも影響が及んでくる。したがって、生産・ 所得・支出の好循環メカニズムが基本的に維持されているが、足元ではそのメカ ニズムが若干弱まっていると認識している。今後そのショックを吸収しながら、 そのリズム感をもう少し良い方向にうまく運営していかなければならない」

――デカップリング(先進国と新興諸国の経済の非連動)についてどう考えるか。

「グローバル化の進展の下での、各国の経済は相互連関を強めながら経済 のダイナミクスをつくっていく。各国で生じた現象は輸出入や国際的な金融取引 など、さまざまなルートを通じて他国の経済に影響をお互いに与えながら前進し ていく。だから経済の完全なデカップリングはもともとあり得ないのではないか。 あくまでも程度問題だ」

「世界経済の中で成長をけん引する力が、米国など先進諸国から新興諸国 などを含む形に多極化している。その意味で、米国経済の動向が世界経済に与え る影響は相対的に小さくなりつつある。近年の世界経済の姿を見ると、米国経済 の寄与が低下して、新興諸国の寄与が高まっている。これは国際通貨基金(IM F)の世界経済見通し(WEO)を見ても非常に明確だ。こうした下では、日本 の米国向け輸出の比率はやはり下がってくる」

「日本の輸出への影響が大きいIT関連財の最終需要地は、かつては米国 に偏っていたが、米国以外への広がりをどんどん見せている状況だ。米国経済で 多少の下振れが生じても、わが国への影響がある程度吸収される。しかし、サブ プライム問題に端を発した国際金融資本市場の調整が続く中、住宅市場の調整や 金融資本市場の変動の影響が全く無縁に済むかと言うとやはりそうはいかない」

「直接、株式市場などでは非常に大きなマグニチュードで影響を受けてい るが、それ以外の分野でも当初の予想を上回る影響が出てきていることも否めな い。米国経済が一段と減速して世界経済全体に影響を与えるリスクは、やはり米 国においてダウンサイドリスクが実際に顕現化すればするほど、他国への影響の 心配も高まっていくと考えていた方がよい」

「かつてに比べて貿易等を通じる直接的なショックは度合いが少し薄まっ ているとは言えると思う。先行きを見るとき、デカップリングを当然の前提とし て考えるというのは、少し考え方が甘すぎると言えると思う」

――国内のインフレ圧力をどうみるか。

「日本経済は改正建築基準法の施行の影響もあって、一時的にぎりぎり潜 在成長能力並みか、あるいはそれを下回るかというペースに落ちているので、需 給要因から物価を押し上げる力は、欧米に比べると少し弱い状況にある」

「まして、近隣諸国との競争を意識して、さらなる競争力をつけていこう とする企業の経営姿勢から見て、あるいは働く側から見ても、引き続き賃上げよ りは雇用の安定を志向するという国内の経済的な雰囲気の中において、原材料価 格、エネルギー価格が賃金上昇を大きく触発するというリスクは非常に小さくな っている」

「引き続き周辺諸国との競争力の確保、あるいは向上を考えると、固定費 抑制が一つの大きなツールになるため、最終価格への転嫁の度合いを最小にしな がら経済全体が流れている。インフレリスクは欧米に比べて小さい。あるいはイ ンフレ期待が急に誘発されるリスクも低いと思う」

「しかし、緩やかであっても、先々息の長い成長を確保していこうという ことであり、現実にその経路がより強く見えてくれば、やはり物価上昇圧力は知 らない間に強まっていくので、そこに全く目を離して政策運営上の判断をしてよ いというわけにはいかないと思う」

「物価上昇率がまだ比較的マイルドであり、人々のインフレ期待もしずま っているからといって、全く安心して目を離して、しばらく情勢判断をしてよい かというと、やはりそうはいかない。常に中央銀行としては十分そこをカウント して、総体としての情勢判断をし続けていかなければならない」

――長期国債の買い入れ額を中長期的にどうするのか。

「長期国債の買い入れというツールは中央銀行にとって必ずしも例外的な ものではない。長期国債も短期国債も適切な組み合わせで、政策金利を実現する ために必要な流動性の需給調節をやっていく。各国でその組み合わせ方はそれぞ れ違っているが、期間の長い資産を買い入れる場合、基本的には、いわゆる底だ まり的に流動性を供給していく手段になる。かつての成長通貨の増加に見合った 範囲内で買い入れるといった考え方は、こういったところから出ている」

「5年以上も前、金融がかなり危機的な状況にあったときに、日銀が長期 国債の買い入れ額をかなり大幅に増やした。しかし、その時期も、銀行券の発行 残高の範囲というしっかりした天井を設けた。銀行券の発行残高というのは、言 ってみれば成長通貨の供給残高みたいなものだ。その範囲内で資金供給するとい うことなので、成長通貨の供給の範囲内という延長線にあり、そこからはみ出し たものではない」

「今の買い入れ額が比較的大きいことは認める。認めるが、同時にペイオ フ解禁後、既にかなりの時間が経ち、金融システムも相対的に安定し、経済も落 ち着いた軌道に乗っている状況だが、銀行券の発行残高、あるいは伸び率がまだ かなり高い水準で推移している。銀行券の伸び率がかなり急激に下がる可能性が あるかと思ったが、そこがなかなか動かないので、銀行券の発行残高対比では、 長期国債買い入れ残高はまだかなり余裕を残した状態で推移している」

「また、実際のデュレーション(平均残存期間)はかなり幅があって、日 銀が持っている長期国債の平均残存期間は想像されるよりはかなり短い状況にあ る。さらに、政府の買い入れ償却がかなりの金額で行われ、日銀の保有国債もそ の対象となった。これによって日銀が保有する長期国債はかなり減っている。直 近で日銀が保有する長期国債の全資産に対する比率は、米国の連銀のそれよりも 低い状況だ」

「日銀が何か無理して非常に極端な状況になっていて、日銀のバランスシ ートに偏りがあり過ぎるため、金融政策調節上何か不便を感じたり、弾力的な金 融調節ができず、支障があるという状況には全くなっていない。したがって、長 期国債の買い入れ額を急激に減らす必然性は必ずしもない」

「先々まで見ると、銀行券の伸び率はもう少し下がっていくとみるのが普 通だし、そういった状況にあって成長通貨供給の範囲内という広い意味合いの中 にきちんと収めていく、かつ日々の日銀の金融調節運営の道具立てとして偏りが あり過ぎて窮屈だという感じがないように、多少早めに手を打ちながら、必要が あれば修正していくことが大切ではないかと思う」

「そういう点では、政策委員会の認識の共有はあると思っているし、かつ、 国会等でもお答えしたが、買い入れ額の収縮を図っていく場合には、予見可能な 方法でやっていく。突然びっくりさせるようなやり方ではない方法も工夫しなけ ればならないということも申し上げている」