【経済コラム】リッチなトレーダーの政治と性をめぐる妄想-M・ルイス

成功しているヘッジファンド・マネジャーに は、自分の政治的意見をもっと世の中に広めるべきだと思うときが必ず訪れるも のだ。

私がそう考えるようになったのは他のヘッジファンド・マネジャーよりも遅 かった。初めて自家用ジェット機を買ったときでさえ、自分は平凡な米国民で、 「思想的リーダー」とは程遠い人間だと思っていた。

ところが数週間前、1700万ドル(約18億3000万円)で買った自宅マンシ ョンの一室で座っているとき、ついに悟ったのだ。平凡な人は4億7500万ドル の純資産など持っていやしない。私の政治的意見が、これまで成し遂げたほかの すべての事と同様に貴重なものだとしたら、これを自分だけのものにしておくの は犯罪にも等しいのではないかと。

悟った夜の始まり方は特に変わっていたわけではなかった。ある若い女性と 過ごすつもりでいた。その女性は、申し分のない分別を備えていた。私は自分の 心に正直でいたいので、彼女の名前は明かさない。

私は家に来た彼女に、緊張をほぐし陶酔に身を任せるように語り掛けた。や がて時計が深夜の零時を知らせ、私はいつものように「ブラックベリー」をチェ ックするため寝室を出た。

円キャリートレードの解消にいつもより時間がかかったせいか、それともこ の女性が特別賢かったせいなのか、私が寝室に戻るまでに彼女はすべてのリモー トコントロールの操作をマスターしていた。私が寝室のドアを開けると、高画質 のスクリーンから私を見下ろし、サラウンド・サウンドシステムで話し掛けてき たのは、ヒラリー・クリントン上院議員だった。

ムードを壊したくなかったので私は軽い調子で、「おや、ストリートファイ トでの歯の使い方を知っている女性がいるね」と言った。「ヒラリーのことを言 ってるの?」。そう答えた女性の声は氷のように冷たかった。

私が「彼女のほほ笑みは怒っているときに出るんだ。厳密に言えば、ほほ笑 みじゃないけどね。彼女は牙をむいているのさ」と続けると、サブプライムロー ン(信用力の低い個人向け住宅融資)を買うのに要する時間よりも短時間で彼女 は身支度を整え、私に論戦を仕掛けてきた。彼女によれば、私のような強い男は ヒラリー・クリントン氏を理解しないし、尊敬もしない。そして強い女性という 観念を認めようとしないというのだ。

彼女のクリントン氏をめぐる話は続き、1時間後に帰って行った。

1人になって、私は悟った。米国に暮らす私以外の男性が思っても口にでき ないことを語れるのは私だけではないかと。そして私は考えをまとめるため、そ の後の2週間は律義に大統領選のニュースを追った。

これから私の政治的意見を2つご紹介したい。

オピニオンその1

米国のすべての異性愛者の男性は、ヒラリー・クリントン上院議員が勝利す れば、数年間にわたる性的飢餓をもたらすことに気付くだろう。

私がこの原稿を書いている間にも、医者や弁護士など数百万の労働階級の男 性諸君は、妻をその気にさせようと必死の努力を繰り広げているに違いない。だ がこうした努力も報われないことだろう。

クリントン上院議員にまつわる話になると冗談が通じなくなる米国女性はま すます増殖している。各家庭のクリントン氏のような女性たちは、ベッドで少し ずつ夫から遠ざかっており、夫たちは事態の深刻さを理解しつつある。これはま るで底無しの株価暴落のようだ。

オピニオンその2

以上の考えに立脚して、ヘッジファンド・マネジャーの私が強調したい第2 の点は、大統領選における「争点」が実際よりも重要視され過ぎているというこ とだ。人生と同様、政治において意味のある主題は2つしかない。セックスと金 だ。

政治情勢が健全なときは、ありがたいことにセックスよりも金の方が重要に なる。米国民は、金銭的に自分の得になると考える方に投票する。だがもしそう なら、なぜ一部の金持ちがますます裕福になり、大多数の国民は請求書の支払い に追われるのかと疑問に思われるだろう。

これは真実だ。わが国の民主主義政府は、貧しい大衆より一握りの富裕層を 優遇してきた。その理由は、裕福な人たちは間違った候補者には投票しないから だ。われわれは、実際に自分たちを裕福にしてくれる候補者に投票する。しかし 貧しい人が投票するのは、単に裕福にしてくれると見せかけているだけで実際に は何もしない候補者なのだ。

ただ、最近のウォール街を見渡すと、政治的重要度において通常に反してセ ックスが金をしのいでいることを示す兆候が多く見受けられる。

例えばリーマン・ブラザーズ・ホールディングスだ。リーマンの有志は07 年10-12月期だけで11万3000ドルをクリントン陣営に寄付している。ただリ ーマンの男性トレーダーのなかで、クリントン候補が金銭的な損得勘定からみて 自分に得だと考えている者は皆無だろう。

彼らが寄付したのは、クリントン候補が好きだからでもないし、また同候補 の勝利を願っているからですらない。妻のご機嫌取りのためなのだ。ウォール街 の金融大手が不景気に見舞われている現在、結婚生活を維持することが離婚より も安くつくのだ。

オバマ候補をめぐっては、もっと困った兆候が見られる。何の見返りもなく ヘッジファンド・マネジャーへの増税を唱える男の演説に、当のヘッジファン ド・マネジャーらがそんなことも忘れて入れ込んでいるのだ。こんなことは、彼 らの人生で初めてのことではなかろうか。彼らに理由を尋ねても、説明できない だろう。

もし完全な同性愛者を1、野蛮な人間を10とする男性度を測るスペクトル があるとすれば、客観的に見て、自分も含めヘッジファンド・マネジャーの多く はこれまで10だった。ところが最近、同僚らがオバマ候補について語る様子を 見ると、彼らの多くがせいぜい8.5に低下していると思わざるを得ない。

長期的に見れば、これは彼らの取引の裏をかくのに利用できるかもしれない が、短期的にはわれわれ富裕層にとって好ましくない兆候だ。米国にとってもそ う言える。米国には自国の富裕層が必要なのだ。われわれが金持ちでなくなった ら、いったい誰が金持ちになるのか。 (マイケル・ルイス)

(ルイス氏はブルームバーグ・ニュースのコラムニストです。このコラム の内容は同氏自身の見解です)

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