世界は「ケルビエル予備軍」でいっぱい-業績連動ボーナスも誘因か

仏銀ソシエテ・ジェネラルの元トレーダー、 ジェローム・ケルビエル容疑者が、どうやって上司に気付かれることなく49 億ユーロ(約7620億円)の損失につながるような取引ができたのか探ろうと すると、ニューヨークやロンドンのトレーディングフロアにはほかに何人もの 「ケルビエル予備軍」がいることが分かる。

仏銀クレディ・アグリコルは2007年9月に、ニューヨークの投資銀行部 門の自己勘定での未承認取引によって2億5000万ユーロの損失が出たことを 明らかにした。カナダのトロント・ドミニオン銀行は同年11月に、ロンドン 支店の債券トレーダーの架空取引に気付かなかったことで英金融サービス機 構(FSA)から49万ポンド(約1億200万円)の罰金を科された。英銀H SBCホールディングスのヨハネスブルクのトレーディング責任者も同月に、 ヘッジファンド運用者とともに株価操作について南アフリカ共和国当局から 罰金を科された。

法律事務所ローレンス・グレアム(ロンドン)の金融グループ責任者ア ンジェラ・ヘイズ氏は「ソシエテで起こったことは、規模は飛び抜けているが 事件の性質は特殊なものではない」と話す。「より多くの金を手に入れる方法 があれば、人間はそういう行動を取るものだ」と同氏は述べた。

ウォール街の5大金融機関の07年賞与は合計で393億ドルと概算され、 03年の198億ドルから増えていた。ケルビエル容疑者の07年賞与は30万ユ ーロの予定だった。同氏の取引が損失を生じさせたのは1月になってからだ った。同氏の未承認取引がもたらした損失は、ニック・リーソン氏が1995年 に英投資銀行ベアリングズを破たんさせた時の14億ドル(約1500億円)の4 倍を超える。

弁護士に相談

法律事務所スターク・アンド・スターク(ニューヨーク)のパートナー、 ビル・シンガー氏は、経験の浅いトレーダーには「取引を続けて損失を取り返 そうとするよりも、損失を確定してしまった方が、多くの場合ましだというこ とが分からないことがある」として、「結果的に、問題は雪だるま式に膨らむ」 と指摘した。同氏は過去1年に、未承認取引で解雇されたトレーダー2人から、 将来の雇用主に対し何を明らかにすべきかの相談を受けたという。

また、ヘイズ氏は過去1年半に別々の投資銀行を解雇されたトレーダー3 人の代理人を務めた。インサイダートレーディング関連で法順守規則違反に問 われた者や、賞与の額を増やそうとして株取引のポジションの数字をごまかし た者がいたという。ヘイズ氏によれば、彼らの言い分は「みんながやっている」 だ。「なぜ自分のしたことがそれほど重大視されるのかが、なかなか理解でき ない」と同氏は指摘した。

金融機関は不祥事を当局に報告せず穏便に処理することが多いため、自己 勘定取引の状況を把握するのは難しいが、業界自主規制機関の米金融取引業規 制機構(FINRA)によると、顧客資金の未承認取引で投資家が調停を求め たケースが昨年は174件あった。

文書偽造とコンピューターシステムへの侵入、背任容疑で取り調べを受け ているケルビエル容疑者は警察に、トレーダーが許可されている上限を超えた 取引をするのはよくあることだと語ったという。

「トレーダーの精神分析」の著書のある臨床心理学者ブレット・スティ ーンバーガー氏によれば、銀行の管理の甘さも一因だ。「成績の良いトレー ダーが少々枠を広げてもうまくやっていればよいというような暗黙の了解が ある」と同氏は述べた。