JTは戦略に狂い、日清にはリスク回避との声も-冷食統合撤回(4)

中国製冷凍ギョーザ中毒事件を機に、4月に 予定していた日清食品との冷凍食品事業の統合計画を撤回したJT。事件で露呈 した対応の甘さに加え、統合解消にまで発展した冷凍食品事業の先行きは一段と 不透明になり、JTにとって同事業による収益貢献はさらに遅れそうだ。日清に とって統合解消は業績悪化リスクを回避できたとの声もある。破談の結果、JT 主導による業界再編は振り出しに戻った。

「極めて危機的。前提としていた事業見通しそのものが不透明。何らかの影 響を受けることは避けがたい」――。JTの木村宏社長は6日の会見で、事件発 覚後、初めて公の場に姿を見せ、自社の冷凍食品事業について厳しい認識を示し た。「もっと早く商品を回収していれば被害拡大を防げたのでは、という批判に は深く反省している」と述べ、発言に無念さをにじませて陳謝した。

JTの業績における食品事業の占める割合は、売上高で6%、営業利益で 2%(07年3月期実績)程度と依存度は小さい。他事業への影響もほとんどな いとみられ、今回の統合解消も「収益全体に深刻なマイナス影響が及ぶことには ならない」(三菱UFJ証券の下松慈明シニアクレジットアナリスト)。

しかし、JTにとって、食品は主力のたばこに次ぐ収益の柱として強化して いる事業。なかでも冷凍食品は成長が期待できる数少ない分野と位置づけていた。 木村社長は、冷凍食品市場に「楽観的な見通しは持っていない」としながらも、 今後も強化していく方針に「変わりはない」ことを表明した。

新生証券の松本康宏シニアアナリストは「事件の原因が究明されるまでは当 面、JTの冷凍食品事業は足踏み状態で収益貢献が遅れる」とみるが、「対応の 甘さはあったものの、原因は故意の犯行の可能性も強く、しばらくすれば冷凍食 品の需要は戻る」と想定し、戦略に変更がないことに一定の評価を示す。とはい え、「資金力のあるJTと食品のプロである日清は冷凍食品事業を成長させるの に理想的な組み合わせだっただけに、統合は解消すべきではなかった」という。

食の安全性で溝、主導権争いで亀裂か

では、3社による統合が再検討されることがあるのかといえば、難しそうだ。 木村社長は、その可能性について、「ないとは言わないが、冷凍食品事業の再生 のめどが立たないなか、すぐにいろいろ話ができるとは思わない」と否定的だ。 日清の安藤社長は「日清ではトレーが壊れていても全品を回収する。JTとは食 の安全性に対する考え方が違う」と述べ、安全性に対する見解の違いが浮き彫り になった。

さらには、今回の統合解消の大きな要因、日清が提案した「新生加ト吉への 出資比率引き上げ」も影を落とす。計画では、JTが加ト吉をTOB(株式公開 買い付け)で全額出資子会社にした後、株式の49%を日清に譲渡したうえで事 業統合することになっていた。

だが、3社社長が5日に会談し、日清の安藤宏基社長が安全対策のノウハウ 提供と49%から51%への出資比率引き上げを提案、これをJTが拒否した。木 村社長は会見で51%と49%は大きく違うことを強調し、「事件の当事者が責任 を放棄することになる。経営責任を希薄化させる方策はとりたくない」と述べ、 あくまで単独での事業再生を強調した。

新生証券の松本氏は「日清の提案は安全対策ノウハウの提供だけにとどめる べきで、事件を機に出資比率まで持ち出したことはよくなかった。両社の間で感 情的にどこまで亀裂が入っているかはわからないが、イニシアチブをとりたいと いうのが日清の本音だったとJTに受け止められてもしかたない」と指摘する。

日清にとって「新生加ト吉」はリスクも

日清にとっては「差し迫って統合を急ぐ必要性がなかった」との声もある。 統合が実現していたら、新生加ト吉は日清の持ち分法適用会社になる予定だった。 大和総研の守田誠アナリストは「ギョーザ問題でブランド力も落ち、買い控えな どで業績悪化が懸念される加ト吉によって、日清の持ち分法投資利益が悪化する 可能性が高かった」といい、「49%の株式購入のための資金とその金利負担を考 えれば、統合は解消されてよかった」と今回の破談をポジティブにみている。

日清の冷凍食品事業は売上高150億円ほど。特に冷凍めん市場でシェア約7 割を持つ加ト吉との統合により、同事業を拡大させたかった。だが、「日清にと って冷凍めん事業の貢献はほとんどなく、急いで手放す必要がある事業とも思え ない」(守田氏)という。

ただ、日清の筆頭株主は米系投資ファンドのスティール・パートナーズ(約 19%を保有)。その点では、統合解消は「ややダメージが大きい」(新生証券の 松本氏)との見方もある。日清にJTが出資する可能性について両社とも現時点 ではないとしてきたが、「いざという時、資金力のあるJTは日清の有力なホワ イトナイト(白馬の騎士)候補になりえた。新たな相手を探さなければならない という点では惜しいパートナーを失った」とみている。

統合が実現すれば、売上高約2610億円と国内最大の冷凍食品会社が誕生し、 「食品メジャー構想」も掲げていた壮大な計画だった。日清の離脱により、JT の冷凍食品売上高は2460億円に縮小するが、ニチレイ(07年3月期1762億 円)や味の素(同1163億円)を上回る日本最大規模の冷凍食品メーカーになる ことには違いない。業界再編の旗振り役は一時的に不在となるが、スタート地点 に戻っただけに過ぎない。「JTはいずれまた動き出し、再編に乗り出す」(新 生証券の松本氏)。

JTの株価は、前日比4000円(0.7%)高の57万6000円、日清食品は同 70円(2.1%)高の3370円、加ト吉は同1円(0.1%)安の700円(午後1時現 在)。

-- Editor:Masashi Hinoki Kenzo Taniai

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