忍び寄るインフレの脅威-デフレに代わる日本経済のリスク要因にも

日本の長期にわたるデフレとの戦いが終わ ろうとしている。だが、喜んではいられない。景気拡大を妨げるインフレが取 って代わるだけかもしれないからだ。

日本銀行は、戦後最長となった景気拡大が企業利益を押し上げ、その効果 が賃金と個人消費に波及し、安定的な物価上昇につながると予想。だが現実は、 原油と原材料の値上がりが企業利益を圧迫し、家計の購買力を低下させている。

大和証券SMBCヨーロッパのシニアエコノミスト(ロンドン在勤)、ベ ン・エルドレッド氏は、「デフレ終息を長く待ち望んでいた日銀を迎えるのは、 悪いインフレかもしれない」と述べる。「エネルギーと食品の価格上昇は企業 と消費者にとって悪いニュースだ。すでに急激な米景気減速と戦っている日本 経済にとって、さらなる向かい風となる公算が大きい」のだという。

総務省が25日発表した昨年12月の全国消費者物価指数(CPI)は、生 鮮食品を除くコア指数が前年同月比0.8%上昇となった。上昇率は前月の

0.4%の倍で、9年9カ月ぶりの高水準を記録した。

日銀が2006年7月にゼロ金利政策を解除して以来、福井俊彦日銀総裁は、 1990年代のバブル崩壊から立ち直りつつある日本の景気を反映するために、 利上げを進める必要性を訴えている。昨年2月には政策金利を0.5%に引き上 げた。

利下げの可能性

だが、日銀の次の手は利下げになると予想する投資家もいる。JPモルガ ン・チェースが翌日物金利スワップを使って算出したところでは、日銀が6月 までに利下げする確率は56%だという。

三井住友アセットマネジメントの武藤弘明シニアエコノミストは、「失業 率がトレンド的に悪化したり賃金下落するなど、景気がもう一段の悪化を見せ てきたら、利下げの可能性も出てくる。そうなれば当局にとって、インフレよ りも景気の方が心配な局面になってくる」と話す。

小麦や大麦の値上がりはパスタやビールの生産コスト上昇につながってい る。輸出主導の日本経済の勢いは低下しており、賃金が伸び悩む中、消費者の 負担は大きい。07年1-11月期では9カ月で平均賃金が低下し、1997年以 来では50万円(11%)の落ち込みだ。

第一生命経済研究所は23日、原油価格などの上昇に伴い、食料などの生 活必需品の値上がりが続いた場合、個人消費の悪化を通じ年間の実質GDP (国内総生産)を最大1兆3000億円(0.2%から0.3%)程度、押し下げる との試算を発表した。消費者信頼感が4年ぶりの低水準にある今、企業はコス ト高を販売価格に転嫁しにくい状況にある。

値上げ

東京では先月、タクシー運賃が10年ぶりに引き上げられた。東京乗用旅 客自動車協会によると、値上げ後およそ1カ月間の1日1台当たりの営業収入 は2.8%減少した。

食品大手キューピーは昨年6月、17年ぶりのマヨネーズ値上げに踏み切っ た。だが、同社広報担当の江南智裕氏は、「値上げによって売り上げに対する貢 献はあったが、販売数量が減少して相殺された結果、07年11月期のマヨネー ズの売上高は横ばいだった」と述べる。

値上げによる市場シェア低下を恐れ、コスト増を企業努力で切り抜けよう とする動きもある。関西を中心にスーパーを展開するイズミヤの広報担当者、 下川勝稔氏が指摘するのは、「消費者は消費に対して大変選択的、生活防衛的に なっている」ということだ。同氏は、「所得が伸びない一方で生活費の支出が増 えている。消費者の閉塞(へいそく)感が強まっている」と分析、「消費が弱い 中で原材料費を価格に転嫁させるのは消費を一層冷え込ませる」と説明する。

イズミヤは今月、チーズや洗剤など100品目を値下げした。小売業界では、 イオンやセブン&アイ・ホールディングスが昨年、同じような値下げを実施し ている。

日銀が16日公表した調査結果によれば、消費者の約86%が今年、物価が 上昇すると見込んでおり、その割合は10年前の調査開始以来で最高となった。 大半の消費者が今年の消費を切り詰めると答えた。

和歌山市に住む72歳の主婦、竹中百合子さんは、「年金暮らしなので、物 価の上昇は大きな懸念」だと言う。「生活防衛策としては、必要なものしか買わ ない、無駄なものを買わないということに尽きる」ということだ。

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