【米経済コラム】マーケットが強いた大幅で危険な利下げ-J・ベリー

世界的な株価急落が米経済成長にリスクを突 き付けたことを受け、米金融当局は米フェデラルファンド(FF)金利の誘導目 標を0.75ポイント引き下げて3.5%に設定した。しかしこの予想外の利下げは また、それ自体がリスクをはらんでいる。米金融当局の慌てぶりを察し、投資家 の動揺が一段と強まりかねないというリスクだ。

元イングランド銀行金融政策委員会(MPC)メンバーでロンドン・スクー ル・オブ・エコノミクス(LSE)教授のウィレム・ブイター氏は22日、英紙 フィナンシャル・タイムズに寄稿し、「この特異な措置は行き過ぎであり、恐怖 に駆られているようだ」と指摘。「私の30年以上にわたるエコノミストの経歴に おいて、これは最も典型的なパニックに陥った金融政策だ。非常にバランスを欠 いており、市場の混乱を助長する恐れがある」と記述した。

それでも多くのアナリストは、29-30日の米連邦公開市場委員会(FOM C)で恐らく0.5ポイントの追加利下げが決定されるだろうとみている。

FF金利の0.75ポイント引き下げは、1987年10月の「ブラックマンデ ー」の翌年に米当局がFF金利の誘導目標を政策金利に採用して以来、最大の下 げ幅となった。

しかし、株式市場がどう判断しようと、最近の経済ニュースは、米景気のリ セッション(景気後退)ではなく景気減速期を示唆していた。そのような中で、 今回の緊急利下げは実施された。

スイスの銀行大手UBSの株式ストラテジスト、デービッド・ビアンコ氏は 22日、「われわれは米経済が直面するマクロ経済上の課題と多くの不透明要素を 理解するものの、これほどの悲観的な見方には根拠がないと考える」とし、「市 場は、収益力の長期的な大幅低下にパニックを起こしている」と分析した。

臨時FOMCの決定

21日のFOMC緊急会合で、FF金利の誘導目標と公定歩合の引き下げが 決まった。FOMCは翌22日、市場の取引開始前に利下げを発表。「景気見通し の悪化と成長の下振れリスクの上昇を考慮した」と説明した。

FOMCは声明文で、「短期金融市場で見られた圧迫は幾分か和らいだ一方 で、金融市場では広範にわたり状況が引き続き悪化しており、一部の企業や世帯 への信用が引き締められている」と分析している。

株価の継続的な大幅な下げを除いては特にひどい経済状況ではなかったこと から、FOMCの決定は徹底的なリスク管理でなければならなかった。恐らくバ ーナンキ連邦準備制度理事会(FRB)議長の意図は、市場の注目を集め、経済 の現状への理解が浸透するまで株価の急落を阻止することにあったのだろう。

見過ごされていた問題

あるいは、当局者がこれまで見過ごされていた米経済を脅かす問題に気付い たのかもしれない。

FRBが16日発表した地区連銀経済報告(ベージュブック)は、昨年11月 後半から12月にかけての経済活動にリセッションの兆候は見られなかったとし ている。

同報告は「経済活動は緩やかに拡大したものの、そのペースは一段と鈍っ た」と説明。12の地区連銀のうち、経済成長が「鈍化している」としたのは3 地区連銀にすぎなかった。

また同報告は、住宅市場の低迷と建設業界の雇用減少に言及したが、医療な どの金融以外のサービス業の一部で堅調な需要が見られたとしている。

これらすべてが指し示しているのは、成長の減速であってリセッションでは ない。

失業問題

当局者にとって気掛かりな指標の1つは、昨年12月の雇用統計だ。失業率 は11月の4.7%から5%に上昇し、非農業部門雇用者が1万8000人増に急減速。 また、12月22日終了週の新規失業保険申請件数は前週比で増加した。

1月12日終了週の新規失業保険申請件数は30万1000件と、12月22日終 了週の35万7000件から大きく減少したものの、その明確な説明は見当たらず、 雇用統計は依然として気掛かりな数字だ。

01年のリセッション期も含めて過去の統計を振り返ると、新規失業保険申 請件数が39万件を上回った時に雇用者数の減少が始まるようだ。現在はまだそ の水準に達していない。

12月の鉱工業生産指数は前月比変わらずだった。1月のロイター・ミシガ ン大学消費者マインド指数(速報値)も80.5と、12月の確定値75.5と11月の

76.1を上回り、ここでもリセッション入りの兆候はほとんど見られない。

沈静化するか?

米住宅市場の問題はなお深刻であり、FOMCは声明文で「住宅市場収縮の 深刻化」を緊急利下げの一因に挙げている。ただ住宅市場のほかの経済分野への 影響波及はほとんどなく、住宅市場に必要なのは利下げではなく時間だろう。

サムソン・キャピタル・アドバイザーズの創業者社長、ジョナサン・ルイス 氏は「FRBが打ち出してきた景気刺激的政策と財政出動によって」、現在の景 気減速は「ほんの一時的なものにとどまる可能性がある」と予想した。

バーナンキ議長らの金融政策が成功するかどうかは、金融市場のパニックが 収まるか否かにかかることになるだろう。 (ジョン・ベリー)

(ジョン・ベリー氏は、ブルームバーグ・ニュースのコラムニストです。 このコラムの内容は同氏自身の見解です)

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