福井日銀総裁:経済金融情勢は微妙な段階に-利下げ観測は承知(4)

(第10段落以降に発言、さらに一問一答を追加します)

【記者:日高正裕】

1月22日(ブルームバーグ):日本銀行の福井俊彦総裁は22日午後、定例 会見し、国内の金融市場の一部で利下げ観測が出ていることは「承知している」 と指摘。経済、金融情勢は「先行きを判断する上で微妙な局面に差し掛かって いる」と述べた。福井総裁は一方で、「物価安定の下で緩やかな拡大を続ける」 というのが「最も蓋然(がいぜん)性の高い見通しだ」とした上で、金融政策 運営の基本的な考え方は「これまでと変わりはない」と述べた。

福井総裁は金融政策運営について「中間評価を経た後の先行きの経済見通 しについて、基本的なシナリオは大筋維持している」ため、「これまでの基本 的な金融政策のスタンスには変わりはない」と言明。「見通しのパスの蓋然性 と、上下両方のリスクを丹念に点検しながら、適切な政策判断をその都度の政 策決定会合できちんと行っていくことに尽きる」と語った。

福井総裁はさらに、「市場の一部で、米国を中心とする世界経済の不確実 性、それから国際金融資本市場における不安定性を大きな背景として、先行き に金融政策についてどちらかと言うと金利引き下げ方向、極端な場合には、日 本の金利政策についても一部そういう観測が出ていることは承知している」と 指摘。その上で「先行きを判断する上で微妙な局面に差し掛かっているという ことは、私どももその通り受け止めている」と語った。

制約考えずに機動的に判断

福井総裁は一方で、「金融政策の適切性を確保するために最も大切なこと は、目先の状況だけで判断することではなくて、あくまで先々まで経済・物価 のパスを見通して、確信をもって政策判断を行うことだ」と言明。

日本経済は「昨年10月の見通しでお示しした見通しに比べて、経済は足 元、幾分下振れている。消費者物価は幾分上振れている」が、「来年度に向け て経済・物価とも見通しにおおむね沿ったものになるという判断だ」とした上 で、「こうした情勢判断の下では、先行きの金融政策運営についての基本的な 考え方はこれまでと変わりはない」と述べた。

福井総裁はまた、「リスク要因については、こういう変化の激しい環境の 中で、刻々と変わる。われわれとしてもそれを十分フォローし、政策判断の中 にきちんと取り入れながら的確な判断を重ねていきたい」と語った。

一方、米国が金利引き下げに向かう中で、日本は金利が低いために利下げ できないのかとの質問に対しては「金利水準が非常に低い。なるがゆえに、わ れわれは金融政策について、そこを出発点に制約があるという前提で物事を考 えるという立場は取っていない。あくまで情勢判断を中心に考えている」と言 明。

そのうえで「フォワード・ルッキング(先見的)であり、確信が持てれば ライト(適切な)タイミングで必要な政策を取る。そういう機動性は十分保ち ながらやっていきたい」としながらも、「目先の現象で目を曇らせて、性急な 判断で物事を処理するということは避けながら、ということは繰り返し申し上 げたい」と語った。

米国経済は減速感を強めつつある

米国経済については「個人消費や設備投資は緩やかな増加基調を維持して いるが、住宅市場の調整が長引いており、失業率が最近高まっている等々、米 国経済は減速感が強まりつつある」と指摘。「引き続き、サブプライム(信用 力の低い個人向け)住宅ローン問題の帰趨(きすう)とその影響を注視してい く必要がある」と述べた。

福井総裁はさらに、米国経済は「昨年第4四半期にかなり成長率を下げ、 今年第1四半期、第2四半期にはもっと成長率を下げるというところまでは一 応想定のラインだ」と指摘。「今年下期以降、極めて緩やかに潜在成長能力の ラインに向かって回復パスをたどるだろうというのが標準シナリオ」とした上 で、標準シナリオが「キープされた形で、今年下期以降の経済に何とかつなが っていくのではないか、という蓋然性の方が今でも高いと思っている」と述べ た。

好循環は基本的に維持されている

日本経済について、「世界経済が全体として成長を続けている下で、輸出 は増加を続けている」と指摘。「米国向け輸出はここ数四半期、少し弱めにな っているが、その他地域向けの輸出が順調に伸びていて、全体の輸出は増加を 続けている」と述べた。

国内の民間需要についても「一言で言えば増加を続けている」と指摘。供 給面でも「生産は増加を続けている。在庫もおおむね出荷とバランスの取れた 状況にある。こちらの面からみても、経済のバランスが目先、崩れるリスクは 小さい」と語った。

福井総裁はその上で「日本経済は生産・所得・支出の好循環メカニズムが 基本的に維持される中で、先行き物価安定の下での息の長い成長を続けていく 蓋然性が引き続き高いと判断している」と述べた。

福井総裁は一方で、「世界経済、国際金融市場、原材料高の影響などをめ ぐる不確実性に加え、国内景気も足元、住宅投資の影響などから減速している とみられる」と言明。「私どもとしては、今後公表される指標や情報、内外の 金融市場の状況を丹念に点検し、見通しの蓋然性とそれに対するリスクをさら に見極めた上で、適切な政策判断を行っていきたい」と語った。

株安は経済に悪影響も

世界的な株安の連鎖については「米国をはじめ世界経済全体の不確実性」 と「国際金融資本市場における全体的な不安定性」が背景にあり、「いろいろ な市場で投資家がリスクを避ける動きが足元、非常に強まっている」と指摘。 日本の株式市場においても「その例外ではない」と述べた。

国内株の下げ幅が海外に比べ大きいことについては「円相場の動きが少し 円高方向に振れていること」に加え、「外国人投資家が他のポートフォリオ(取 引)で生じた損失を日本株の売却によって益出しをしてカバーする行動も、追 加的な株価押し下げ要因になっている可能性がある」と指摘した。

福井総裁はその上で、株価の下落は「日本経済に対しても逆資産効果、あ るいは企業や消費者のマインドへの影響等を通じて直接ネガティブな影響を 及ぼすリスクがある」と指摘。「中央銀行の立場からは十分警戒的な目でもっ て、これはフォローしていかなければならない。経済全体の分析ということを 常に背後に踏まえながら、冷静な事態の把握に努めていきたい」と述べた。

金融システムの安定に深刻な影響ない

米サブプライム住宅ローン問題に絡む損失については「日本の金融機関も 9月中間決算以降、海外市況が一段と悪化していることに伴い、証券化商品関 連の損失は拡大している」と述べた。

福井総裁はその上で、「日本の金融機関は証券化商品への関与の度合いは 欧米の金融機関に比べて相対的に小さく、これまでのところ損失は各金融機関、 各グループの期間収益や経営体力の範囲内で吸収可能とみられる」と言明。「現 時点において、今回の問題がわが国の金融システムの安定性に深刻な影響を及 ぼすとは考えていない」と語った。

一方、米国ではモノラインと呼ばれる金融保証会社の格付けを見直す動き が出ており、新たな信用リスクの高まりが指摘されている。福井総裁は「モノ ラインの格付けの見直しというのは、モノラインが保証する地方債や証券化商 品の格付け変更につながる」と指摘。「評価替えを通じて米国金融市場や金融 機関経営に影響を及ぼし得る」とした上で、「わが国金融機関への影響も含め て慎重にウオッチしていきたい」と述べた。

日銀総裁の空席「およそ想定できない」

与野党のねじれ国会の下、福井総裁の3月19日の任期満了後も日銀総裁 が決まらず、空席になるリスクも指摘されている。福井総裁は「中央銀行の幹 部が任命されないなどということは、およそ想定されないし、日銀法もそうい うことは当然、想定していない」と言明。「政府、国会の良識に沿って、必ず や的確な人が任命される。私はそう固く確信している」と述べた。

日銀は同日開いた金融政策決定会合で、無担保コール翌日物金利の誘導目 標を「0.5%前後」とする方針の維持を全員一致で決めた。

主な一問一答は次の通り。

――この日の決定の背景を説明してください。

「今日は昨年10月に示した経済・物価情勢の展望の中間評価を行った。 それによると、わが国の景気は見通しに比べて、これまでのところ、住宅投資 の減少が長引いていることなどから幾分下振れて推移していると判断した。も っとも、生産・所得・支出の好循環メカニズムは基本的に維持されており、住 宅投資が次第に回復に向かう中では、先行き来年度にかけて見通しにおおむね 沿って推移すると予想される」

「もちろん、こうした見通しについては、引き続き海外経済や国際金融資 本市場をめぐる不確実性、エネルギー・原材料価格高の影響などにいっそう注 意する必要がある」

「物価面では、国内企業物価は国際商品市況高などを背景に、見通しに比 べて上振れるものと見込まれる。消費者物価は石油製品や食料品価格が上昇し ていることから、2007年度は見通しに比べて幾分上振れる。08年度は石油製 品や食料品価格の上昇の影響が残る一方、景気の一時的な減速の影響が表れる ことから、見通しにおおむね沿って推移すると予想した」

「もう少し詳しく言うと、世界経済は地域的な広がりを持ちながら成長を 続けている。その中で米国経済が特に気になるわけだが、個人消費や設備投資 は緩やかな増加基調を維持しているが、住宅市場の調整が長引いており、失業 率が最近高まっている等々、米国経済は減速感が強まりつつある。引き続き、 サブプライム住宅問題の帰趨とその影響を注視していく必要がある」

「日本経済については、世界経済が全体として成長を続けている下で、輸 出は増加を続けている。少し振り返ると、米国向け輸出はここ数四半期、少し 弱めになっているが、その他地域向けの輸出が順調に伸びていて、全体の輸出 は増加を続けている。国内の民間需要は一言で言えば増加を続けている。企業 収益が総じて高水準で推移する中、設備投資は引き続き増加基調にある。住宅 投資は改正建築基準法の施行の影響から大幅に減少している」

「雇用・所得面では、一人当たり賃金は弱めの動きが続いているが、雇用 者数は増加しており、雇用者所得は緩やかな増加を続けている。こうした下で、 個人消費は底堅く推移していると判断される。供給面では、生産は増加を続け ている。在庫もおおむね出荷とバランスの取れた状況にある。こちらの面から みても、経済のバランスが目先、崩れるリスクは小さい」

「先週の支店長会議でも、足元の景気は一部で弱めの動きが見られるが、 多くの地域で引き続き拡大、または回復方向の動きが続いていることを確認し た。以上をまとめると、日本経済は生産・所得・支出の好循環メカニズムが基 本的に維持される中で、先行き物価安定の下での息の長い成長を続けていく蓋 然性が引き続き高いと判断している」

「そう判断しているが、世界経済、国際金融市場、原材料高の影響などを めぐる不確実性に加え、国内景気も足元、住宅投資の影響などから減速してい るとみられる。したがって、私どもとしては、今後公表される指標や情報、内 外の金融市場の状況を丹念に点検し、見通しの蓋然性とそれに対するリスクを さらに見極めた上で、適切な政策判断を行っていきたい。これが今日の結論だ」

――景気判断を下方修正した中で、今後は利上げではなく、利下げを検討する 過程にあると考えてよいのか。

「金融政策の基本姿勢は今申し上げたような中間評価を経た後の先行き の経済見通しについて、基本的なシナリオは大筋維持しているということなの で、これまでの基本的な金融政策のスタンスには変わりはないということだ。 つまり、見通しのパスの蓋然性と、上下両方のリスクを丹念に点検しながら、 適切な政策判断をその都度の政策決定会合できちんと行っていくということ に尽きる」

「市場の一部で、今申し上げたような米国を中心とする世界経済の不確実 性、それからグローバルな金融資本市場における不安定性を大きな背景として、 先行きに金融政策についてどちらかと言うと、金利引き下げ方向、極端な場合 には、日本の金利政策についても一部そういう観測が出ていることは承知して いる。背景となる経済、金融情勢がそういうふうに、極めて先行きを判断する 上で微妙な局面に差し掛かっているということは、私どももその通り受け止め ている」

「しかし、繰り返しこの場でも申し上げているが、金融政策の適切性を確 保するために最も大切なことは、目先の状況だけで判断することではなくて、 あくまでフォワード・ルッキングというか、先々まで経済・物価のパスを見通 して、確信を持って政策判断を行うということだ。この点で申し上げれば、今 日の中間評価では、昨年10月の見通しでお示しした見通しに比べて、経済は 足元、幾分下振れている。消費者物価は幾分上振れている」

「こういうことだが、来年度に向けて経済・物価とも見通しにおおむね沿 ったものになるという判断だった。したがって、このように最も蓋然性の高い 見通しとしては、わが国経済は物価安定の下で緩やかな拡大を続けるとみてい るわけであり、こうした情勢判断の下では、先行きの金融政策運営についての 基本的な考え方はこれまでと変わりはないということだ」

「リスク要因については、こういう変化の激しい環境の中で、刻々と変わ る。われわれとしてもそれを十分フォローし、政策判断の中にきちんと取り入 れながら的確な判断を重ねていきたい」

――フォワード・ルッキングな姿勢というが、欧米は目先の状況に対応するた めに利下げしている。日銀だけがそういう姿勢でよいのか。日本は金利水準が 低いために利下げという選択肢を取りづらいのか。

「日本の場合、金利水準が非常に低い。なるがゆえに、われわれは金融政 策について、そこを出発点に制約があるという前提で物事を考えるという立場 は取っていない。あくまで情勢判断を中心に考えている」

「フォワード・ルッキングであり、確信が持てればライトタイミングで必 要な政策を取る。そういう機動性は十分保ちながらやっていきたいということ だが、フォワード・ルッキングな判断を目先の現象で目を曇らせて、性急な判 断で物事を処理するということは避けながら、ということは繰り返し申し上げ たい」

――世界的な株価の連鎖をどうみているのか。

「大きな背景として、米国をはじめ世界経済全体の不確実性を市場が強く 認識している。あるいは国際金融資本市場における全体的な不安定性について も市場が引き続き強く認識している。結果的に、いろいろな市場で投資家がリ スクを避ける、リスク回避の動きが足元、非常に強まっている。そうした流れ の中で、世界的に見て株価の下落が急激に進行中と私どもは理解している。日 本の株式市場においてもその例外ではない」

「中央銀行の立場からは十分警戒的な目でもって、これはフォローしてい かなければならない。経済全体の分析ということを常に背後に踏まえながら、 冷静な事態の把握に努めていきたい」

「日本の経済全体の姿や、一般的に言ったサブプライムローン関連の波及 については既に申し上げたが、株価自身の下落についてはもちろん、これはそ のこと自身が直接、日本経済に対しても、いわば逆資産効果、あるいは企業マ インドや消費者のマインドへの影響等を通じて直接ネガティブな影響を及ぼ すリスクがある。その点からも注意深くみていきたい」

――米国経済の後退懸念が強まっているが、どうみているのか。

「米国経済を振り返ると、昨年第3四半期くらいまでは減速しながらも、 成長率は比較的高めの水準を維持して、昨年第4四半期にかなり成長率を下げ、 今年第1四半期、第2四半期にはもっと成長率を下げるというところまでは一 応想定のラインだ」

「そして、今年下期以降、極めて緩やかに潜在成長能力のラインに向か って回復パスをたどるだろうというのが標準シナリオであって、この標準シナ リオをさらに割り込むような経済のパスになるかどうか、そこのところは、私 どもはそうはならなくて、あらかた米国経済の標準シナリオがキープされた形 で、今年下期以降の経済に何とかつながっていくのではないか、という蓋然性 の方が今でも高いと思っている」

――住宅投資が大きく落ち込でいるが、官製不況との指摘もあるが、どうみて いるか。

「改正建築基準の施行に伴う影響が予想以上に大幅であり、かつ予想以 上に長引いていることが下振れの基本要因ではないかとみている。それ以外の 政策的、制度的要因はあまり認識していない。したがって建築確認に関する手 続き面での問題が解消すれば、住宅投資は徐々に回復していくと基本的には考 えている。実際、新設住宅着工戸数は非常に低い水準だが持ち直しの動きが出 始めている」

「大まかに言えば、住宅投資は4月以降、次第に回復に向かう可能性が高 いと考えている。そういうと改正建築基準法の影響だけということになってし まうが、私どもは改正建築基準法が施行される前の段階から、マンション、特 に都市部のマンションについて、かなり物件価格が上がってきて、物件価格が 非常に上がった地域については、新規購入態度に弱さが認められるという感じ に、既に昨年からなっている」

「今、建築基準法施行の影響がその上にどんと乗ってしまったわけで、両 者を見分けることがものすごく難しくなっているが、多分、建築基準法の影響 は徐々に薄れていくと思うが、物件価格から弱さが見られている部分について は、少し尾を引く可能性があるのかなとみている。したがって、基本的には住 宅投資は来年度以降、回復する。ただし、回復のペースについては幾ばくか不 確実性が残っている」

――モノラインと呼ばれる金融保証会社の信用リスクの高まりをどうみるか。

「モノラインについては、サブプライム問題の影響による財務悪化の懸念 がこれまでも多くの関係者の頭にあって、先週までに格付け会社がいくつかの 大手先を格下げ方向で見直すと既に発表していたし、一部は既に格下げが行わ れた。モノラインの格付けの見直しというのは、モノラインが保証する地方債 や証券化商品の格付け変更につながる」

「あるいは、モノラインを相手方とするCDS取引、言ってみれば保険を つけてもらう取引だが、それについても評価替えを通じて米国金融市場や金融 機関経営に影響を及ぼし得るものだとみられる。まだ格付け変更が一部につい て行われたばかりなので、今後の展開については注意深く見なければならない。 わが国金融機関への影響も含めて慎重にウオッチしていきたい」

――後任人事について、空席のリスクも指摘されているが、どうお考えか。

「こういうふうに、実体経済だけでなく市場、それも世界の市場のすみず みの現象にわたるまで、記者会見の場で詳しく意見交換をしながら認識の共有 をしなければならない。これはどこの国の経済にとっても、グローバル化の中 でダイナミックに展開する経済は、全てそういう状況になってきている」

「そのときに、中央銀行の幹部が任命されないなどということは、およそ 想定されないし、日銀法もそういうことは当然、想定していない。政府、国会 の良識に沿って、必ずや的確な人が任命される。私はそう固く確信している」

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