サブプライムの現実:宝物まで失った哀れな女の子の泣き声が聞こえる

カリフォルニア州の住宅保有者、クリスト ファー・オールトマン氏が住宅ローンを支払えなくなったとき、米銀シティグル ープのチャールズ・プリンス最高経営責任者(CEO、当時)が評価損で払って くれた。

同氏への融資の債権は、シティが保有する証券の裏付けに含まれていたか らだ。しかし、米サブプライム(信用力の低い個人向け)住宅ローン関連でシテ ィが失ったとみられる166億ドル(約1兆8800億円)の一部は、住宅ローン担 保証券の価値下落に賭けた投機家の懐に入った。ウォール街の「グループ・オブ・ ファイブ(G5)」が2005年に開発したサブプライム関連のデリバティブ(金 融派生商品)が、そのような賭けを可能にした。

金融機関はサブプライムローンを証券化し、仕組み金融商品として販売した。 リスクは投資適格級の格付けの背後に隠され、複雑な商品の真の価値は誰にも分 からなくなった。国際通貨基金(IMF)の金融セクター専門家、ランドール・ ドッド氏は「このような仕組み商品はウォール街に巨額の利益をもたらした」と して、「結局のところ、本質にあるのは貪欲さと過剰なリスクテークだ」と論評 した。

デリバティブはリスクを増幅した。サブプライムローンに基づくデリバテ ィブを使って、投機家は特定の住宅ローン債権の集まりでデフォルト(債務不 履行)が増える可能性に賭けることができた。このデリバティブの増幅効果のお かげで、少数のサブプライム借り手のデフォルトが、世界の信用市場をまひさせ ることになった。

中銀が資金供給

今年1-3月(第1四半期)にはサブプライムローンの13.8%で返済が滞 った。デフォルト増でサブプライム証券への需要は急減し、金融商品の価値への 疑念は世界の運用ファンドに広がった。担保の価値への不信から融資は停止状態 となり、米連邦準備制度と欧州中央銀行(ECB)は8月10日までに、合わせ て2750億ドルを銀行システムに注入していた。

ノーザン・トラストのチーフエコノミスト、ポール・カスリール氏は、デリ バティブのヘッジ機能が投資家を果敢にしたと指摘する。「デリバティブはリス クを減らすわけではなく、移転するだけだ」が、「デリバティブ市場の発展が低 コストでのリスク移転を可能にし、より大きなリスクを取ることを促した」と同 氏は分析した。

01-06年にかけて、住宅価格は全米で50%上昇した。住宅ローン担保証券 投資やその安全性を信じる取引は有利だった。ところが、06年7月から住宅の 供給過剰が始まりローン延滞が増え始めると、住宅ローンと関連証券のデフォル トを見込む取引が活発になった。

張本人も犠牲者に

サブプライム問題による経済混乱を引き起こした張本人の多くは、犠牲者に もなった。サブプライム住宅金融大手ニュー・センチュリー・ファイナンシャル の役員だったデービッド・アインホーン氏は、住宅ローン販売担当者は「借り手 の返済能力ではなく、借り換え能力に基づいてローンを販売した」と話す。

無理な貸し付けで借り手がデフォルトしても、住宅金融会社に手数料は入る。 しかしこのような業者の多くは今、職もお金もない。カリフォルニア州で信用ス コアが850点中の420点の借り手にまで貸し込んでいたダニエル・サデック氏の クイック・ローン・ファンディングは、8月にシティグループが融資を中止し廃 業に追い込まれた。

金融機関は高利回りの証券を組成するため、サブプライムローンを買い上げ ていた。ここでも、借り手がデフォルトしてもバンカーに手数料は入る。そして 銀行の損失は今、膨れ上がっている。世界の大手金融機関は07年7-12月(下 期)に合わせて890億ドルのサブプライム関連評価損を計上する見込みだ。「デ リバティブは、リスクを分散すれば世界は安全になるという幻想を抱かせたが、 実はバランスシートから切り離したと思っていた後でもリスクは残っていた」と キーフ・ブリュイエット・アンド・ウッズの住宅ローン業界アナリスト、ボーズ・ ジョージ氏は指摘した。

拡大

損失拡大は止まらない。フロリダ州の学校や自治体が財布代わりに使う州の ファンドはサブプライム関連証券を保有していることが分かり、270億ドルの運 用資産のほぼ半分が引き揚げられた。金融庁によると、日本の銀行36行は4- 9月に2440億円の評価損を計上した。トナカイが人口よりも多い村を含めたノ ルウェー北部の8つの町と村も、サブプライム証券で合計3億5000万クローネ (約70億円)を失った。

一方、住宅ローン業界の苦境を予想した投資家は、うまくやった。テキサス 州ダラスのヘッジファンド運用者J・カイル・バス氏は最も悪質そうな住宅金融 会社のローンを裏付けとした証券の下落を見込む取引で1億1000万ドルの元手 を約6億ドルに増やした。ドイツ銀行の資産担保証券トレーディング責任者のグ レッグ・リップマン氏は、価値下落を見込む取引でドイツ銀の損失を抑えた。米 ゴールドマン・サックス・グループは住宅ローンの焦げ付き増を読み切り、損失 を回避した。

合成債務担保証券(シンセティックCDO)などのデリバティブを含む投 資商品の説明資料は量が多く、読まずに済ます投資家も多い。プリズマ・キャ ピタル・パートナーズのマネジングパートナー、ギリシュ・レディ氏は「深く掘 り下げて投資商品の担保資産を分析した人は、デフォルト増を見越して利益を上 げた」と語る。

ピンクの自転車

負け組のなかでも最も高い代償を支払ったのは、ボストンに住んでいた6歳 のサバンナ・ネスビットちゃんだ。彼女の家を差し押さえにやって来た保安官事 務所の職員らは、サバンナちゃんが誕生日に祖母に買ってもらったピンクの自転 車を中に置き忘れたまま、家の鍵を取り替えてしまった。「毎晩泣いて新しいの を買ってと言うけれど、私もお金に不自由していてできない」と祖母のアンヌ・ マリー・ウィンターさんはため息をつく。彼女の家も差し押さえられているとい う。サデック氏のクイック・ローンで変動金利型ローンに借り換えたオールトマ ン氏は、今のところ瀬戸際の状態だ。

ウォール街の「G5」会議の主催者だったドイツ銀行は最近、今度はサブプ ライムではなく信用力の水準が1つ上の「Alt-A」住宅ローンの証券で新し い指数を作ろうと、会議を始めた。Alt-Aローンのデフォルトに賭けて、ま た大きな利益が狙えるかもしれない。

    最新の情報は、ブルームバーグ端末にて提供中
    LEARN MORE