サブプライムの甘い実を食べた一握りの人、苦い実食べた多くの人たち

テキサス州ダラスのヘッジファンド運用者 J・カイル・バス氏は2006年8月、ニューヨークのとある会議室へ足を踏み入 れた。米住宅市場の崩壊が目前に迫っているという自説をウォール街の某投資銀 行の幹部に売り込むためだった。

住宅価格は5年にわたり上昇していた。バス氏は最も信用力の低い借り手向 けのサブプライム住宅ローンに基づいた証券を使って、住宅市況の悪化に賭ける ヘッジファンドを思い付いた。バス氏が名前を明らかにしないその投資銀行は、 数十億ドル相当の住宅ローン担保証券を保有していた。

「面白いプレゼンテーションだった」と、その投資銀行の最高リスク責任者 は同氏の耳元でささやいた。「君が間違っていることを祈るよ」と付け加えた。

6カ月後には、バス氏が正しかったことが判明する。信用力の低い借り手に よる延滞は過去最悪の水準に達し、サブプライムローンを裏付けとした証券の価 格は暴落した。世界の大手金融機関はこのために800億ドル(約9兆600億円) 超の評価損を出しているが、バス氏と仲間たち、そしてウォール街のほんの一握 りのトレーディングチームは、巨額の利益を享受した。

バス氏らは、銀行がサブプライム証券を全世界で売りまくるために作り出し たさまざまな投資商品に、収益機会を見出した。その中には、一群の住宅ローン 債権に連動するデリバティブ(金融派生商品)があった。これを使うと、特定の 住宅ローン債権の集まりを空売りすることができた。

レバレッジ

サブプライムローンに基づいた新しいデリバティブは、基になるローンのリ スクを増幅させる商品だった。銀行や機関投資家が購入したこのレバレッジの高 い証券の価格は、何千人ものサブプライムローンの借り手がデフォルト(債務不 履行)し始めると急落した。

バス氏は、米住宅価格が大恐慌以来で初めて下落するという大きな賭けをし ようとしていた。賭けの相手は、高利回りを追い求めてサブプライム証券を購入 する投資家たちだった。このグループにはウォール街の金融機関のほかにドイツ と日本の銀行、米国や海外の年金基金がいた。彼らは米国の一部地域で住宅差し 押さえが起こり始めていたにもかかわらず、これらの証券の高い格付けに安心し きっていた。

住宅不況を予想する投機の伝統的な方法は、住宅建設会社の株を空売りする ことだった。しかし、住宅ローン証券関連の新しい標準化されたデリバティブは、 より低リスクで、当たった場合に大きな利益が得られる手段を提供した。

バス氏は業界人やアナリストと話し、専門書を読んでこのデリバティブにつ いて勉強した。空売りする対象が「合成債務担保証券(シンセティックCDO)」 だと言われたときは理解するのに1カ月かかったという。

出会い

バス氏は私立探偵を雇うなどして、どの住宅金融会社のローンが最もデフォ ルトリスクが高いかを調べた。そして行き着いたのが、ダニエル・サデック氏の クイック・ローン・ファンディングだった。バス氏は早速クイック・ローンに電 話をかけ、この会社のローンを裏付けとした証券を空売りすべきだと確信したと いう。

バス氏は市場が崩壊する前に急いで資金を集めた。同氏は結局1億1000万 ドルほどを投資家から集め、デリバティブの持つレバレッジ効果を生かして約 12億ドルのサブプライム証券を空売りした。その1つはノムラ・ホーム・エク イティ・ローンの「2006-HE2 M8」という商品だった。この証券の担保の37%は クイック・ローンの融資だった。

バス氏がこれらのポジションを作っていた2006年8、9月ごろ、住宅差し 押さえは全米に広がり始めた。バス氏は「自分たちが正しいことが分かっている ため、低リスクで信じられないほど高リターンを得られる千載一遇のシナリオだ った」と同氏は振り返った。

審判

今年1月にバス氏は、「敵方」を偵察に行き、ラスベガスで開かれたフォー ラムで合成CDOの運営者らの話を聞いてきた。バス氏によれば、敵方は自信 満々だった。そして、5月に2人の研究者が、数十億ドル相当の住宅ローン証券 に「AAA」や「BBB」の格付けを与えてきた格付け会社は間違っていたとの 論文を発表した。バス氏の戦略が正しかったという審判が下ったわけだ。世界の 投資家がパニックに陥るなか、同氏は自らの空売りポジションの価格が急上昇し ていくのを眺めていた。

(明日は第4話「サブプライムの罠、格付け会社が仕掛け投資家が落ちた(仮 題)」です)

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