米サブプライム危機の種-ウォール街「G5」が中華を食べながらまいた

今から約3年前の2月のある夜、会議室の 木製のテーブルの周りにウォール街の大手投資銀行5社の代表が集まっていた。 テイクアウトの中華料理を食べながらの彼らの相談が、サブプライム(信用力 の低い個人向け)住宅ローン危機の完璧なお膳立てをした。

会議の主催者はドイツ銀行のトレーダー、グレッグ・リップマン氏(当時 36)だった。同氏は住宅ローン担保証券から、企業の信用商品と同様に大きな ウォール街の収益源を育てることを夢見ていた。集まったのはほかに、ゴール ドマン・サックス・グループのトレーダー、ラジブ・カミラ氏(同34)、ベア ー・スターンズのトッド・クシュマン氏(同32)。シティグループとJPモル ガン・チェースの代表者も招かれていた。

標準化された新しい商品の設計と取引ルールを決めるためのドイツ銀行の ウォール街オフィスでの初回会合には、50人近くのトレーダーや弁護士が集ま った。トレーダーらが「グループ・オブ・ファイブ(G5)」と名付けたこの 会合が、ウォール街と世界経済の歴史を変えた。

標準化された新しいデリバティブ(金融派生商品)は、投資銀行各社を米 国のサブプライム住宅ローンのリスクから守ると同時に、米住宅市場減速を見 込む投資家による投機を可能にし、さらに高利回りを求める機関投資家のニー ズも満たすためのものだった。

この商品は同時に、損失を増幅させる設計となっていたため、サブプライ ムローンの小さな部分がデフォルト(債務不履行)しただけで、世界の銀行や 年金基金が保有している証券の価値が急落し、企業向け融資をストップさせ、 世界の信用市場をまひ状態に陥れることになった。

しばらくの間

サブプライムブームはしばらくの間、投資銀行と金融会社、仲介業者、投 資家、不動産業者、格付け会社の懐を暖めた。何十万人もの米国民が、買える とは思わなかった立派な家を買うことができた。

これらの住宅購入者はローン返済を続けられないことが、後になって明ら かになった。サブプライムローンの焦げ付きはこれまでに、ローン債権を裏付 けとした証券の保有者に約800億ドル(約9兆400億円)の損失をもたらした。 このデリバティブの市場は不透明で、多くの金融機関はまだ損失の総額が把握 できていない。

米シティグループとメリルリンチ、スイスのUBSの最高経営責任者(C EO)は更迭された。リセッション(景気後退)回避に向け、米連邦公開市場 委員会(FOMC)は3回の利下げを実施し、銀行間市場の資金逼迫(ひっぱ く)緩和のため、年内に最大400億ドルを金融システムに注入しようとしてい る。

いきさつ

以下は、ウォール街がいかにして、南カリフォルニアの貸し込み産業と米 住宅インフレを、世界の金融システムに連結させたかのいきさつだ。

カリフォルニア州オレンジ郡の住宅金融業者ダニエル・サデック氏は、サ ブプライム融資債権に対するウォール街の熱意に気付いた1人だった。同氏は 自身の会社、クイック・ローン・ファンディングを「サブプライムローン製造 工場」にした。

ダラスではヘッジファンド運用者のカイル・バス氏が、リップマン氏のグ ループが設計した商品の取引を始め、空売りの対象を探しているうちに、サデ ック氏が行った融資を裏付けとした証券に行き着いた。

ニューヨークでは格付け会社が、返済能力のない人に貸し込んだサブプラ イムローンを裏付けとした証券に、せっせとお墨付きを与えていた。格付け会 社は過去のデータに頼り、審査の甘い融資の広がりへの対応が遅れた。格付け 会社が投資適格の格付けを付与したなかには、サデック氏のローンの担保証券 が含まれていた。

リップマン氏のグループがサブプライムを含む住宅ローンを担保とした証 券関連の新製品の標準化を目指した2005年冬の夜の会合は、そのような商品の 市場急拡大に道を開いた。

歴史的低リターン

05年2月当時、債券投資のリターンは歴史的低水準にあった。格付け「A AA」の住宅ローン担保証券の利回りは平均で、10年物米国債に比べ1ポイン ト高かった。問題は、信用力の高い借り手の多くが03年の低金利時に既に住宅 ローンを借り換えていたことだ。住宅ローン担保証券への需要に対応するため、 ウォール街は新しいローンの創出が必要だった。そのための新たな借り手は主 に、信用力の低い借り手だった。

それでも顧客に販売する住宅ローン担保証券が不足し、銀行は「合成」と いう標準化されたデリバティブを作り出すことにした。これによって数少ない ローンからより規模の大きい証券を組成し、世界の投資家の需要を満たすこと ができた。

こうして、ドイツ銀のリップマン氏の呼び掛けで集まったG5は、世界の 資本市場の大ヒットとなる新商品を設計した。会合は月1回、午後5時から開 かれ3時間以上も続いたという。05年6月までには、G5以外の金融機関も含 めた合意ができ、標準化されたデリバティブ商品が作られることになった。次 のステップはそのような商品の指数を設計することだった。こうして、ABX -HE指数が作られた。計画の参加者らはこれによって取引が増え、流動性が 高まり、市場に深みが出ると考えた。

早期の警告

しかし、05年9月には既に、ドイツ銀内部にもサブプライムローンのデフ ォルト急増を懸念する声が出始めていた。同社アナリストのチームは同月、サ ブプライム市場のリスク上昇について警告した。

ABX-HE指数は06年1月19日に取引を開始した。住宅市場の難局を 嗅ぎ取っていたソリン・キャピタルのジョン・ケーン氏は、ABX指数を使っ てサブプライムローン担保証券の下落に賭けることにした。サブプライム証券 下落を見込む契約の価格は既に、上昇し始めていた。トレーダーはデフォルト 率の上昇を予想していた。

G5の顧客の間で、新しいデリバティブの人気は上々だった。銀行や機関 投資家は高利回りを確定するためこれを購入した。しかし、ドイツ銀行とG5 の少なくとももう1つのメンバー、ゴールドマン・サックス・グループは数カ 月以内に、このデリバティブを使ってサブプライム証券価格の下落に賭ける取 引を始めていた。

リップマン氏は、G5が作り出し、その後銀行が債務担保証券(CDO) として組成したサブプライム住宅ローン関連のデリバティブが、サブプライム 危機を生んだという議論に反論する。「問題はサブプライムそのものにあり、 デリバティブが問題を生み出したわけではない」として、「デリバティブは透 明性を高め人々が問題に早期に気付くのに役立った」と同氏は述べた。

スピードを出すためのシートベルト

クレディ・スイスの資産担保証券調査ディレクター、ロッド・ダビツキー 氏はしかし、「合成」という名前のデリバティブは、「高速での運転を可能に するためのシートベルトのようなものだった」として、巨額損失はこのデリバ ティブが生んだものであることは疑いの余地がないと指摘した。

    最新の情報は、ブルームバーグ端末にて提供中
    LEARN MORE