断層の上に立つ日本の原子力発電-懸念される安全性と利益相反問題

3月25日、石川県志賀の北陸電力志賀原発 は激しい地震の揺れに襲われた。だが、この揺れは起きるはずのないものだった。

9年前、原子力安全・保安院の委員会で中心的なメンバーだった地震学者の 衣笠善博氏は、同原発の着工前調査の評価を行った。調査報告書は、3つの断層 が存在するものの、いずれもが当局が危険とみなす全長10キロには達していな いとしていた。

その後衣笠氏は2005年に、北陸電力のエンジニアらと研究論文を発表。こ の論文は原発が安全ではないと主張する住民とは逆の結論を示唆するものだった。 ところが今年3月の能登半島地震後に独立行政法人・産業技術総合研究所が行っ た調査により、志賀原発近くの断層は全長18キロに及ぶ単一のもので、原発の 耐震限度を超える地震が今後発生する可能性があることが分かった。

衣笠氏はこれまで公益事業会社へのアドバイスや原発予定地の調査、原子力 発電の安全性に関する法規改正などに携わってきた。広島工業大学の中田高教授 は、このことが、日本の原子力産業に特有の利益相反の問題の存在を示している と指摘する。

文部科学省地震調査委員会の委員を務める中田氏は、同一の人物が規則を策 定し、調査を実施し、調査評価を行っており、当局者は公益事業会社の報告書に 機械的に判を押すだけだと語った。

根本的な基準改定の必要性

利益相反に関する懸念は、7月16日の新潟県中越沖地震で東京電力の柏崎 刈羽原発が被害を受け、放射性ヨウ素等の放出があったことで高まった。神戸大 学都市安全研究センターの石橋克彦教授は、原子力発電所の工学上の基準を根本 的に改定しないと、原発の地震被害が壊滅的な大災害をもたらし得ると警告する。

国際原子力機関(IAEA)で原子力施設設置の安全性に関するディレクタ ーを務めていたケン・ブロックマン氏は、「私だったら、日本の規制プロセスに 若干の積極性を加味するだろう」と語る。

信頼性の問題

米原子力規制委員会ともかかわりがあったブロックマン氏は、日本の原子力 行政にとって、問題が発生して初めて介入するという点が問題だと指摘。「日本 は信頼が揺らぐ理由が生じて初めて介入するが、米国では信頼は常に検証すべき ものだとみられている」と説明した。

日本の原子炉安全性の責任を負うのは経済産業省だが、同省は原子力発電の 拡大努力も監督している。フランスや米国では、別個の政府機関の管轄となって いる。

原子力安全・保安院の福島章・主席統括安全審査官は、われわれは原子力プ ラントの安全性の検査で客観性と公平性、中立性を確立したと述べた上で、われ われの組織を経済産業省から独立させることでは問題の解決にはならないと語っ た。

原子力行政の独立性

米原子力規制委員会は1975年に独立機関として設置された。それ以前はエ ネルギー省が原子力発電の規制と普及の双方を担っていた。フランスは昨年、原 子力安全機関を独立させた。

原子力安全・保安院の福島氏は、同院が承認した原子力施設申請はすべて、 内閣府の機関である原子力安全委員会が審査することで、日本の利益相反は緩和 されていると指摘する。「人には過ちがつきものだ」と述べた上で、「だからわれ われは二重のチェックを行う」と説明した。

10キロメートルの意味

衣笠氏が志賀原発の調査評価を行った10年前、原発設計者にとって断層の 長さ10キロには特別の意味があった。当時の安全基準では、10キロに達した断 層はおよそマグニチュード(M)6.5の地震を引き起こし得るとされていたから だった。すべての日本の原子炉はM6.5の地震までの耐震性が義務付けられてい た。断層が10キロを超えた場合、原子炉にはより厳しい仕様が課せられる。

また衣笠氏らによる2005年の論文は、政府機関の研究者が慣習的に用いて いた、互いの距離が5キロ以内の小さな断層は単一の断層とみなすという基準に は触れていなかった。

衣笠氏はブルームバーグ・ニュースの取材に対し、この「5キロ・ルール」 について、より高度な分析と基準を用いたため同ルールを使わなかったと説明し た。

また活断層が実際よりも長かったことについて、「ある種の人がこうだと言 っているだけで、まだ結論が出ていないことだ」と述べた。

志賀原発2号機をめぐり住民らが提訴した民事訴訟で、2006年3月、北陸 電力に対し同機の運転を差し止めるよう命じる判決が下った。その後、北陸電力 は控訴したが、同機の蒸気タービンで損傷が見つかり運転は停止されている。

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