視界不良の船出、翌日物金利の先物上場-サブプライム足かせに(2)

東京金融取引所は3日、日本銀行が金融政 策の誘導目標とする翌日物金利の先物を上場した。日本の短期金利が上昇に向か うなか、市場の政策金利見通しを示す代表的な商品となる。ただ、足もとで米サ ブプライム(信用力の低い個人向け)住宅ローン問題から金融市場の混乱が続き、 当初は年明けとみられていた利上げ観測が大幅に後退。必ずしも絶好のタイミン グでのスタートとはならなかった。

政策金利を対象とする先物の上場は米国に遅れること20年。ゼロ金利が続 いた日本でも利上げができる経済環境に戻り、翌日物金利のデリバティブ(金融 派生)商品に対する需要がようやく出てきた。同取引所は将来の短期金利の変動 に対するヘッジ需要を踏まえ、商品を充実させたかたちだ。

東短リサーチの加藤出チーフエコノミストは、「スタートの時期としてはあ まり良くないが、いつ相場の材料になるような話題が出るとも限らない。長い目 で見ていく必要がある」という。

午前8時45分に取引を開始した無担保コールの翌日物金利先物は、9時25 分現在で2008年1月物が99.475(0.525%)から99.480(0.520%)で総額250 枚(1枚=3億円)の取引が成立している。

ブルームバーグ・ニュースの調査で、エコノミストやアナリスト22人が予 想する利上げの時期は、9人が来年1-3月、4人が4-6月、6人が7-9月、 3人が10-12月と、分散。一方、ユーロ円3カ月金利先物で0.25%の利上げを 織り込む0.90%(価格は99.100)に達するのは2008年12月物以降だ。12限月 (1年)で期近3-4限月までが取引量を決める翌日物金利の先物には厳しい相 場環境だ。

レンジ99.250-99.500

上場される先物商品の取引対象は、①政策金利である無担保コール翌日物② 国債の資金手当ての手段として取引規模が大きいGC(General・ Collateral)レポ(現金担保付債券貸借)スポット・ネクスト物(2営業後に 始まる翌日物)-の代表的な2つの翌日物金利。毎月の平均値を予想する。主力 の3カ月金利先物に続く品ぞろえで、短期金利のヘッジ商品を充実させる。

もっとも、日銀が「職人技」に近い緻密(ちみつ)な翌日物の金利誘導を行 うなかで、資金調達コストの上昇に対するヘッジ需要は生じづらい。取引を促す 最大の動機はやはり将来の政策変更をめぐる思惑だ。

政策金利が0.50%で据え置きなら、先物価格は99.500(0.500%)付近。

0.75%への利上げが予想されれば、99.250(0.750%)に向けて売られる。レ ポは債券の需給によってコールより変動しやすい面もあるが、東京レポ・レート はコールより数ベーシスポイント高い水準で比較的に安定している。

先物とOIS

政策金利を予想する取引としては、OTC(店頭)での相対取引(取引所を 介さずに当事者同士が行う)によるオーバーナイト・インデックス・スワップ (OIS)が根付き始めており、日銀が利上げを実施した2月の売買高は248兆 6865億円(マネー・ブローカーズ・アソシエーション調べ)と最高を記録した。 ただ、直近10月は110兆7120億円と、半分以下まで落ちている。

OISは顧客のニーズに合わせて期間が自由に設定できるOTCのメリット がある。一方、取引所を通じた先物の売買は価格に透明性が高いうえ、OISで 生じるカウンターパーティー(取引相手)の信用リスクを心配する必要がなく、 取引にかかわる手続きの負担も軽い。

東京金融取引所総務部の南出幸秀調査役は、「OISが根付いてきたからこ そ、取引所でも先物を上場する意味が出てきた」として、商品間の裁定取引によ る相乗効果にも期待する。

日銀が今年2月に公表した米国短期金融市場のリポートでは、米連邦準備制 度理事会(FRB)の政策金利フェデラルファンド(FF)レートの先物1日あ たりの売買高が30兆-50兆円程度、OISは10兆-30兆円規模と説明されて いる。

ただ、FF金利先物やドルOISの売買高も金利据え置きが続くなかで減少 しており、政策変更を予想するデリバティブ商品の売買高は市場の金利見通しに 影響を受けやすい。

市場の厚み

東短リサーチの加藤氏は、日銀の政策変更が予想されてくれば取引も自然に 増えるとして、「銀行のヘッジ玉が持ち込める厚みになれば取引増加にもドライ ブ(勢い)がかかる」とみる。ポイントは「金額をこなせるだけの流動性」(金 融取・南出氏)だ。

JPモルガン証券の木村仁美債券ストラテジストは、スペキュレーション (投機)の取引参入が必要としたうえで、「利上げを再び織り込み始めれば、市 場全体に大きなインパクトを与える商品になる」とみる。

ユーロドル3カ月金利先物とFF金利先物の売買高比率をおおむね10対1 とする見方がある。これをそのまま日本に当てはめると、1日の売買高が10兆 円(1枚=1億円)前後のユーロ円3カ月金利先物に対して、翌日物金利先物の 売買高は当初1兆円前後(1枚=3億円)が期待される。

デリバティブ商品の取引経験が長い東海東京証券の有麻智之債券ディーリン グ部長は、「突発事故が起きてもしっかりプライスが立つ(価格が提示されて反 対売買できる)ことが最も重要」として、市場の厚みを見極めていく姿勢だ。取 引所では、マーカットメーカー(値付け業者)など流動性確保への対応を検討し ている。

利上げ占う商品の船出

日本経済は緩やかな拡大を続けるとした日銀のシナリオに沿えば、政策金利 も上昇方向は変わらない。利上げの足かせとなっている金融市場の混乱がいずれ 収束することを考えれば、ヘッジ手段の品ぞろえとして翌日物金利の先物上場は 市場参加者にとっても歓迎すべきことだ。

しかし、サブプライムに絡む金融機関の損失問題から信用不安がくすぶり、 足元の短期金融市場は利上げの時期を予想しているどころではない。「最重要課 題は年末越えの資金繰り。先物を積極的に取引している余裕はない」(三菱東京 UFJ銀行円貨資金証券部・小倉毅円資金デスクチーフ)との声も聞かれる。日 銀の利上げを占う代表的な商品は、視界不良の船出を迎えた。

    最新の情報は、ブルームバーグ端末にて提供中
    LEARN MORE