【米経済コラム】わたしにシティCEOの資質がある理由-M・ルイス

あなたはどう思うか分からないが、わたし は金融市場の最近の混乱に少しがっかりさせられている。

金融業界が資産担保証券(ABS)で被った450億ドルの損失はその1つ。 ただこの損失には納得がいく(いずれにしろ、そのほとんどは他人のカネだ)。 一方で許し難いのは、個人の野心の弱さだ。かつて大手金融機関には、上司の 弱みにつけ込む方法を知っている銀行員やトレーダーがいた。ウォール街の最 高経営責任者(CEO)の首が飛んだ次の瞬間には、空席の椅子を狙って大勢 部下が列を作ったものだ。

そんな時代は終わった。大手金融機関2社のCEOは更迭された。3人目 のCEOはサブプライム関連の巨額の評価損で苦境にある。4人目は自身の後 継者探しに奔走している。にもかかわらず、後継者に適した人物はほとんど見 当たらない。

状況は、暫定CEOをあわてて探さなければならないほど、ひっ迫してい る。シティグループが打診した人物は、知名度が低く、CEO職にさほど意欲 がなく、就任に際して妻の許しを得なければならなかったウィン・ビショフ氏 (66)だった。

実際、状況はもっと悲惨だ。CNBCテレビのニュースアンカー、マリア・ バルティローモ氏との個人的な旅行が問題視され、シティグループを追われた トッド・トムソン氏に至っては、同氏を解雇したチャールズ・プリンスCEO 更迭のニュースを失地回復の機会として活用するどころか、新聞のインタビュ ーで処遇が悪かったことを批判する言葉を並べる体たらくだ。

まさにがっかりだ。ウォール街の惨状はわたしを憂うつにさせた。

そこでわたしは思いついた。批判家には誰でもなれる。わたしはパソコン の前に座って、世界に何が欠けているのかを批判することができる。しかしわ たしの言葉だけでは不十分だ。効果を上げるには、行動しなければならない。 そこでまた別の事に気づいた。シティグループのCEO、もっと言えばベアー・ スターンズのCEOのオファーを責任を持って受諾する前に答えなければなら ない質問だ。わたしに本当にCEO就任の資格はあるのか?

後任探しが難しい理由

この質問に答えるため、しばらくの間、厳しい質問を自分に問い掛けてみ た。その結果、わたしが行き着いたのは「資格あり!」という答えと、「ウォー ル街のCEOの資質とはいったい何か?」という新たな問いだった。CEOを 採用する立場の取締役会がこの質問に答えられないのは明らかだろう。CEO を解雇せざるを得ない状況に追い込まれてばかりいるのだから。

CEOの資質は、現役のCEOたちから推察しなければならない。以下に 挙げる例を見れば、後任探しが難しい理由が分かるはずだ。

◎ウォール街のCEOには、冷静さを失わずに毎年巨額の報酬を受け取る 特殊な能力が備わっていなければならない。

言葉で言うほど簡単なことではない。会社が数十億ドルの損失を出してい るとすればなおさらだ。例えば取締役会があなたに4000万ドル(約44億円) の報酬(手当は別)と、9けたの退職パッケージを付与したとしよう。あなた が普通の神経の持ち主なら、カーテンをいっぱいに開けた台所を裸で踊り回る に違いない。あなたを育ててくれた人たちがその事実を新聞で知り、あなたに 何を言うかに気付くまでは。

するとあなたは、取締役会に対し、ほかの従業員や株主にとって不公平な ため、報酬をより妥当な額にしてほしいと言うだろう。ここまで考えれば、大 半の人がウォール街のCEOに不向きであることが分かるはずだ。大半の人は 古くからある「道徳心」に背を向ける心の準備ができていないのだ。それでは CEOは務まらない。私利私欲をむき出しにしなければ、あなたの権限は損な われてしまう。一般社員との関係は特にそうだ。言い換えれば、自分の報酬す ら最大化できなければ、一般社員の報酬など決して最大化することはできない のだ。

◎ウォール街のCEOは、自分や野心的な部下の関心事と、株主の関心事 との違いを素早く見極め、そして巧妙なかじ取りをしなければならない。まず 自分の関心事、次に野心的な部下(自分にとって危険な部下)の関心事を、株 主に気付かれずに最大限に実現することだ。

ギャンブルして勝つ

現在のところこれは、株主の資本でギャンブルをして、大もうけすること を意味する。ギャンブルに勝てば、CEOと部下は年末に巨額のボーナスを受 け取ることになる。ギャンブルに負けても、9けたの退職金を手にするだけだ。 社有機だって5年間乗り放題だ。

さらに部下は社内で昇格するか、配置換えになるか、退職してほかの会社 に就職するかだ。その会社のCEOがこのゲームに通じた人なら、新たなギャ ンブルが始まり、遅かれ早かれ大金が懐に転がり込んで来る。

楽勝だと思ったら、試してみるといい。あなたがCEOに不向きな大半の 人と同じなら、ギャンブルに失敗した時に株主がどう感じるかを心配して夜も 眠れないことだろう。罪悪感にさいなまれ、非生産的な精神状態に追い込まれ る。会社の赤字幅が過去最高に達していればなおさらだろう。

メリット

◎ウォール街のCEOは、自分の退職時に後継者の資格が誰にも備わって いないような状況を作るため、部下を徹底的に管理する必要がある。

大勢の野心的な従業員を管理するのは難しいが、もしうまくいけば、いく つかの問題を一気に解決することができる。1つ目のメリットは、あなたにと って不都合な情報がメディアに流出するリスクを最小限に抑えられる。あなた の代わりにCEOになれると思う部下が誰もいなければ、そのためにあなたの マイナス情報を流す部下は現れない。2つ目は、会社の資本を使った大規模な ギャンブルがやりやすくなることだ。取締役会は、あなたの経営方針に口を挟 む能力を持つ従業員を思いつくことすらできないだろう。

そして最後に、社内にCEO候補がいなければ、取締役会はあなたを引き 留めるために、報酬を上積みせざるを得ないと考えるかもしれない。

8歳の娘が所属するソフトボール・チームより大きな組織を指揮した経験 のないわたしは、機会に恵まれない限り、CEOの資格があることを証明でき ない。ただこれだけは約束できる。シティグループにしろベアー・スターンズ にしろ、あなたの会社のCEOに就任した暁には、行動力と自主性のある部下 を全力で応援し、退職してヘッジファンドを立ち上げるよう勧める。わたしは そんなタイプのリーダーなのだ。 (マイケル・ルイス)

(マイケル・ルイス氏は、ブルームバーグ・ニュースのコラムニストです。 このコラムの内容は、同氏自身の見解です)

-- Editor: Schenker (jmg/scc)

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