メリル:サブプライム危機時代のCEO選びで内部昇進の伝統に終止符

ジョン・A・セイン氏(52)が20年以上前 にゴールドマン・サックス・グループで住宅ローン担保証券のトレーディング を始めたとき、それがまさかメリルリンチの最高経営責任者(CEO)の座に つながるとは思わなかっただろう。

マサチューセッツ工科大学(MIT)で工学学士号を取りゴールドマン社 長、NYSEユーロネクストCEOを歴任した同氏は、メリルが93年の歴史の 中で初めて全く無関係の外部から迎えるCEOとなる。同氏は12月1日にメリ ルのCEOに就任する。

次のリーダーを社内で育てる企業文化を誇りとしてきたメリルにとっては、 スタンレー・オニール前CEO(56)が残した傷の深さを再確認させられる出 来事だ。住宅ローン関連投資で巨額評価損を出したオニール氏は、CEOとし ての5年の間に多くの後継候補を排除してしまっていた。

ニューヨーク証券取引所もセイン氏がトップに就任した2004年には、リチ ャード・A・グラッソー氏の会長辞任で揺れていた。セイン氏のメリルでの仕 事は、「誇り」と「士気」を取り戻すことだと同社元幹部のウィンスロップ・ス ミス氏は指摘した。

メリルは10月24日に、22億4000万ドルの赤字を発表した。同社の11月 の届け出によると、米証券取引委員会(SEC)は同日、メリルのサブプライ ム(信用力の低い個人向け)住宅ローン関連資産について調査を開始した。ド イツ銀行のアナリスト、マイケル・マヨ氏によれば、メリルは最大でさらに100 億ドル(約1兆1100億円)の評価損に直面する可能性がある。

1990年代に4年間メリルのCEOを務めたダニエル・タリー氏は損失に怒 り、次のリーダーを外に求めなければならない事態を嘆いた。

トレーディングの腕

オニール前CEOは、自己勘定でリスクを取り収益を上げるゴールドマン に倣おうと、住宅ローン担保証券引き受け事業などに参入した。RCMキャピ タル・マネジメントのアナリスト、アダム・コンプトン氏は、メリルの取締役 会がセイン氏を選んだということは、リスクを抑制するつもりがまだないこと を示唆しているとみる。「セイン氏もゴールドマン出身だ」と同氏は指摘した。

トップ経営陣3人が皆トレーディング部門経験者のゴールドマンは、トレ ーディングのうまさからウォール街随一の収益力を誇る。ニューヨーク大学ス ターン校の金融学教授、ロイ・スミス氏は「トレーディングがメリルにとって 悪いというのではなく、必要なリスク管理のないトレーディングは誰にとって も悪いということだ」と話す。「セイン氏は専門家なので、ある意味で」メリル の「修理屋になれるだろう」と同教授は述べた。

セイン氏はMITの後、ハーバード・ビジネス・スクールを卒業し、1979 年にゴールドマンに入った。1999年に共同社長となるまでの間には、住宅ロー ン担保証券トレーディングも手掛けた。2004年1月にニューヨーク証券取引所 CEOに就任し、営利企業への転身やユーロネクスト買収を成し遂げた。

市場環境

NYSEユーロネクストの株価は06年の株式公開以来35%上昇している。 しかし、メリルでセイン氏が直面するのは全く違う市場環境だ。住宅ローン焦 げ付きの急増は住宅ローン担保証券やその関連証券の価値を暴落させ、投資家 のリスク回避はコマーシャルペーパーや高利回り融資の市場にまで及んだ。世 界の大手金融機関の評価損や不良債権は第3、4四半期で400億ドルを超える。

オニール前CEOは債務担保証券(CDO)引き受けの事業を拡大させた。 メリルによると、同社は9月末時点で、ヘッジなしのCDO152億ドル相当を 保有していた。規制当局への届け出によると、同社にはそれとは別に57億ドル 相当の「サブプライム関連のエクスポージャー(リスク資産)」がある。

格付け会社スタンダード・アンド・プアーズ(S&P)の株式アナリスト、 マシュー・アルブレヒト氏は、これらのリスクはセイン氏の就任後もメリルの バランスシートの重しであり続けるだろうとして、「リスクの大半がバランスシ ートから消えるのは数四半期後のことだろう」と述べた。

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