【経済コラム】米リーマン、ベアーSが買収される日は近い-M・リン

一世一代の好機がやって来た。破格で業界 図を塗り替えられる買収チャンスがやって来たのだ。チャンスは欧州の金融機 関トップの目の前にあるが、問題はそれをつかむ勇気があるかどうかだ。

このチャンスとは、米投資銀行の買収だ。

この言葉にクスクス笑う人は多かろう。サブプライム(信用力の低い個人 向け)住宅ローン危機にあえぐ金融機関の経営権を握って山積みの問題を抱え るために、どうして何十億ポンドや何十億ユーロもの大金を支払わねばならな いのかと思うことだろう。それでも、信用収縮で、ありとあらゆる金融機関の 株価は下落し、ドル安も進んでいる。それは米投資銀行の価格がシリアルのお まけのようにただ同然ということを意味する。

欧州の大手金融機関は、世界で競争するにはウォール街を支配できる位置 に立たなければならないことをずっと以前から認識している。ただ、これまで 成功したためしがない。買収対象が売りに出ない、あるいは高過ぎたからだ。

しかし、この状況は変わった。そもそも世界で成功している企業経営者の 一部は、ほかの誰もが関心を示さない時に事業を買収することで能力が高いと の評判を獲得した。例えば、英石油会社BPのジョン・ブラウン前最高経営責 任者(CEO)。同氏は原油価格が下落していた1999年に米同業アモコを買収 した。また、米メディア大手ニューズ・コープのルパート・マードック会長は、 インターネット株ブームがとうに去った2005年にソーシャル・ネットワーキン グ・サービス(SNS)の「マイスペース」を5億8000万ドル(約644億円) で買収した。会長は160億ドルの価値はあると話していた。

米投資銀行の市場評価額

似たようなチャンスが今、金融業界にやって来た。米メリルリンチの時価 総額は約450億ドル。リーマン・ブラザーズ・ホールディングスは300億ドル。 ベアー・スターンズは140億ドルで、モルガン・スタンレーは570億ドルだ。 高くはないだろう。リーマンの株価収益率(PER)は7倍だし、ベアー・ス ターンズもそうだ。モルガン・スタンレーに至っては6倍だ。

PERは大した意味を持たないという意見もあるだろう。これらの米金融 機関は格付けが低くて値が付かない証券を抱えているからだ。どこも大きな評 価損に直面している。どこを買収しても、数年はいばらの道だろう。

それでも、これらの米企業は世界の金融業界のリーダー格だ。今年のM& A(合併・買収)助言業務ランキングには例年のように、メリルリンチやリー マン、モルガン・スタンレーがトップ7位に入っている。どう見ても、世界で 最も影響力のある金融機関だ。

買い手候補にとって、米投資銀行は安過ぎて、資金繰りにもさほどの苦労 はないだろう。例えば、英HSBCホールディングスの時価総額は2100億ドル。 スペインのサンタンデール銀行は1350億ドル。クレディ・スイス・グループは 700億ドル。ドイツ銀行は650億ドルだ。株価を30%上回るプレミアムを支払 っても、リーマンやベアー・スターンズの買収はそれほど困難ではないだろう。

買い手候補はほかにもいる。時価総額が3350億ドルの中国工商銀行だ。モ ルガン・スタンレーの買収も可能なのに、ロイヤル・バンク・オブ・スコット ランド・グループ(RBS)が他行と組んでオランダのABNアムロ・ホール ディングの経営権を取得することは理解に苦しむ。ABNアムロにはそれほど 成長見込みがない。

千載一遇のチャンス

投資銀行の株価に加え、ドルも安い。今後はどちらも回復すると考えるほ うが普通だろう。米貿易赤字は縮小傾向だし、米経済はなお成長を続けている。 米国は世界一の経済大国であり、米投資銀行は世界で最も革新的だ。今後もド ル安局面はあるかもしれないし、投資銀行の株価暴落もあるだろう。しかし、 同時に起きるだろうか。その公算は小さいと思われる。

千載一遇のチャンスがめぐって来たのだ。何年にもわたって、欧州の銀行 はウォール街征服を狙ってきた。HSBCなど各行は自社の投資銀行部門を打 ち立てるのに財産を投じてきた。ただ、ビジネスの世界では、戦闘と同様、状 況は勇者に有利に働く。米投資銀行を今このときに買収するのが、欧州のいか なる大手金融機関にとっても得策なのは疑いない。必要なのは少しばかり図太 い神経だけだ。 (マシュー・リン)

(マシュー・リン氏は、ブルームバーグ・ニュースのコラムニストです。 このコラムの内容は同氏自身の見解です)

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