【米経済コラム】ゴルフコースのオニール氏,意味深な独白-M・ルイス

ウォール街の大手金融機関が巨額の金を失う とき、いったい何が起こったのか正確なところは分からないことが多い。

頭の良い大勢の人間が、自分の失態を大慌てで隠すからだ。誰が誰に何を 言ったか、いつ言ったかが明白なことはまれだ。しかし、メリルリンチの84億 ドル(約9615億円)という衝撃的な評価損では奇妙なことに、あいまいさは恐 らく少ない。メリルの損失が膨らんでいた時期に、同社のスタンレー・オニー ル最高経営責任者(CEO、当時)がどこにいて、誰と何をしていたかを私た ちは正確に知っているからだ。

その場所はゴルフコース。1人でプレーをしていたのだ。

オニール氏のゴルフのスコアは全米ゴルフ協会(USGA)のウェブサイ ト

http://www.ghin.com/lookups/index.html で参照できるが、同氏のゴルフに注目が集まるきっかけとなったのはビスポー ク・インベストメント・グループのサイトだった。同氏のゴルフの記録は幾つ かの点で興味深い。

メリルの損失が膨らんで行った8月12日-9月30日の6週間に、オニー ル氏は4つのコースで合計20回プレーしたばかりか、素晴らしい成績で回った。 心に感じていたに違いない痛みを露ほどもうかがわせない安定したスコアだっ た。実際このスコアを見ると、なぜメリルが2006年に同氏に4800万ドルを支 払うことにしたのかがよく分かる。氷のように冷静沈着だからだ。7月末から 10月初めにかけて、オニール氏が経営している会社は1日1億ドルを超えるペ ースで金を失っていた。しかし同氏のハンディキャップはほとんど動かず、実 際のところ10.2から9.1に下がった。

真実を知るために

メリルがなぜ、事実上ただ1件の取引で80億ドルを失ったかを説明しよう とする金融ジャーナリストは、メリルのニューヨーク本社で行われた会話や会 議の様子を再現しようとするだろう。しかしそれは時間の無駄だ。

真実を知りたいなら、ジャーナリストらは1人で黙々とゴルフをするCE Oの心の中という沈黙の世界へ下りていかなければならない。ほかに誰もいな いカート専用道をゴルフカートに乗りながら、誰もいないフェアウエーを歩き ながら、2、3分ごとに白いボールを打ちながら、オニール氏は何を考えてい たのだろう。自分の会社がガタガタになっているのに、どうしてそれほど冷静 さを保つことができたのだろう。

実は、その答えはUSGAに残されている同氏のスコアカードに見いだす ことができる。これらのカードに、オニール氏はスコアだけでなく、自分自身 へのちょっとしたメモを残していた。

当然のことながら、その多くは仕事とは無関係だ。例えば、マサチューセ ッツ州マーサズビンヤード島の有名コース、バインヤード・ゴルフ・クラブで 83で回ったことを示す8月31日のスコアカードの裏には「おれは男だね!」と いう走り書きがある。9月22日にニューヨーク州のワカバック・カントリー・ク ラブで80で回った後には「80とは立派なもんだ!」とある。

しかし幾つかのメモは、危機に直面した21世紀のウォール街CEOの心の 動きを映している。短い鉛筆で殴り書きされたメモからは、嵐の真ん中に座っ て、自分に対してほぼ完璧に満足している男の姿が浮かび上がる。

メモが語るもの

8月12日 パーチャス・カントリー・クラブ(オハイオ州)

コースには私1人だ。話す相手がいないので自分に話した。ふと思い付い た。誰も私がどこにいるか知らない。全く。携帯電話も切った。5時間後に私 は思った。時間はどこへ行ったんだろう。完璧な一日だ。

8月18日 パーチャスCC

11番のバーディーは素晴らしかった。気が散っていたらできなかっただろ う。細かいことはゴルフには邪魔だ。また思い付いた。ゴルフはメリルの経営 のようだ。こつは、シンプルにすることだ。全体像を把握するのだ。今までで 最も賢明な行動は、メリルを日々の細々した仕事から解放し、ほんの幾つかの 大きな賭けをするようにしたことだ。自由時間が増える。

8月26日 バインヤードCC

5バーディー、3ボギー。出入りの激しいスコア。ムードが上がったり下 がったりするのは爽快(そうかい)だ。しかし、この気持ちを悟られてはなら ない。もっとも、周りには誰もいないが。しかし次の組に誰がいるか分かった ものじゃない。ゴルフは本当にメリルの経営に似ている。ゴルフをしていると 会社にいるような気分がしてくる。ある意味では実際にそうだ。

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オニール氏はこのころに、ウォール街で何か異常なことが起こっていると いうことを耳にしたようだ。同氏は続けざまに90台をたたいた。同氏にとって はひどいスコアだったかもしれないが、これは同氏の腕前のせいとは言えない。 信用市場はパニック状態に陥り、メリルは危機に瀕(ひん)していたのだから。

同氏はちょっとオフィスに顔を出し、サブプライム問題は波及しないと報 道関係者を安心させ、また腕を磨きにコースに戻った。メモ書きを見ると、ウ ォール街のCEOがゴルフに集中するのがどんなに難しいかがよく分かる。

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8月26日 バインヤードCC

いまいましい市場だ。バンカーショットの途中で携帯電話が鳴った。サブ プライムは「サブパー(標準以下)」だと言う人たちに教えてやらなければ。「サ ブパー(アンダーパー)」というのは良いことを言うのだ。打ち直しをしよう。 当然の権利だ(法順守をチェックしろだって?)ウォール街はつくづく、素晴 らしいゴルフをするには向いていない。USGAへ:ハンディキャップは職業 を考慮して決めてくれ。

8月31日 バインヤードCC

12番でパットをしていたら、メリルの顧客が林の中から現れて口笛を吹い たおかげで外してしまった。メンバーでもないくせに。黒人が入っていくのを 見て私かバーノン・ジョーダン(ラザードのシニア・マネジングディレクター) だと思って、ポートフォリオの相談をしたかったのだそうだ。厚かましい人も いるものだ。投資はゴルフのようなものだと言って煙に巻いてやった。

9月2日 パーチェスCC

また1人でラウンドしている。皆デスクにかじりついていて相手がいない。 ジミー・ケイン(ベアー・スターンズCEO)までが忙し過ぎて、などと言う。 根性なしめ。ベアーのことはベアーが何とかするが、君のハンディキャップは 誰も面倒みてくれないよと言ってやった。16番のフェアウエーを歩きながら、 1人だと感じる。そこで気付いた。私は1人だ。また思い付いた。危機のなか にあるリーダーは1人だと感じるべきなのだ。チャーチルだってそうだった。 チャーチルもゴルフをしたのだろうか。

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季節が夏から秋へと移るなかで、四面楚歌のメリルCEOのバーディーへ の喜びは薄れていく。それを示すように、ボギーのスコアの隣の書き込みが増 える。1つの書き込みはトリプルボギーの隣にあった。シネコックヒルズ・ゴル フ・クラブ(ニューヨーク州)でのその9月22日のオニール氏のスコアは、同 氏にとって大いに不本意であるに違いない89。これは、同じ日に80キロ離れた ワカバックCCでプレーするために急いでいたからだった。

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9月22日

いまいましいウォーターハザードだ。まったくいまいましい。思い出せ。 メリルに大きな賭けをさせれば、会社のことを考える時間が少なくて済む。オ フィスにいる時間が短ければ、水に落ちたボールを探す時間ができる。ボール をなくすのは弱さの表れだ。たとえ誰にも見られていなくても。最良のシナリ オはボールを見つけることだ。最悪のシナリオは1億6000万ドルをもらうこ と・・・。

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いつにない感情的な書き込みからは、たった1つのボールを池に落として なくしたことで、当時のCEOが経営の厄介な会社をひどく恨んでいる様子が うかがえる。一般化すると、ゴルフコースでのトラブルがCEOの心を曇らせ、 不本意なことに、会社でのトラブルを思い出させたのだろう。オニール氏の最 後の2枚のスコアカードの意味と重要性の判断は読者に任せよう。

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9月29日

スイングの最中に会社から電話だ。しかも土曜日に!1人でプレーする意 味もない。呼び出された理由は51億の件らしい。

9月30日

84億だった。 (マイケル・ルイス)

(マイケル・ルイス氏はブルームバーグ・ニュースのコラムニストです。 このコラムの内容は同氏自身の見解です)

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