福井日銀総裁:頭空っぽにして待つのは大失敗つながる-利上げ(4)

日銀の福井俊彦総裁は5日午後、大阪市内 で会見し、金利の引き上げについて「急いでいるということはない」としながら も、「下振れリスクにばかりかまけて、『しばらく頭の中を空っぽにして待つん だ』という態度は、将来の大きな失敗につながる」と言明。「われわれは下振れ リスクが強まる場合でも、一方で緩和を長く続け過ぎることによる、よりロング ラン(長期的)なリスクは考えなければならない」と語った。

福井総裁はこれに先立ち行った講演後の質疑応答でも、「実勢より低過ぎ る金利は将来に危険性をはらんでいるので、タイムリーに金利を上げていかなけ ればいけない」と述べ、利上げの必要性に言及した。しかし、米サブプライム (信用力が低い個人向け)住宅ローン問題に端を発した国際金融市場の混乱や、 世界的な景気の下振れ懸念から、実際には利上げできない状態が続いている。

日銀は狼少年になり信認を失うのではないか、との質問に対し、福井総裁 は「率直に申し上げて、われわれは利上げをしたいとか、急いでいるということ はない。文字通り、これまでも経済・物価情勢をみながら最も適切と思われるタ イミングで、結果としてゆっくり金利水準の調整をしてきている」と述べた。

結果をみて判断してほしい

福井総裁は「以前に比べるとダウンサイド(下振れ)リスクが米国経済、 あるいは国際金融資本市場を中心に少し高くなってきていることは認識してい る」としながらも、「これをもカウントしながら、今後適切なタイミングをつか んでいかなければいけない」と語った。

福井総裁はこうした考えの背景について「日本に限らず、海外においても、 経済に大きな変動を結果としてもたらした、それ以前の段階では、ある問題に対 する対処にあまりにもエネルギーが注がれ過ぎて、一見すぐには起こりそうにな いリスクに目をそらすという瞬間があったのではないか、という反省がある。率 直に言って、日本においても同様のことがあったのではないか」と指摘。

そのうえで「われわれとしては自らそういう態度を取ることは許さないと いう強い自戒の下にやっている。何か急いでやりたいという気持ちから、やれな いで焦っているとか、狼少年のようなものの言い方をして、やらないからといっ て信用を失うということはあり得ない。それは、経済の結果としてのパフォーマ ンスをよく見てくださいとしか言いようがない」と語った。

FRBは軟着陸に自信示したがなお未知数

米連邦準備制度理事会(FRB)は9月の0.5%利下げに続き、先月31日 の米連邦公開市場委員会(FOMC)で0.25%の追加利下げに踏み切った。声 明には景気の下振れリスクのみに言及した9月と異なり、「FOMCは今回の措 置を講じた後のインフレ率上昇リスクと成長下振れリスクがおおむね均衡すると 判断した」との文言が盛り込まれた。

福井総裁はFOMC声明について「連銀としてこの先予測し得るリスクの 顕現化に対し、少し先手を打って対応し、その効果をも合わせ入れると、リスク バランスは今のところおおむね取れた状態で、先行きシナリオの大きな崩れを引 き起こすことなく、ソフトランディング(軟着陸)のパスに持っていけるという 自信を示されたものだと受け止めている」と述べた。

福井総裁はそのうえで「私どももそういう見方を共有するが、これから住 宅市場の調整がさらにどれくらい厳しいものになるか若干未知数なところがあ る」と指摘。「住宅着工件数が非常に低くなっているが、一方で在庫がまだ増え 続けている状況なので、在庫の調整が今後進む過程で、住宅価格に対してどれく らい押し下げ圧力があるか、それが経済の他の部門、特に個人消費にどういう下 押し圧力をもたらしていくか、これは1つの注目事項だ」と語った。

リスク再評価は少し時間かかる

福井総裁はさらに「住宅金融の問題が証券化市場、あるいはクレジット市 場全般の問題に波及しているが、リスク再評価の過程は、再評価が終わるつど過 去の損失が明確になり、その処理の負担が出てくるので、金融面からそれが一般 的な企業金融に対してどれくらい引き締まり方向でのプレッシャーをもたらすか。 こういった面からも1つの注目事項がある」と述べた。

米サブプライム問題に端を発した国際金融市場の混乱については「リスク 再評価の動きはもう少し時間がかかる。最終的に金融機関がどれくらいの損失を 計上するかを含め、少し評価が交錯する局面が続くと考えている」と述べた。

国内の株価が大きく下げていることについては「日本だけでなくて、グロ ーバルにみてどの国の市場においても、まだボラティリィティ(変動)が比較的 高い状況が続いていることが基本的背景だと思う」と指摘。

そのうえで「サブプライム問題に端を発したグローバルな市場におけるリ スクの再評価の過程はもう少し時間がかかると思うし、最終的に金融機関のバラ ンスシートにどれくらい損失が出るか、その負担はどうかという点を含め、少し 評価が交錯する局面は続くだろう」と語った。

主な一問一答は次の通り。

――この日も株価が大きく下げたが、その背景についてどのようにご覧になって いるのか。

「株価の変動については、引き続き市場の中で、これは日本だけでなくて、 グローバルにみてどの国の市場においても、まだボラティリィティが比較的高い 状況が続いていることが基本的背景だと思う。サブプライム問題に端を発したグ ローバルな市場におけるリスクの再評価の過程はもう少し時間がかかると思うし、 最終的に金融機関のバランスシートにどれくらい損失が出るか、その負担はどう かという点を含め、少し評価が交錯する局面は続くだろう」

――FRBが9月の0.5%の利下げに続き、先月31日のFOMCで0.25%の追 加利下げに踏み切ったが、どのように評価されているのか。

「連銀のステートメントは、連銀としてこの先予測し得るリスクの顕現化 に対し、少し先手を打って対応して、その効果をも合わせ入れると、リスクバラ ンスは今のところおおむね取れた状態で、先行きシナリオの大きな崩れを引き起 こすことなく、ソフトランディングのパスに持っていけるという自信を示された ものだと受け止めている」

「私どももそういう見方を共有するが、これから住宅市場の調整がさらに どれくらい深まっていくか、厳しいものになるか、若干未知数なところがある。 住宅着工件数が非常に低くなっているが、一方で在庫がまだ増え続けている状況 なので、今後、在庫の調整が進む過程で住宅価格に対してどれくらい押し下げ圧 力があるか、それが経済の他の部門、特に個人消費にどういう下押し圧力をもた らしていくか、これは1つの注目事項だ」

「もう1つは、住宅金融の問題が証券化市場、あるいはクレジット市場全 般の問題に波及しているが、リスク再評価の過程は、再評価が終わるつど過去の 損失が明確になり、その処理の負担が出てくるので、金融面からそれが一般的な 企業金融に対してどれくらい引き締まり方向でのプレッシャーをもたらすか。こ ういった面からも1つの注目事項がある」

「連銀はそれを先読みしながら、2度にわたる利下げという形で先手を打 っている。連銀の観測の通り、合わせてオーダリーな、秩序だった調整プロセス が進んでいくことをわれわれとしては期待している。これは世界経済にとっても、 ひいては日本経済にとっても望ましいシナリオと思う」

「リスク再評価の過程は、リスク評価が甘すぎたものをきちんと資産の本 質的価値とか市場の中で認識できるリスクの度合いをきちんと価格に反映しよう ということだから、その調整過程を秩序だって進めていけば、先行きは実体経済 と市場との呼吸の合わせ方がよりスムーズになる。そのプロセスが、多少時間が かかってもオーダリーに進むということが大事だ。したがって、各国中央銀行間 の緊密な連絡が今後とも欠かせないと思っている」

――講演後の質疑応答でも金利の引き上げに意欲を示されたが、実際には利上げ できない状況が続いている。こうした状況が続けば、日銀が狼少年になり、金融 政策運営に対する信認が低下するのではないか。

「率直に申し上げて、われわれは利上げをしたいとか、急いでいるという ことはない。文字通り、これまでの実績も経済・物価情勢をみながら、最も適切 と思われるタイミングで、結果としてゆっくり金利水準の調整をしてきている」

「これが経済に残した結果としては、物価安定の下での持続的な成長のパ スをそらさないできている。しかも、先行きの展望についても、そういうふうに つながる形を維持してきているので、今後の金融政策運営も同様にしたい。そう いうことを述べている」

「ダウンサイドリスクがしばらく、以前に比べると米国経済、あるいは国 際的な金融資本市場を中心にリスクが少し高くなってきていることは認識してい る。しかし、これをもカウントしながら、今後適切なタイミングをつかんでいか なければいけない。ダウンサイドリスクにばかりかまけていて、『われわれはし ばらく頭の中を空っぽにして待つんだ』というのは、将来につながる大ミスにつ ながる態度になる」

「われわれはダウンサイドリスクが強まる場合でも、一方で緩和を長く続 け過ぎることによる、よりロングランなリスクは考えなければならない。日本に 限らず、海外においても、経済に大きな変動を結果としてもたらした、それ以前 の段階では、ある問題に対する対処にあまりにもエネルギーが注がれ過ぎて、一 見すぐには起こりそうにないリスクに目をそらすという瞬間があったのではない か、という反省がある」

「率直に言って、日本においても同様のことがあったのではないかと思わ れる。したがって、われわれとしては自らそういう態度を取ることは許さないと いう強い自戒の下にやっている。何か急いでやりたいという気持ちから、やれな いで焦っているとか、やらないことによって、狼少年のようなものの言い方をし て、やらないからといって信用を失うということはあり得ない。それは経済の結 果としてのパフォーマンスをよく見てくださいとしか言いようがない」

――講演で「仮に、先行きの売り上げ、収益、資金調達コスト、為替相場や資産 価格などに関する楽観的な想定に基づいて、金融・経済活動が積極化する場合に は、金融市場において行き過ぎたポジションが構築されたり、結果的に非効率な 経済活動に資金や資源が使用され、長い目で見て資源配分に歪みが生じる事態も 想定される」と述べられた。金融市場では年内の利上げの可能性は小さいとの見 方が大勢だが、こうした見方は「行き過ぎたポジションの構築」とお考えか。

「私が申し上げたのは、非常にある意味で時間帯が長い話として申し上げ た。年内とか、あるいは至近距離で利上げの観測が強まったり弱まったりしてい るのは、市場の特性として、日々出てくる新しいデータに市場は大きく揺れ動き なら自ら消化していくという過程をとる」

「利上げ観測が遠のいたり、近づいたりすること自身、極めて自然なこと だ。われわれの分析アプローチと市場のアプローチは違う。われわれは個々のデ ータに一喜一憂しない。すべて織り込んで、冷静な分析を延ばしていく。この間、 齟齬(そご)はないと思っている」

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