福井日銀総裁:下振れリスクは増大-低金利リスクも軽視せず(7)

(第6段落以降に発言を追加します)

【記者:日高正裕】

10月31日(ブルームバーグ):日本銀行の福井俊彦総裁は31日午後、定例 会見し、米サブプライム(信用力の低い個人向け)住宅ローン問題に端を発した 国際金融市場の混乱で、景気の先行きに「下振れリスクが高まっている」と指摘。 「海外経済や国際金融資本市場の動向を引き続き注視する必要がある」と述べた。 一方で、国内で低金利を長く続けるリスクについても「決して軽視できない」と 言明。引き続き金融正常化に向けた意欲を示した。

福井総裁は「サブプライム問題に端を発した国際金融資本市場の不安定な 状態は続いており、今後もしばらく続きそうだ。また、米国経済の先行きを含め、 世界経済について何がしか不確実性が生じているのも事実だ。そういう意味では、 下振れリスクが高まっていると率直に言って申し上げられる」と述べた。

一方で「そうした状況の下にあっても、われわれとしては、最も蓋然(が いぜん)性の高い見通しとして、日本経済は先行きも物価安定の下で息の長い成 長を続けると判断している」と語った。

低金利のリスクは「お題目ではない」

福井総裁はそのうえで「こうした中で、低金利が経済・物価情勢と離れて 長く継続するという期待が定着し、経済・物価の振幅が大きくなったり、非効率 な資源配分につながるリスクは引き続き存在すると考えている。これは決してお 題目ではなく、本当にそう考えている」と言明。

先行きの金融政策運営について「見通しの蓋然性と、それに対する上下両 方向のリスクを丹念に点検したうえで、適切な政策判断を行っていく方針だ」と 語った。具体的な利上げのタイミングについては「今後とも予断を持つことなく、 しかし、機動的な金融政策の運営はしっかりやっていきたい」と述べた。

米国の下振れリスクはより強まっている

福井総裁は米国経済については「やはり住宅市場の調整がより長く、より 厳しい方向にいっており、ひいては米国経済全体に対するダウンサイドリスクが より強まっているとも言えなくもない状況になっている」と述べた。

金融資本市場の動きについては「夏場に比べると、特にマネーマーケット については少し落ち着きが見られる。資産担保コマーシャル・ペーパー(ABC P)市場の残高は減り続けているが、減り方が少しマイルドになっており、いく らか改善事項がある点ではよりクリアになっている」と指摘。

一方で、「欧米の金融機関のバランスシートに損失が舞い戻ってきて、そ の発表があると、その程度で良かったと思われる場合と、予想より少し悪いねと いう場合が入り混じっていて、かえって先が少し読みにくくなっているとみられ る人もいる。少しずつ明確になりながら、先行きの不確定要因はまだ大きく引き ずっている」と語った。

福井総裁はまた、原油価格の高騰についても「行き過ぎれば世界経済、およ び日本経済にとっては押し下げ要因になる一方、物価に対しては押し上げ要因に なる」と指摘。そのうえで「本当に行き過ぎているのかどうか、世界経済も日本 経済もうまく消化していけるかどうか、きちんと見極めていくことは非常に大切 だ」と述べた。

下振れリスクを過度に見ると政策誤る

福井総裁は「目の前で起こっている現象、あるいは目先やや短期的に見て、 海外経済やグローバルな金融資本市場の動きの中で、ダウンサイドリスクが幾ば くか高まっている。やや高まった状況がしばらく続きそうだ」と指摘。「短期的 にみれば、ダウンサイドリスクの方が強いと言えなくもない」と語った。

福井総裁は一方で、サブプライム問題を引き金とした国際金融市場の混乱 について「緩和を長く続けると、先行き大きなリスクが出るということは、世界 的にも今回証明されたし、日本の場合にも、やはりいくらか証明された」と言明。 「長い目でみたアップサイドリスクは結構大きいことは、今回のサブプライム問 題を引き金として起こった世界のさまざまなことを見ても、この問題を軽視でき ないことは非常に明確でないか」と述べた。

福井総裁はさらに「ダウンサイドリスクが強まる一方で、先行きのリスク についてもよりビジブル(目に見えるよう)になっている」と指摘。「現状の足 元、あるいは直近の未来の中でのダウンサイドリスクをオーバーにカウントし過 ぎると、政策は誤る」と述べた。

展望リポートは全員一致

この日の金融政策決定会合では、水野温氏審議委員が8月、9月、10月1 回目の決定会合に引き続き、4回連続で金融政策の現状維持に反対した。福井総 裁は同委員がこれまで通り0.25%の追加利上げと、同じ幅の補完貸付金利の引 き上げを提案したことを明らかにした。また、展望リポートの採決については、 全員一致で賛成だったことも明らかにした。

福井総裁はそのうえで、政策委員の間に「意見の不一致はない。長い目で 見た経済の見方について、意見の不一致はほとんどみられない」と語った。

主な一問一答は次の通り。

――本日の決定の背景と展望リポートについてご説明ください。

「金融政策の現状維持を8対1の賛成多数で決定した。これまでに公表さ れた経済指標から見て、日本経済は緩やかに拡大していることが確認されたが、 海外経済や国際金融資本市場の動向を引き続き注視する必要があるという判断に 基づくものだ」

「今回の展望リポートでは2008年度までを展望して、海外経済や国際金融 資本市場の動向など不確実な要因はあるものの、生産・所得・支出の好循環メカ ニズムが維持されるもとで、息の長い拡大を続けると予想した。物価面では、国 内企業物価指数は、原油などの商品市況や為替相場にも左右されるが、上昇基調 を続けるとみている」

「消費者物価指数(除く生鮮食品)は前年比でみて目先はゼロ%近傍で推 移する可能性が高いが、長い目でみると、プラス幅が次第に拡大するとみられる と予想した」

「こうした見通しの上振れ・下振れ要因については、まず海外経済の動向 を指摘している。米国の住宅市場の調整が一段と厳しいものとなった場合や金融 資本市場の変動の影響が予想以上に広範なものとなった場合、米国景気が一段と 減速する可能性も考えられる。欧州経済は拡大を続ける可能性が高いが、国際金 融資本市場の変動が金融環境に及ぼす影響次第では、下振れるリスクがある」

「このような米国や欧州の経済をめぐるリスクが顕現化した場合には、そ の程度いかんによっては、他地域の成長にも悪影響を及ぼし、世界経済全体とし て下振れる可能性がある。この場合には、日本経済にも何がしかの影響を免れな いだろうと考えられる」

「次にもう1つ(リスクとして)述べているのは、緩和的な金融環境が続 くもとで、金融・経済活動の振幅が拡大する可能性だ。仮に、先行きの売り上げ、 収益、資金調達コスト、為替相場や資産価格などに関する楽観的な想定に基づい て、金融・経済活動が積極化する場合には、金融資本市場において行き過ぎたポ ジションが構築されたり、非効率な経済活動に資金やその他の資源が使われ、長 い目でみた資源配分に歪みが生じるおそれがある」

「最後に金融政策の運営については、これまでの基本的な考え方を維持す る方針だ。中長期的な物価安定の理解に照らして、日本経済が物価安定のもとで の持続的な成長軌道をたどる蓋然性が高いことを確認し、リスク要因を点検しな がら、経済・物価情勢の改善の度合いに応じたペースで、徐々に金利水準の調整 を行うことになる。こういう基本方針をそのまま維持することを決定した」

――サブプライム問題の影響で金利水準調整のペースは徐々に遅くなっていくと お考えか。

「必ずしもそうは言えないと思う。サブプライム問題に端を発した国際金 融資本市場の不安定な状態は続いており、今後もしばらく続きそうだということ だ。また、米国経済の先行きを含め、世界経済について何がしか不確実性が生じ ているのも事実だ。そういう意味では、下振れリスクが高まっていると、率直に 言って申し上げられると思う」

「ただし、そうした状況の下にあっても、われわれとして判断する限り、 最も蓋然性の高い見通しとしては、日本経済は先行きも物価安定の下で息の長い 成長を続けると判断している。加えて言えば、サブプライム問題や国際金融資本 市場の変動がわが国の金融情勢に及ぼす影響は限定的である。極めて緩和的な金 融環境が維持されるとみられる」

「こうした中で、低金利が経済・物価情勢と離れて長く継続するという期 待が定着し、経済・物価の振幅が大きくなったり、非効率な資源配分につながる リスクは引き続き存在すると考えている。これは決してお題目ではなく、本当に そう考えているということだ。したがって、先行きの金融政策運営においては、 今申し上げたような見通しの蓋然性と、それに対する上下両方向のリスクを丹念 に点検したうえで、適切な政策判断を行っていく方針だ」

「たびたび申し上げているが、具体的なスケジュールに関する予断はいっ さい持っていないので、遅くなった、早くなったということはいちいち判断でき ないが、今後とも予断を持つことなく、しかし、機動的な金融政策の運営はしっ かりやっていきたい」

――日銀のメインシナリオは変わらないが、以前と比べ、上振れリスクに比べる と下振れリスクが強まっていると解釈してよいか。

「目の前で起こっている現象、あるいは目先やや短期的に見て、海外経済 やグローバルな金融資本市場の動きの中で、ダウンサイドリスクが幾ばくか高ま っている。やや高まった状況がしばらく続きそうだというのはおっしゃるとおり だ。したがって、短期的にみればダウンサイドリスクの方が強いと言えなくもな いが、展望リポートの中で上振れリスク、下振れリスクというのは、より長い目 でみている」

「金融政策も目先だけでなく、できるだけ先を読みながら、一番手前の政 策展開をやっていくというアプローチをやっているので、少し時間の尺度を長く 延ばして上下のリスクを考えた場合、低金利をあまりに長く続けることのリスク、 資源配分が歪み、結果として経済の大きな振幅をもたらすリスクは、手前のダウ ンサイドリスクが大きいからと言って、相対的にこれを希薄化してみるわけには いかないとわれわれは思っている」

――展望リポートで「現実の政策対応は、物価上昇圧力が弱い中で余裕を持って 行うことができ、・・・・今後の金融政策運営においても、こうした基本的な考 え方を維持する方針である」としている。あえてこうした表現を入れたのはなぜ か。また、ユニット・レーバー・コスト(生産1単位当たりの人件費)について、 これまでは「上昇に転じていく可能性が高い」としていたが、今回は「下げ止ま っていく可能性が高い」としている。物価上昇圧力が弱まっていくことを考えれ ば、現実の政策対応はさらに余裕を持って対応できるとお考えか。

「表現の変化でもって、そういうふうに政策経路を直結してご判断いただ きたくない。もしそうであれば、時の経過とともに、いろいろな条件が変わって も、いつも同じ表現でないと、われわれの基本的なスタンスが変わっていないこ とを表現できない」

「ここのところは格別な意味を込めたわけではなくて、量的緩和脱却後、 既に相当時間が経ち、2回の政策変更もあり、われわれとしては経済・物価情勢 の進展のペースに合わせて金利の引き上げをやっていくということを、最初はま ず白紙の状態で述べ、確実に金利の引き上げをやって、その間、経済はおおむね シナリオ通りに動いているといっても、内容を仔細に見ると、さまざまなところ でいくらか違いが出てきている。海外環境も変わってきている」

「しかし、緩和を長く続けると先行き大きなリスクが出るということは世 界的にも今回、証明されたし、日本の場合にもやはりいくらか証明されたと思う。 そういうことを考えると、やはり、これまで動いてきた現実の経過の中で、国民 の皆さん、あるいは市場参加者すべて方々が経験してきたことの実感に直結する ような表現をなるべく入れていく」

「あるいは、海外で現実に起こっていることとの関連を日銀がどう考えて いるかを表現の中にもできるだけ取り入れながら、しかし、基本スタンスは変わ っていない。こういうことは申し上げざるを得ないことである。現状の足元、あ るいは直近の未来の中でのダウンサイドリスクをオーバーにカウントし過ぎると、 政策は誤る」

「長い目でみたアップサイドリスクは結構大きいことは、今回のサブプラ イム問題を引き金として起こった世界のさまざまなことを見ても、この問題を軽 視できないことは非常に明確でないかと思う。したがって、ダウンサイドリスク が強まる一方で、先行きのリスクについてもよりビジブルになっているというこ とは――政策判断として難しくなったのか、と言われれば、そういうふうに言え ないこともないとは思うが、その難しい判断をやっていかなければならない」

――世界経済の不確実性は前回会合から増しているとお考えか。

「たとえば世界経済の見通しについて、G7(7カ国財務相・中央銀行総 裁会議)などもあり、少なくともこれまでところ出てきた影響は、世界経済に対 しては下方修正を迫るものであっても、国際通貨基金(IMF)の2008年の世 界経済成長率見通しは0.4%ポイントの下方修正にとどまっている」

「少なくともこれまでのさまざまな出来事の世界経済への影響は、総和と しては取りあえずそんなところと世界の政策当局者は認識をシェアしているとい うところは、前回に比べて少し明確になっていると言えない点ではないと思う」

「しかし、一方で、これでとどまるのかと言うと、米国の経済は、たとえ ば住宅市場を見ると、新規着工のレベルは非常に低くなっている。しかし、逆に 住宅の在庫が増えている。ケースシラー指数で見ると、住宅価格の下落スピード がやや加速している。やはり住宅市場の調整がより長く、より厳しい方向にいっ ており、ひいては米国経済全体に対するダウンサイドリスクがより強まっている とも言えなくもない状況になっている」

「金融資本市場の動きを見ると、夏場に比べると、特にマネーマーケット については少し落ち着きが見られる。資産担保コマーシャル・ペーパー(ABC P)市場の残高は減り続けているが、減り方が少しマイルドになっており、いく らか改善事項がある点ではよりクリアになっている」

「一方で、欧米の金融機関のバランスシートに損失が舞い戻ってきて、そ の発表があると、それが非常に酷であり、時にはその程度で良かったと思われる 場合と、予想より少し悪いねという場合が入り混じっていて、かえって先が少し 読みにくくなっているとみられる人もいる。少しずつ明確になりながら、先行き の不確定要因はまだ大きく引きずっているので、私どもは、不確定要因が高まっ て、それがほぼそのまま続いている、こういう状況ではないかと思っている」