コンテンツにスキップする

商品ヘッジファンドの「王者」アンダーソン氏:市場の波乱生き抜く術

世界最大の商品ヘッジファンド運用会社オ スプライ・マネジメント(ニューヨーク)を運営するドワイト・アンダーソン 氏(40)にとって、それは、アラスカでスキーを履いてヘリコプターから飛び 降りた時以来の命懸けの経験だった。

オスプライは2006年1-5月に一連の取引に失敗し、ファンドの1本を 閉鎖、旗艦ファンドである36億ドル(約4110億円)規模の「オスプライ・フ ァンド」も19%下落した。アンダーソン氏は06 年4月、5月の損失計上に触 れながら、「株式や農産物、エネルギー、貴金属、 非鉄金属市場で保有してい たすべてのポジションで損失を出した」と述べ、「非常にストレスの多い経験だ った。体中に疲れを感じた」と振り返る。

サブプライム(信用力の低い個人向け)住宅ローンのデフォルト(債務不 履行)の増加をきっかけに米信用市場が低迷したことし7、8月、オスプライ も若干の影響を受けたものの、06年当時の危機からは復活した。85億ドル以上 をヘッジファンドに投資するバンクSYZ(ジュネーブ)のポートフォリオマ ネジャー、デービッド・フリーチェ氏は「商品ヘッジファンドは、8月に非常 に困難な状況に陥った。需給に関係なく、市場関係者は現金を得るためだけに 商品を売却していた」と語る。

投資家らによると、オスプライ・ファンドは7-9月(第3四半期)に3% 下落したものの、10月中旬時点での年初来上昇率は依然、7.5%となっている。 ヘッジファンドに投資するコール・パートナーズ・アセット・マネジメント(シ カゴ)によると、商品ヘッジファンド全体の1-9月の上昇率は平均6.5%だっ た。アンダーソン氏はオスプライの7-9月の運用成績についてはコメントを 避けた。

商品ヘッジファンドの王者

アンダーソン氏が過去2年間の市場の混乱をくぐり抜けることができたの は、同氏の、商品ヘッジファンドの王者としての評判によるところが大きい。 ドイツのフェリ・インスティチューショナル・アドバイザーズのマネジングパ ートナー、ディルク・ゾーンホルツ氏は「アンダーソン氏の能力は最高だ」と 評価する。05年にオスプライの株式の20%を購入した米リーマン・ブラザーズ・ ホールディングスもアンダーソン氏を支持した。また、スイスのクレディ・ス イス・グループをはじめとする投資家らは、06年6月から07年10月までの間 に30億ドルをオスプライに投資した。

プライベート・エクイティ(PE、未公開株)やヘッジファンドの資産1340 億ドル相当を運用するクレディ・スイス(ニューヨーク)の代替投資部門責任 者、ブライアン・フィン氏は「われわれはアンダーソン氏の大変なファンだ。 彼 は、世界の素材産業や商品の世界で最高の運用者だ」と述べた。

商品相場の変動率

アンダーソン氏は、ポール・チューダー・ジョーンズ氏のヘッジファンド 運用会社、チューダー・インベストメントで、独立型ファンドとして、1999年 からオスプライの運用を開始。04年に企業として独立した。06年まではアンダ ーソン氏のファンドが損失を出すことはなかった。投資家らによると、同氏の 1999-2005年のリターン(投資収益率)は平均18%だった。

アンダーソン氏が立ち上げた最新のファンドは「スペシャル・オポチュニ ティーズ・ファンド」だ。このファンドでは06年2月以降、12億ドルを調達。 バイオ燃料生産会社や鉱山会社、木材会社、はしけ運送会社などに5000万ドル を超える直接投資を行っている。

アンダーソン氏の友人で、同氏が心酔する人物にマーク・リッチ氏(72) がいる。リッチ氏は、米国から亡命した元石油トレーダーで、現在は、スイス を拠点にヘッジファンドへの投資を行っている。リッチ氏は、アンダーソン氏 が94年から99年までジュリアン・ロバートソン氏のヘッジファンド、タイガ ー・マネジメントでトレーダーとして勤務していた時以来の知り合いだ。

オスプライ・ファンドは、原油や銅、とうもろこしなどの商品先物に投資 するほか、エネルギーや鉱業、農業などの素材産業の企業の株式も購入してい る。07年中盤にオスプライなどの商品ヘッジファンドに打撃を与えたのは、す べての市場で発生する、時に予測不可能な大幅な相場変動だった。

原油相場は8月1日に過去最高値の1バレル当たり78.77ドルに達した後、

68.63ドルまで9.5%急落。その後、再び急騰し、10月26日には92ドルと、最 高値を更新した。また、5月9日に最高値の1トン当たり5万1800ドルに達し たニッケル相場は、10月26日までに33%以上下げた。

アンダーソン氏は、変動率はさらに高まる可能性があるとみている。唯一、 最大の商品相場の変動要因となっているのは中国の需要だ。急速に経済成長を 遂げる中国は、銅やニッケル、鉛の世界最大の消費国となった。同氏は「中国 は急速な成長を遂げている。このペースで成長が続けば、われわれが人生で経 験する最大のバブルの1つが発生する可能性がある」と語る。

06年9月から07年10月末までの間に、少なくとも4社の商品ヘッジファ ンド運用会社が致命的な打撃を受けた。米JPモルガン・チェースの元エネル ギー部門責任者、ダニエル・マスターズ氏が共同設立したグローバル・アドバ イザーズ(拠点はニューヨークとロンドン)は、1-8月のリターンがマイナ ス13%となったことを受け、3本のファンドのうち2本を閉鎖した。

農産物は買い

アンダーソン氏は、06年に出した損失を、主に農産物商品の買い持ちポジ ションを増やすことによって取り戻した。アンダーソン氏は同年7月、トウモ ロコシや大豆、綿花相場が上昇するとの見通しを公表した。同氏はロンドンで の会議で「農産物の投資収益は異例の上昇率を示すだろう」と予想。「食料と燃 料需要の拡大で農産物の争奪戦が起こるだろう。これにより、農産物のリスク 調整後のリターンは最高になる」との見方を示した。

アンダーソン氏は、自身が穀物先物への投資が賢明な選択であるという確 信を得たのは、07年1月のブラジルへの出張の際だったと言う。同氏はこの時、 首都ブラジリアの南方137キロに位置する町、クリスタリーナ近くにある約1 万3000ヘクタールの農地を視察。農場主は夕食の席で、アンダーソン氏に、拡 大するトウモロコシや綿花、大豆の需要に対応できないと語った。そのうえ、 この農家では、国内のエタノール生産施設に供給するため、一部の農地をサト ウキビ生産に移行させることを計画しているという。

アンダーソン氏は「そういう時を『ひらめきの瞬間』と呼んでいる。すべ ての事象が1点に集約し、業界の事情や今後の展開の現実が見えるかのように 感じる瞬間だ。供給不足が迫っていることが分かった」と語る。同氏のほか、 オスプライのアナリストとトレーダーら39人は通常、2年単位で投資を行う。 そのうち最長で半分の期間は、投資のアイデアを練るため、農場や鉱山、製油 所を視察し、調査することに費やす。アンダーソン氏も、自身の助言者だった ロバートソン氏がそうだったように、ポートフォリオ作成のチーフマネジャー を務め、 07年1-6月には少なくとも15カ国を訪問した。

「ストレスとともに生きる」

アンダーソン氏は、顧客の資金約70億ドルを運用する業務は常に不安を伴 うと言う。「わたしは常にストレスとともに生きている。われわれは間違ってい るのではないかといつも不安だ」と語る。身長約190センチの同氏は、2年前 に結婚するまで、オートバイやスキューバダイビング、バンジージャンプ、ヘ リコプタースキーなどで日ごろのストレスを解消していた。結婚し、子供が生 まれて以降、これらのスポーツを控えている。

アンダーソン氏は、運用成績が不安定であることについて弁解はしない。 「四半期の運用成績が非常に悪かったのは、統計的確率から考えてあり得るこ とだし、われわれは常にその可能性について顧客に伝えてきた。リスクを管理 するためにできる限りのことをしており、その点では1年前より改善している と思う」と語る。

アンダーソン氏がタイガーに勤務していた当時の最初の上司で、現在では 自身のヘッジファンドを運用するボブ・ビショップ氏は、アンダーソン氏が困 難を乗り越えているのは、同氏がロバートソン氏から素晴らしい訓練を受けた あかしだと考えている。「タイガー出身者の資質の高さだ」と述べたうえで、「ド ワイトが復活できたことは、彼の性格的な強さを表している。粘り強さがすべ てを可能にした」との見方を示した。そして、それは、ヘリコプターから飛び 降りるスキーに比べれば、精神的にほんの少しだけ厳しいことなのかもしれな い。

    最新の情報は、ブルームバーグ端末にて提供中 LEARN MORE